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002




小学校に入学すると、

花音は勉強が得意だという事がわかった。



特に得意で花音自身も好きだったのは

理科だ。



1年生の夏、一学期の終業式を終えた

花音は、学校から朝顔のプランターを

持って帰ってきた。



夏休みの宿題として、育てるようだ。



翌日から毎朝決まった時間に起きて

水をあげる事が日課となる。


毎日かかさず、自ら進んで一生懸命

世話をする姿に両親は感心していた。



花音の努力が実り、


真っ白な花が一輪咲いた。



朝顔の成長と共に娘の成長を見られて、


両親は大変喜んだ。




親心とは裏腹に、


花音は綺麗に咲く朝顔を見て

『真っ赤に染めたい』と思っていた。


彼女はとても賢い子。


療育センターに通うようになった

きっかけが血の件だとわかっている。



そして



この思いは封じ込めなきゃいけない



幼いながらに理解して、

思いを口に出すことをやめた。



あの癖が現れ始めたのは、

この頃からである。


血が見たい。

白い花を真っ赤に染めたい。



そう思うと、決まって彼女の

左腕の脈が速くなるようになった。



花音は左腕をぎゅっと抑え、

唇をかみしめながら


朝顔を見つめていた。







そんな花音の腹の内を知らぬ両親は、


あの時の娘は、他の子よりも

イヤイヤ期が強かっただけ


療育に通ったおかげでよくなった



そう信じ、深く考えなくなっていた。




花音は両親に本心を隠し続けたので、

何も問題行動が見られないまま

事件を起こした小学4年生になる。





新学期を迎えた日の夜、

父がリビングで仕事をしていた。


パソコンを打つ父の傍らには

【ほけんだより】が置かれていた。



右上には、父の名前が書かれている。


花音にはまだ読めない漢字だ。



花音「これ、パパのお名前だよね。

なんて読むの?」



父「桜佑(おうすけ)って読むんだよ。

昔、パパの家の前に子福桜っていう種類の

桜が咲いていて、その桜みたいに大きく

立派になれって意味で付けられたんだよ。

パパも名前の由来通りになりたいんだ。」



花音「素敵なお名前だね!子福桜、

花音も見てみたいな。」



パパ「よし、今年は一緒に見に行くか。

桜が咲くまでまだ時間がかかるから、

今見せてあげる。これが子福桜だよ。」



父がパソコンで検索して

見せてくれた子福桜は、


真っ白で大きく、花弁が多い花だった。



花音が知っている桜とは見た目が違って

少し戸惑ったが、


桜には種類が沢山ある事を知って

他の種類も覚えたいと思った。




次の日のお昼休み、

急いで給食を食べて図書室へ向かう。



沢山並ぶ本の中から、

木や桜が載っている図鑑を探した。


桜自体は載っていても、他の種類が

細かく載っている図鑑はなく

花音は落ち込んでいた。




花音の探究心を育ててあげたいと、


影で様子を見守っていた担任の先生は

パソコンで桜の種類を検索した。



出てきた情報をカラーコピーして、

左側に穴を開け、紐で結び、本のように

まとめて花音にプレゼントした。


花音は飛び跳ねて喜び、

先生へお礼を言って抱きついた。


早速読み始めるも、チャイムが鳴り、

お昼休みの終わりを告げた。



続きはおうちで読もうと決め、


ゆっくり読めるように宿題や

ご飯、お風呂を早く済ませた。




布団の中で寝る前に続きを読んでいると

父の名の由来である子福桜を見つけた。



花音「あ!パパの花だ!」


目当ての桜を見つけ、少し本に目を

近付けて咲く時期や特徴を眺める。



すると、子福桜の特徴の一つに


【花が散り始める頃に芯が赤くなる】


と、書かれていた。




芯が赤くなった様子の写真もあり、

花音の目には、その芯が赤い様が

とても美しく写った。



同時に頭の中では名前の由来を話す

父の声が再生される。


『パパも由来の通りになりたいんだ』




パパの願いを叶えてあげなきゃ。




花音は強くそう思った。




読み終えて本を机に置き、

布団に入って電気を消すと


しばらくしてから父が入ってきた。


いつものように花音の頭を撫で、

『愛してるよ』といい寝室を出ていく。



花音は毎日寝たフリをしていて、


この言葉を聞くのを楽しみに、

目を閉じてじっと待っていた。



これで今日も安心して眠れる。



改めてぎゅっと目を瞑る花音の体は

父の言葉で全身が火照っていた。




花音「パパ…私も愛してるわ…おやすみ。」



花音は、

父からの家族としての意味の

『愛してる』を


恋を意味する『愛してる』だと

捉えていた。



愛するパパの願い、

私が絶対叶えてあげよう



私の『愛してる』が伝わるように。



そう思いながら、眠りについた。




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