片翼のサリファと再会の2人
広い庭が見える屋敷の中で少年と少女が2人で話をしている。
2人が座る間には小さな火の鳥がいた。
少年はそれを見て目を輝かせていた。
―姉ちゃん?これ名前は何なの? すっげえ綺麗だよ!
―これね、〈サリファ〉って呼ばれる幻獣なのよ。火の〈サリファ〉は情熱と希望の象徴とされているわ
―へえ~姉ちゃんはやっぱすごいな。ナンジョウ家で一番強いんでしょ?
―1番…ではないけどそこそこね。でも、この〈サリファ〉を見せたのはあなたが初めてなのよ?
―俺が!? なんか嬉しいな!
―…やっぱり、無邪気でいられるのが1番ね
―え?姉ちゃん何か言った?
―何でもないわ…そう、何でもない。ねえ、ガイア私と約束しましょう?
―約束?
―私たちの再会の約束。
―再会? どこか行くの?なんで?
―私はね、狭い篭の中よりも外を見てみたいの。広くて大きい世界よ。きっと私の知らないものがあるはずだわ。
―でも、ナンジョウ家はどうするの?
―いろいろ試して抜け出すわ。さあ、ガイア約束しましょう。
―どんな?
―まず一つはあなたがナンジョウ家でそこそこ強くなってること。
―うん。
―2つ目はこの〈サリファ〉を見たときに…
その後の言葉は聞こえない。
少年は必死に聞いていたが少女の発する声が次第に小さくなっていた。
なんとか最後にごめんね…という言葉が聞こえた気がするがその後すぐに少女は走ってどこかへ行ってしまった。火の鳥〈サリファ〉もその後を追う。
これが少年が少女と会った最後の記憶だった。
◇◇ ◇
ガイアは振り返る記憶の中で最後に姉が言った言葉をどこか遠くから来ていた。
あの時は聞こえなかった言葉の続きが今のガイアには不思議と分かる。
2つの約束のうちの一つ。
〈サリファ〉を見たら…、姉はその後に分かりにくいような表現でこう言ったのだ。
『「あなたがあなたである証拠を差し出しなさい」』
過去の姉の声と重なるかのように〈サリファ〉を支配下に置くリリアの声がガイアの耳に届いた。過去への巡礼は中断され現在に立ち戻ったガイア。過去の記憶に違わないその言葉に体は震え上がった。
恐怖によるものではない。歓喜によるものだった。
「姉ちゃん?姉ちゃんなのか?」
「さて?誰のことを言っているのでしょうね?弟の証拠が無い限り私は弟なんておりません」
冷たく返されたがそれに落胆するガイアではなかった。
ガイアには確信があった。
今目の前にいる火の〈サリファ〉には片翼しかない。
記憶の中の〈サリファ〉もそうだった。
「おいおいガイア。どうするんだよ?お前には魔力がないだろう?精神がそこまで追い込まれてるんだったら魔術の発動は難しいぞ」
「大丈夫だ。俺には〈サリファ〉の攻撃は当たらない。あの〈サリファ〉は不完全だからな」
「不完全?あの片翼のことか?」
「ああ、それに魔力がなくても発動できる魔術があるだろう?それで切り抜ければ良い」
「お前も戦略級を使うのか!? そこまでの危険をしなくていいだろう!」
「自分の分身を操れるだけの屈強な精神を持っていれば大丈夫だろ。まあ、根性だ」
「お前!」
レイルの静止は聞かずガイアは詠唱を始めた。
リリアの時のような繊細な歌声ではない。
力強い響きの歌だった。
「俺だってあの頃よりは強くなっている。姉ちゃんの前では格好よくいたいもんだ。頼むぞ、火術〈紅桜〉!」
ガイアの呼び声に反応し顕現する分身体。
「お、おい…」
レイルはその姿を見て声を失った。
いや正確にはありえない事態に声が出せなかった。
片翼のドラゴン。
煌びやかに舞う火の粉。
「火の〈サリファ〉…」
目の前に突如として2体目の〈サリファ〉が現れた。
「姉ちゃん。これだろ?2つ目の約束は」
だが、リリアは答えない。ただ微笑していた。
「1つ目の約束は俺の潜在能力に少しでも精神を近づけて屈強な精神を作り上げろという意味があって。2つ目は俺が顕現した不完全な〈サリファ〉を完全体にするためのもの。そうだろ?」
しかし、リリアはやはり答えない。その代わりにレイルが尋ねた。
「ガイアの〈サリファ〉も不完全? 戦略級の魔術に何故不完全が存在するんだ?」
魔術に不完全はありえない。
なぜならば不完全は魔術の失敗を意味し、魔術の発生を許さないものだったからだ。
上級な魔術ほど原則、不完全は存在しえない。
なぜならプロセスが厳しいぶんその魔術は完全に等しくなるからだ。
その点で言うと、戦略級は魔術の最高位にあるものであった。
これは、完全な魔術を意味する。
ありえないと考えるレイルのその疑問の答えをガイアは答えた。
「その答えは簡単だ。俺達は兄弟、姉妹じゃなく双子だからだ」
「双子?…双子!? お前ら双子だったの!? じゃあ、剥奪の女王って…」
「うるせえ!言うな!見るな!」
驚きの事実を知ったレイル。
(まさか、この2人が双子だったとは…)
と思うがそれならば辻褄は合うなと納得した。が、頭では分かっているのだがやはりレイルにはこう感じられた。
「うん。なんだか嘘にしか聞こえない!」
さらっと本心が出てしまった。
クワッとガイアが振り向いたが気にしない。
(ともあれ、不完全な〈サリファ〉が完全体になるのならその事実も認めなきゃならないわけだ。今後の状況しだいだな)
レイルは後ろに跳躍し、ガイアとリリアから距離をとった。
その意図に気付いた二人は互いに向き合う。
無言の2人、片翼の〈サリファ〉。周囲は熱で蒸し暑い。
動きの無い熱帯の中、先にガイアが動いた。
火の〈サリファ〉が咆哮をあげる。
前足を上げ相手を威嚇するような身振り。
火の粉が舞い、あたりに散る。
すると、リリアの〈サリファ〉も同じような動きをはじめた。
両の竜が行う身振り素振りに森が震える。
やがて同じよな動作が終わり、両の竜は同じような姿勢となった。
前足を高く上げ片翼を大きく広げる。
天に飛び立とうと蹴り上げる寸前の足は地面をしっかりと捉えている。
竜が叫ぶ。互いの半身を見つけて喜んでいるかのように。
ドラゴンが舞った。地面を蹴りいあげ空で踊る。
回転し、上昇し、下降し、互いにぶつかり…
ついには互いは互いを認め合い。ひとつになった。
大きな火の塊となり流星のごとく天を貫く。
音も無く火の柱が空中に現れた。
「すっげえ。綺麗なもんだな」
遠くの空に浮かぶ火の〈サリファ〉、やがて〈サリファ〉は元の主人の下へ返っていく。
2匹はいない。ただ両の翼を手に入れた、1匹の〈サリファ〉がそこにいた。
「なるほど。これで完全な〈サリファ〉か。大きさも2倍。火の粉も2倍。更には炎圧も2倍か…化け物だね。だが、これで2人は双子だということも証明された。双子は互いに同じ魔力を持って生まれるというが、あれは本当だったんだな」
納得とばかりに頷くレイル。
レイルは火の〈サリファ〉の足元にいる二人に目を向けた。
「話をする雰囲気ではないね。まったく何を話しているんだろうか?」
そんな疑問を浮かべるレイルの視線の先、ガイアとリリアは互いに相手をまっすぐに見ていた。
◇ ◇ ◇
「ガイア。強くなりましたね。約束も果たしていて私は実に清清しいです」
「…」
「どうしました?口数が少ないですね?折角の再会ですよ?」
「…」
ガイアは沈黙する。
話したくないわけではない。むしろ、積極的にこの再会を喜びたいであろう。
しかし、ガイアにはリリアに対しての1つの疑念があった。
この疑問1つのためにガイアはガムシャラに人生を送っていたといってもいい。
「ナンジョウから抜けた理由を教えろって顔してますね」
「…ああ」
あたりまえだと言おうとしたが言葉が続かない。
怒りではのせいではない。まして、嬉しさでもない。
どうにもできない感情。例えるのなら混沌だった。
混沌が頭のなかで渦を巻く。
なぜ?どうして? 反響するように言葉が頭を巡る。
―答えを教えてくれ。
切実にこう思った。しかし、自分のなかにはこの願いは叶えられないだろうなと諦めている自分もいた。相反する自分の分身たちの統括をいまだできないガイアにリリアが言う。
「ナンジョウを出た理由は簡単です。外の世界が見たかった。前にも言ったでしょう?」
古い記憶の中にあったあの時の言葉。あの時のガイアはそれで納得してしまったが今ではそれに納得するほど子供ではなかった。
「でも、それだけで出て行くなんて信じられねえよ。姉ちゃんはナンジョウで一番の才女とまで呼ばれてたんだろ!」
口から出るは過去の栄光。浮かぶは虚構のリリアの姿。美しくも儚きその姿。
ガイアにとっての姉のすべてだった。姉と過ごした時間は短くは無かったが、離れた時間も短くは無かった。ガイアは人間の習性の『忘れる』の前にはかなわなかった。
今ではうる覚えに思い出す姉の表情がどこか遠く感じるガイアだった。
「ガイア、その話はしないでください。特にレイルさんの前では」
甘い幻想も、眼前の姉には通用しない。昔は優しかったと思うガイアだったが、穴だらけの記憶に確固たる確証はなく、やはりこんな感じだったかもしれないとも思う。
「…分かったよ」
納得はしていないがこう言う他は無かった。
そんな、ガイアのどこか戸惑った感じが普段の元気という印象からかけ離れた。
元気が無いというわけではないがいつものようなハキハキした感じではない。
「元気ないですね。それじゃ、元気になってもらうためにこんな情報を教えちゃいましょう」
リリアは自分の弟に元気を取り戻してもらうためにこんなことを言った。
「実はヒヨ姉さんと内密に連絡を取り合っていたのですよ」
これで久しぶりに姉らしく接してあげられるかな?と心の中で結果を待ったリリアだったが…
「…っ!?」
思ったよりも過剰の反応を示すガイア。
戸惑った表情の顔の眉間に深いしわが現れた。
表情は困惑から恐怖に見る見るうちに変わっていく。
(足も震えてますね。血を分けた私たちの姉に対してなんて態度なんでしょうか)
とリリアは思ったが、これ以上はガイアとの会話が続かないと判断した。
リリアも久々の弟との会話を楽しんでいたかった。
しかし、楽しもうとしたのがいけなかったのか、ついついいじりたくなってもしまった。
そして、目の前のガイアの反応を見た瞬間、反射的に口が動いてしまった。
「この意味分かります?」
少し悪戯で言ってみただけなので言葉に意味は無かったはずだったのだが、
「嫌がらせか!」
後ろに後ずさりを始めたガイア。予想以上の反応に満足したリリアだった。
リリアはもう少し反応が見てみたいと言葉を続ける。
「残念です。ここまで頭が悪いとは…」
「待って、待ってくれ!ヒヨ姉にだけは何も言わないでくれ!」
「元気付けのはずでしたがここまでの効力を持っていたとはヒヨ姉さんも怖い人です。クスッ」
「ヒッ!今の笑いは何?まさかヒヨ姉に?」
「そうですね。言ってあげましょうか?」
「やめて!」
リリアはここであることを思い出した。いや、思いついた。
(ガイアの協力はもしかしたらこれでできるのでは?そうすれば説明せずとも話は円滑に進みますね)
思い出たアイデアをすぐさま実行に移すリリア。
「では条件を飲んだら言わないであげます。条件はレイルさんに協力することです」
(さてどんな反応をするのでしょう?)
ガイアは頭を抱えて悩み始めた。
しかし、ヒヨ姉の影響が強いのかすぐに答えは出た。
「うっ…でも…いや…はい。分かった。協力するから!」
思い切りのいい返事によろしいと小さく呟いた。
レイルの方を見ると〈サリファ〉の方ばかりを見ている。いかにも暇そうであった。
「では、レイルさんのところへ行きましょう。なんだか寂しそうです」
そう言うとリリアは右手を〈サリファ〉に向けた。
「おやすみなさい」
言葉と共に火の鳥はその姿を燃えさせていく。
最後には小さな火の玉になって消えた。
夏バテ気味でつらいです。早く夏終わらないかな~なんて思っています。
始原世界の一章もここから一気に終盤です。
もう早く書き上げてしまいたい!と考えているのですが体はもうすでに疲労で悲鳴をあげています。




