旅③
もう一つの大陸。
セイナさんたちハイエルフがいない大陸。それでいてセイナさんが『賢者の侵略事件』を起こした大陸。
大陸をまたいで、二つの大陸で恐怖されているなんてセイナさんは本当にすさまじい。
アースガルド大陸にたどり着いた俺は、周りから視線を浴びてしまっていた。……それもこの大陸にはそもそもエルフがほぼいないからというのもあるようだ。
元々エルフというのは、ハイエルフと人間の間に生まれた存在だ。この大陸にハイエルフが確認されていないのだから、エルフが少ないのも当然だろう。それにエルフはハイエルフの事を慕っているからこっちの大陸にあまり来ないと聞くし。逆にここには獣人や竜族の方がちらほら見れる。なんかザ・ファンタジーって感じで、俺としてみれば少しだけワクワクする。もちろん、地球に帰りたいという気持ちは大きいけれどこういうの見れたら楽しい気持ちになった。……本当にすぐに地球に帰宅出来るとか、そういうのだったらよかったんだが。
「エルフか、珍しいな」
「エルフはあの大陸からあまり出ないからな」
そんな話し声が周りから聞こえてくる。
大陸間の移動は、船という形で確立されているけれどそれは結構な危険があるようだ。この世界には魔物がいて、海の上では危険な魔物も多いのだ。
この大陸に来る間も、危険な目にもあった。
魔物が船にぶつかってきて、恐ろしい目にあったものだ。
セイナさんは、魔術による移動を簡単にこなしてしまうので、そういう危険はないようだ。というか、セイナさんの場合は船での移動でも問題がないだろうけど。
俺もずっと魔術の練習をずっとしているけれど、まだまだだ。どうにか短距離の移動はなんとなく出来るようになってきたが、物の移動の時に大惨事になってしまったことがあるので本当に気を付けてやらないと。
瞬間移動って、漫画とかではよくあるけれど……、本当に難しいのだ。移動した先に物があったら大変なことになるし、本当に短距離でしか移動が出来ないから、世界を渡るなんて夢のまた夢だ……。出来るのだろうか、なんて思うけど……それでもあきらめるわけにはいかない。
それに短距離の移動でも魔力消費が激しい。本当に世界を渡る魔術を行うのならば、魔力を回復する薬を飲みながらやらないとか……。
やはりこの大陸でエルフというのは珍しいらしく、視線を沢山浴びて落ち着かなかった。嫌な視線を向けてくるものもいた。その視線が嫌だった。
向こうの大陸ではこういう視線はあまりなかった。でもここではそういう視線もある。こちらを貶めようとしているような態度をしているものもいる。
此処はセイナさんが恐怖のどん底に落とした大陸だと聞いているけれども、人間は良くも悪くも寿命が短いから、セイナさんが暴れたことなどもう記憶の彼方なのかもしれない。
あの大陸では、エルフたちが俺に対して優しくて、エルフやハイエルフに対する畏怖と尊敬の念であふれていた。
此処でも獣人や竜族達はハイエルフに対する思い入れが強いようだが、人間はそうではないようだ。
セイナさんがこちらの大陸に来たのは、あの大陸事件の時だけだったようだからかもしれない。
そうなると、俺は余計に身を引き締めてこの大陸を見て回らなければならない。気を付けなければ……と思っていたのだけど、ちょっと人気のない所に一人で向かったらさっそくそういう問題のある人にからまれてしまった。
「エルフは本当に噂に聞く美形だな」
「これだけ綺麗なら買い手がいるかもしれねぇな」
……この大陸は、セイナさんのいる大陸より治安が悪いのだろうか。白昼堂々とこうして俺を奴隷にしようと企むなんて。
エルフというのは珍しいし、この大陸の人間の金持ちはエルフを欲しがるのかもしれない。
ただ、俺には目的があるし、愛玩動物のようにされるのは御免である。それにしても、こんな人たちばかりではないと思いたいけど、こういう人たちが街中を徘徊しているっていうのは問題だと思う。
そう思っていたら、俺を奴隷にしようと思っていた連中に石が投げられた。
「いっ……なんだ!?」
そんな声をあげる男達。彼らが視線を向けた先には石を持つ子供たちがいた。
「エルフ様に何をしているんだ!!」
「人さらいが!!」
どうやらこの子供達は、エルフに対して良い感情を持っているらしい。見れば、ケモ耳と尻尾がついている。獣人の子供たちのようだ。
「てめぇ、クソガキ!!」
「お前たちも奴隷にしてやろうか!!」
男達が逆行して子供達に向かっていくのを見て、慌てて魔術を行使した。
人を傷つける魔術は、旅を始めて二十年経ってもまだまだ慣れない。けど、こういう場合はやらなければ命が失われてしまうのだ。
俺は魔術で彼らを拘束した。
「すげぇ」
「流石、エルフ様!!」
そんな声をあげる獣人の子供たちにこの人さらいたちをどこに連れて行けばいいか聞いて、連れて行くことにした。
その後ろを獣人の子供たちはキラキラした目でついてくるのであった。




