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これからの事を考えながら、出来る事をやる。

 『森の賢者様』、『迷い人』、そしてエルフになったという事、帰れないという事実。

 その事実は俺に衝撃を与えるのには十分だった。

 何より一番は、もう地球に戻れないだろうという事実だ。―—もう家族や友人達に会えないなんて考えただけでもつらい。

 そもそも急に異世界に来なければならない理由や、俺でなければならなかった理由も分からない。

 それに、これから俺自身がどんなふうに生きていくべきなのか。帰りたいという希望は帰れないと言われても捨てきれない。

 帰れなかったとして、俺がどのようにすべきなのか。

 ……考えても仕方がない事をずっと俺は考えている。

 というのも、王都からの返事はまだ来ていないのだ。グラニーさんのご厚意に甘えて、この屋敷に留まらせてもらっているが、二日ほどぼーっと考えてしまった。その後、このままでは駄目ではないかと俺は思った。なので、一先ず、何か手伝いをやらせてもらえないか聞いた。

「カグラは客人なのだから、気にしなくていい」

 そんな風に言われてしまったが、働かざる者食うべからずという言葉があるように、このままぼーっと考え事しているだけは嫌だった。それから、頼み込んで厨房や草むしりなどの手伝いを少しずつやっていた。とはいえ、俺は何かしら優れている事があるとかではないので、本当に簡単な誰でも出来る作業ばかりである。

 ついでに魔術について聞いてみたのだが、魔術は人間の中では使える人はそんなにいないそうだ。魔術師と呼ばれる人間は確かにいるが、エルフ達の方が得意であるらしい。グラニーさんも魔法は使えないそうだ。

 そのあたりも王宮からの返事が届いた後に学んでいけるだろうという事だった。

 この世界には魔術具と呼ばれる魔力の込められた道具がある。料理なども貴族だと魔術具を使うそうだ。実際にグラニーさんの屋敷にも冷蔵庫のような魔術具とかがあった。この世界が魔力があり、魔術と言うものが浸透しているからこそ、科学は発達していないようだ。

 それにしても、ずっとこの世界にいるという『森の賢者様』は文明を発達させようという気がなかったのだろうか。異世界転移ものや転生ものなんかだと、地球と同じように働きかけたりするパターンも多かった気がするけれど。

 そういう働きかけなら俺も出来たりするだろうか。

 でも一番は帰りたい、だよな。魔術なんて便利なものがあるのならば、頑張れば帰れるのではないか。体を動かさずにいるとずっと延々とそういう事ばかり考えてしまうのだ。

 だからこそ、より一層、お手伝いに力を入れた。

 数日、此処で過ごしていてもやはりいろんな実感がわかない。

 エルフという種族になったらしい。魔術が使えるらしい。そして、この世界から戻れないらしい。

 やっぱり、何処か現実味がない。俺自身、髪の色は変わってしまったとはいえ、自分の中に何か変化があったかどうかと思うと、何もないと言える。

 それなのに、此処は確かに異世界なのだ。

 そして当たり前に見ていた大切な人達の姿はない。

「カグラさん、大丈夫ですか? ぼーっとしてますよ」

「はっ、だ、大丈夫です」

 また、考えてしまっていたらしく、グラニーの家に仕えているメイドに心配されてしまった。本当にメイドなんてものが目の前にいるのも不思議で仕方がない。

 この屋敷に住んでいる人たちは俺が『迷い人』である事を知っている。でもこうやって丁寧な態度をされるのは『迷い人』で屋敷の客人であるからだけではないらしい。どうやらエルフというのはそこまで街などにいるものではないようだ。エルフの里から出ないものもそれなりにいるらしい。グラニーの治める土地はそこまで広くない事もあってエルフは定住していないようだ。

 王都にはエルフも居たりするらしいのだが……。

 エルフの里とかあるのだと思うと、少しだけ興味もわいた。『迷い人』でもエルフであるのならばエルフが住んでいる場所に行くことも出来たりするのだろうか。

 俺に魔力があるというのもいまいち、実感は出来ないけれどいつか魔術を使えるようになったりもするだろうか。

 そんな事を考えながら、気づいたらこの世界に落ちて一週間ほど経過していた。そのころにようやく王都から返信が届いたようだ。

「カグラ、王都に来てほしいという事だ。共にいこう」

「……それ、大丈夫なんですか?」

「不安そうな顔をするな。何も心配はいらない。我が国は『森の賢者様』を怒らせるような真似はしないのだ。それは最も守らなければならない教訓なのだ」

 ……本当にその地球からやってきたという『森の賢者様』ってどういう人なんだろうかとグラニーさんの言葉に思ってならなかった。地球からやってきて、長生きしていて、恐れられている。そして一国に最も守らなければならない教訓と言わしめるなんて。

 いつか、出会えたりするのだろうか。

 王都に行かなければならない事に対する不安と同時に、そんなことを俺は考えるのだった。



 そしてそれから二日後、準備をした俺はグラニーさんと共に王都に向かう事になった。




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