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始原世界の中で  作者: 神原 拓
第1章 世界の始まり
28/30

ガイアとリリアは… 後編

(何だあれは・・・・)


足を止めたレイルが見たものはガイアだったが、行動を中断する理由の一つになったのははガイアの周りの虹彩。白と青で形成されていた空模様が黒く塗りつぶされていた。黒い何かはアメーバのようにガイアの後ろでうねっていた。レイルは危機を抱き足元にあった小石をガイアに向かって投げた。勢いよく投げ出された石はまっすぐにガイアに向かったが途中でガイアの周りの黒の何かにあたりねじ切れるよう曲がり粉々になった。


(嘘だろ・・・あんな短い詠唱でこんな規模の魔術を発動させるだと! 重力の婉曲で光すらも捻じ曲げているのか! 宙に浮いているのは反重力の発生の影響か)


優勢に動いていたレイルの戦闘はここに来て圧倒的不利になった。

ガイアはそんなことを思う仮面のレイルに向かい大声で言った。


「すぐさま戦闘を止めろ!理由は知らんが俺を殴ったところで何も良いことは無いぞ。この術も発動した。お前に勝ち目は無い。死にたくなければ去れ」


言ってくれるねとレイルは小さく呟きガイアを見上げる。

見るとガイアの表情にいつものような陽気さは無かった。

別人のように厳しい目つきがさらにギャップを感じさせる。


(それでこそだ)


レイルを見ていないガイアの視線にレイルは苦笑するように笑った。

いつものガイアではないことにどこか自分と似ているなと感じつつレイルは全身を奮い立たせる。


(ここから本番だ。気は抜けない、油断したらやられる)


自分に強い暗示をかけレイルはガイアに突進した。


「忠告はしたぞ」


ガイアの短い言葉がレイルの耳に届いたがレイルは走ることをやめない。

宙に浮くだけのガイアの足元に到達したレイルはガイアを地面に引きずり落とすべく行動した。携帯しているロープをガイアの足に掛けようとしたが・・・


「重力術〈架願列挙〉」


ガイアが発した言葉に反応するかのように動き出した黒い何かにロープを捻じ切られた。

しかし、ロープを捻じ切るだけでは終わらず黒い何かは本体と二つに分かれ馬の影のような形となってレイルの前に現れる。馬の影はレイルの身長をゆうに越えていた。レイルはいくら上を向いても大きすぎてその形すらも掴めない。


「・・・架願列挙。〈多彩巨獣の壁〉」


ガイアが言葉を言うと馬の大きな影はその姿を幾つもの動物に変えていった。

形が変わるたびに影が千切れ影の体積が小さくなっていく。

次第に大きな一つの塊だった影は幾つもの動物の影に姿を変えその姿を消した。


(おいおい・・・見たことも聞いたことも無いような魔術を次々と、ガイアお前何者だよ)


次々と起こる目を張るようなありえない事態との遭遇はレイルのガイアへの評価を大きく変えていく。この予想外な戦力にうれしさもあったが少し不満も感じた。


「架願列挙・・・〈色彩交錯演舞の情〉・・・終わりだ」


ガイアがそういうと動物の影はレイルに敵意を持って向かっていった。


(触れると捩れて粉砕する! 触れるわけにはいかない!)


ウサギのような小さい影がレイルに向かって真っ先に飛んできた。

レイルはすれすれでそれを避けたがウサギの行動を真似するかのように大小さまざまな動物の影がレイルに飛んで来る。


(囲まれた、なんて早さだよ! 俺が避けるのに精一杯なんて)


レイルは飛んでくる影に意識を集中しつつもガイアを視線の中に収めていた。


(ガイアは・・・疲労の兆候あり。かなり切迫した顔をしているな。やはり、魔力はだいぶ使っているか。この魔術は供給し続ける必要があるということだな。なら俺は避け続けるだけだ!)


レイルはそう結論づけガイアの存在を視界から消した。

そして完全に影の相手に集中し影のすべてを避け続けた。

体力切れを起こすのを待つレイルと一撃必殺の魔術を駆使していち早く相手を倒したいガイアの持久戦がはじまった。



そんな戦いを少し離れた木の上より客観している人物が一人。


「レイルさん頑張ってますね。ガイアもよくやります。まさか特化型重力術を使うなんて予想しませんでしたが」


特化型 魔術を使うものの中に稀に生まれる天性の才とも言える魔術の絶対的な優位性をもたらす才能。この場合は重力の特化型。その魔術のみを使えば軍隊にも引けをとらないといわれている。通常の魔術師では使えないような魔術を幼少より使えるが、反動として魔術の消費量が普段の二倍以上になり使いすぎると一ヶ月以上は動けなくなる。


「最初は肉弾戦だったのでガイアが一方的にやられていましたが、ここにきて形成は逆転・・・いや、互角でしょうか。しかし、魔力供給しなければいけないから長くは持たないでしょう。まったく魔術を使わないで魔術師であるガイアをここまで追い詰めるとは・・・でもそろそろガイアにも疲労の色が出てきていますし、レイルさんの集中力もそろそろ限界ですね。もう出るべきでしょうか?・・・おや、ガイアが何かする気ですね」


見るとガイアは腕をレイルである仮面の男に向けていた。


「あれは上級重力術ですね。少しやりすぎな気がするんですが。まあレイルさんですし多分生きてはいるでしょう」


リリアは少し心配しながらも大丈夫だろうと判断した。

その時、どこからか太鼓のような音がした。


ドン!


この音の後にさらに大きな音が聞こえてくる。


ドンドン!


リズムをつけるかのようになるその音は徐々に大きくなっていく。


ドンドンドン!


リリアはその音の発信源を見た。


(何でしょう?)


右斜め前方に見えるレイルがちらりと視界の端に映ったが音源はそこではなかった。

ならばガイアだろうかと宙に浮いているガイアを見たがやはりそこではない。

リリアは多少の疑問を抱いたがその音を無視することにした。


(あとで調べてみれば分かるでしょう)


そしてリリアの眼前の戦闘の状況は大きく変わることになる。




「架願神姫〈剥奪の女王〉!」


ガイアの大音声が響く。

その声は影を避けているレイルの耳にもしっかりと聞こえた。

〈剥奪の女王〉その言葉がレイルの耳に強く残る。

明らかな今まで以上の危険な予感にレイルは影を避け続ける動作を中止し横へ大きく跳んだ。その先に影がいるのも気にしない。

それよりも危険なものが来る。

レイルの第6感は戦闘の最中でその存在を感じ取った。

なりふり構わず横に逃げる傍らレイルは突撃してくる影たちを見た。


しめたとばかりに一斉に襲ってきた影たち。


―――もう避けられない、外さない―――


そんな気迫が見て取れる。

魔術のはずなのに擬人的に見えるその動作や仕草にレイルはどこか切なげな顔をして小さく呟いた。


「ご愁傷様」


影たちに向けたその言葉には哀れみが篭っていた。

仕草ある動物。

魔術で作った動物の影だと分かっているはずなのだがレイルの目にはそのようには映らなかった。

何度も避け続けるために集中して動作などを見ている内に本当に生きているのではないか?そんな気持ちが浮かび上がるほどに生物的な動きだった。

しかし、そんな存在もレイルに触れることなくその形を無へと還す。

動物のように雄たけびを上げる仕草をする影や苦しみにもだえる影他にもさまざまな動作をする影があったが皆一様の現象を起こしていた。

吸収される。

一言で言えばそれが適切であろう。レイルはそう思った。

ある一つのものを完成させるべく魔術のそのすべてを分解し捧げる。

レイルはガイアの真下を見た。見ると何か人型の影が出来上がっている。シルエットから見て女性だった。


「剥奪の女王か」


言葉を発した声の先。

黒い影の女性は甲冑のようなものをつけていた。

影の濃淡によりうっすらとその姿に立体感を持たせていたがよく見れば平坦のようにも見えた。


(良くできた濃淡のはっきりした絵みたいだな)


レイルの感想はこんなものだった。別に何も思わない。

さっきのような動物的な仕草はその影には無く、今見ていても分解してしまいそうなほどに儚いその影にレイルは同じ言葉を一言。


「ご愁傷様」


動物の影に言った時の哀れみはそこにはなかった。

レイルは宙に浮くガイアに目を向ける。


(限界か)


見るからにガイアは疲労しきっていた。

圧倒的な威圧感を示していた大きな影はその面積をガイアの右手の上でかろうじに残している程度だった。そして、宙に浮くガイアの高度は徐々に下がりつつあった。


「はあはあ・・・ぜえぜえ」


(尋常ではないほどの魔力を注ぎ込んだんだ。当たり前の結果か)


ガイアの足が地面についた。


「・・・そろそろいいかな?」


レイルはそういうとガイアから一気に距離をとった。

隙だらけのガイアは攻撃が来るものと構えていたが予想外の行動に大きい攻撃がくると判断した。


(次にくる攻撃で俺は負ける。剥奪の女王は魔力たらずで動かない。俺に打つ手はなし・・・)


ガイアは後退した仮面の後を目で追う。

するとそこには女性が立っていた。


(あれは…この学園の生徒か?)


ガイアの視線の先、仮面の男は天道学園の制服を着た女子生徒の後ろに控えていた。

女子生徒がガイアに向かう。顔はよく見えない。

そして片膝をついて荒い息で呼吸するガイアを見ていた女性が放った第一声は、


「やりすぎです。レイルさんもう少し加減というものを覚えた方がよろしいのでは?」


ガイアは聞いたことのある丁寧口調に自分の耳がおかしくなったのかと疑った。


(ちょっと待て、聞き間違いだ。こんなところいるはずは無い。レイルの名前も聞こえた気がしたがあいつは今頃は魔術演習の補習のはずだ。そう、こんなところにいるはずは…)


何かの間違いだと信じながらガイアは顔を伏せたままでいた。

しかし、続いて聞こえてきた声にガイアの望みはすべて否定された。


「ちょっと、リリアちゃん!俺の仮面の意味が無いんですが!?」

「何を言っているのですか。ここまで疲労させておいてこれが加減といえますか?はっきり言っていじめです」

「リリアちゃん言うこときつい! 無表情だからなおきついよ!」

「騒がしい人です。このままでは低落なコントになってしまいそうですのでさっさと本題に入りますよ」

「さらっと無視ですか! まあ、話がずれてきたしそろそろ修正しなきゃいけないか」


そういうとガイアの目の前でレイルは仮面をはずした。

今までなんだかんだと付き合ってきた友の顔が仮面から現れる。


「まずは謝罪だな。ガイアすまなかったな。まさかここまでできる奴だとは思っていなかった」

「・・・・」


ガイアはなんと言って良いのか分からず黙った。


「まあ、無視されるぐらいの事したし仕方の無い反応か。じゃあリリアちゃん。お願いします」


レイルが言うとリリアが前に出てきた。


(何を言うつもりだ。こんな戦闘に何か意味があったか?いや、ホウジョウ家の壊滅の協力のために痛めつけたのか?それなら無理なことだ。痛めつけられたことにも文句は無い。慣れているからな…)


ガイアの息はだいぶ落ち着き、顔を上げる程度の体力は戻った。


「だいぶ体力が戻ったようですね。それでこそです。では協力してくれますね?」


何にだ?という事はない。すべては分かりきっているからだ。


「俺が協力することは不可能だ。これは俺の家族の問題で…」

「厳密には姉弟でしょ?」


ガイアが言い終わらないうちに不意にリリアが喋り始めた。


「あなたに両親はもういない。いるのは姉が2人だけでしょ?」

「…」

「黙っちゃいますか。仕方ないですね。レイルさん、まだあそこにあるあの剥奪の女王を攻撃しちゃってください」

「ん?いいけど、何の意味があるの?」

「ふふふ。ガイアの心が少しだけ動揺します」

「動揺?ま、いっか。それじゃ、〈フゾク〉!」


コート内から黒い玉が飛び出し一斉に剥奪の女王を取り囲んだ。


「よ~し。まずは火術からいきますか」


こんがりジューシーにとレイルが魔術を発動しようとした。

それを見たガイアは耳を劈くような雄たけび声を上げた。


「やめろ!それだけはやめてくれ!」

「おおう…あれが動揺なのか?かなり切羽詰ってるけど」

「今は関係ありません。レイルさん早くやってください」


ガイアのことは無視してあくまでも攻撃を実行させるリリア。


「やめてぇぇぇぇええええ!」

「いやあの…ガイアが性格が変わったかのように絶叫してるんですが?」

「聞かないであげましょう。それより早く攻撃を」

「お願いです!やめてください!剥奪の女王だけは!」

「そこまで嫌なら魔術を解除すればいいのに…」

「それができないんですよ」

「できない?そんな魔術…ああ、条件付なのか」


条件付とは魔術に何らかの条件が付けてあり、その魔術が条件を満たさない限り解除できないものである。違う言い方で呪いと呼ばれることもある。


「魔術に条件付ってどんなの付けてるんだ? 何か対価でも払うのか?」

「簡単なことです。踊るのです」

「踊る?踊るってダンス? 確か、剥奪の女王でしょ? 何か奪うんじゃないの?」

「それは…」

「言うなー!」


リリアが何か喋ろうとするたびにわーわーとガイアは大声を上げた。


「うるさいですね…」

「何が何でも言わせねえ!喋らせねえ!知らせねえ!」


強い意志を持っていることが目からうかがえた。

よほど恥ずかしいことなのか?と思ったが言葉には出さない。

すると、隣にいたリリアがおもむろにレイルに


「そうですか。レイルさんやっぱり剥奪の女王攻撃してください」


リリアの指示に従いレイルは〈フゾク〉に命令。

今度は滑らかに滑々と思い水術を発動しようとした。

しかし、発動する前にガイアが土下座した。


「すいませんでした!もう何も言いません!好きに喋ってください」

「では、レイルさん攻撃中止です」

「うーん…ガイア、なんかいつもと様子が違うな。リリアちゃんもなんでそんなに楽しそうなの?」

「いーえ。ぜんぜん面白がってなんかいませんよ。ふふふふ」

「絶対楽しんでる!」

「違いますってば、そんなこと言うと剥奪の女王について話しませんよ?」

「それは困る」

「でしたらお静かに。これからガイアの羞恥物語が始まるんですから」


羞恥物語?とおもったが口にはしない。なんだか面白い予感がするぞとレイルはリリアの話に耳を傾けた。


「剥奪の女王にかかっている条件は1つ。ガイアと踊ること…1時間」

「1時間も!?」

「お静かに。ほらガイアは静かに聞いているでしょう」

「いや、なんだかもう悟りきった顔してるぞ」

「ご冗談を。では話を戻しまして、剥奪の女王のモデルになった人についてお話しましょう」

「あの、リリアちゃん?ガイアが泣きそうなんですが」

「無視で。さてレイルさん、あの剥奪の女王だれがモデルだと思います?選択肢の中から答えてください。

ガイアの

①一番上のお姉さん

②母親

③双子のお姉さん

さあどれでしょうか?」


(普通考えてみるとここは母親かな?確か両親はいないって記録魔術にあったし)


「②だ」

「残念、正解は③でした」


リリアが答えを言ったと同時に黙っていたガイアが声をあげた。


「もうやめてくれ!これ以上なにも言わないでくれ!頼むから…」

「ガイア…お前」

「俺を見るな!来るな!寄るな!近づくな!」


平常とは断じていえない。

驚き、慌てふためき、泣きそうな男に誰が平常といえたであろうか。

後ろを向き小さくなっていて顔の様子は見えないレイルだったがその様子からしてすでにガイアはおかしかった。

少し同情したレイルはリリアに説得に入るように促した。


「もう勘弁してあげようよ。俺達は説得に来ただけだろ。本来の目的から外れてる」

「私にとっては少し懐かしい話に浸ろうと思ったのですが…では、ガイア命令です。私たちに協力してください」

「命令って…俺達そんな立場じゃないだろう?」

「レイルさん。黙っててください。これで良いんですよ。従いますから」


リリアの自信たっぷりな顔にレイルは引きさがった。

ガイアは本当に従うのだろうか?と思ったがここはリリアを信じることにした。

しかし、ガイアの方を見るとガイアは何を言っているのだといったようなあっけにとられた表情でいた。


(んんっ?ガイアが困った顔でこちらを見ているぞ?リリアちゃん本当に大丈夫なのか?リリアちゃんこれはいったい?)


どういうことですか? と気持ちを込めてリリアをみた。

リリアはいつもと変わらない。ただ、笑顔でニコニコとガイアを見ていた。


「ガイア?聞こえなかったのですか?協力しなさい」

「いや…あの、嫌です」


少しおどおどしながらも拒否を示したガイア。


(ううん!?リリアちゃんの顔がさらに笑顔になった?拒否されたのになんで?)


「ガイア…本当に私をリリアと思っているのですね。がっかりです」


がっかりです。この言葉を言った本人の顔は全く残念そうではなかった。

まるで、これから起きる事態を予想し笑っているようだった。


「何を言っているんだ?俺は学園2位に繋がる接点はない。あんたとはこの学園のみの繋がりだ」

「寂しいことを言ってくれます。私の顔をよく見てください」

「みたところで変わらないぜ。俺には…いや待て。ちょっ!やめてください!剥奪の女王の攻撃はもう許して!」

「屈辱です。こんな…こんな木偶の棒と同じだとは…火術〈燃〉焼き尽くしなさい」


詠唱と命令に従い縦に伸びた火はまっすぐに剥奪の女王を狙いに定めた。

声の枯れたガイアの嘆きが響き渡る。が、その声は届かない。

剥奪の女王に火が取り付き触れるたびに火が歪み消滅する。

消えては次の火で焼いていく。

魔力が供給されていない剥奪の女王はその体を徐々に欠けさせていった。

そして、魔力が尽きてきたのか剥奪の女王はパリンと音を立てガラスのように粉々になり地面に散った。


「あああああ!俺の手掛かりがあああ!」


がっくりと首を落とし俯きながらぶつぶつと何かを言い始めるガイア。


「…手掛かり?」

「俺の…俺の姉ちゃんの手掛かりだよ」

「姉ちゃん?一番上ならナンジョウ家にいるだろう。何を言っているんだ?」

「違う!双子の姉ちゃんの方だ!誰があんな凶暴女の事なんか!」

「…苦労してるんだな」

「レイルさんお話はそこまでです。少し下がっていてください。そこのお馬鹿さんにお灸をすえねばなりませんので」


穏やかな口調がレイルの後ろから聞こえる。

同時に静かに穏やかに詠唱のような歌が聞こえてきた。

聞きほれてしまうような旋律と魅惑の歌声。

気がつくとレイルとガイアの周りには陽炎が上っていた。


「ちょっと!? 何で俺の方に魔術を発動しようとしてるんだ! 俺がまだ動けないのに卑怯だぞ!」

「リリアちゃん、この魔術確実に俺も巻き込むよね? 危ないよ!? やめようよ!」

「レイルさん…短いお付き合いでした」

「ちょっと!理由も分からないまま俺は死にたくないよ!? 泣いてるように見えるけど笑ってるよね!?」

「うるさい男は嫌われますよ。さあ、火術〈紅桜〉…あの穢れた瞳を洗い流しなさい」

「ちょっ! 戦略級をここで使うの!? 業火に焼かれて死ぬぞ!」


戦略級とはその術者の力を最大限に発揮するものである。はっきり言ってしまえば個人によりその威力は違い、どんな初心者にでも発動できるものであった。潜在意識にあるすべての才能をその魔術に費やすことで発動されるが、戦略級は術者の分身としての仮の形を現す。それは動物であり、植物であり、武器であり、防具である様々な形をとる。

能力も人によって違った。

あるものは攻撃に特化し、あるものは防御に、さらにあるものは全く能力が無かったりとその能力には個人差のよる大きな落差があった。

しかし、それでも戦略級。誰がなんと言おうと戦略級だった。

人はそれを『魔術の奇跡』と呼ぶ。

誇張などは無い。それだけの存在だった。

そして、今回リリアを現した奇跡の形は…


「嘘、夢でも見てるのか?…幻獣〈サリファ〉だと?戦略級で最高ランクに位置する分身体じゃないか!」


幻獣〈サリファ〉。現存するはずの無い絶滅した動物。白い体躯に大きな羽がありその姿はドラゴンに似ている。900年前の天変地異の際の環境変化に耐え切れず絶滅しその姿を庶民の御伽噺に登場させる。幸福と誕生を司る神としても崇められている。


「火の〈サリファ〉…」


かなり焦るレイルの隣でガイアはその幻獣をじっと凝視していた。




いままで考えていた設定がようやく出てきました。次の話でガイアとリリアの関係が分かると思います。しかし、考えてみるとこの話のタイトルは「ガイアとリリアは・・・」ですけど、この結果は次の話に持ち越しです。タイトル間違えたかな~といまさらながらに感じています。

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