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慈愛の賢者様の元へ 2

「ここからは馬車での移動が出来ません。なので徒歩での移動になります」

 ヤダソラン山脈の麓で馬車から降ろされた。長時間馬車に揺られたということもあって、俺は疲れ切っていた。

 ……ここからさらに徒歩か。

 『慈愛の賢者様』の元へ会いに行くまでは本当に大変なようだ。

「軽い気持ちで『慈愛の賢者様』の元へ行くものを阻むためでもあるそうですよ」

「あー……なるほど」

 わざわざこんな所に何故住まうのだろうかと思ったが、道中に聞いたように『慈愛の賢者様』の元へしょうもない理由で行こうとするものは少なからずいるらしい。

 まぁ、とてつもない力を持っている存在が『慈愛の賢者様』なんて呼ばれていれば、利用しようとするものも世の中にはいるだろう。下種な人間だと人質にとって言うことを聞かせたりもするかもしれないし。そういう事も踏まえて山奥に住んでいるのかもしれない。

 それにしても親は聖地に引きこもっていて、娘は山奥に引きこもっているって、ハイエルフって基本的に引きこもりなのだろうか……。『慈愛の賢者様』は人と関わっているけど。

「この山を登るんですか……」

「はい。ただ『慈愛の賢者様』が魔物の対処をしているのもあってあまり危険ではないですよ。道中で魔物が出ないようにしてくださっているので」

「……普通なら魔物が出るんですか?」

「はい。自然豊かな所には魔物は多く生息しておりますよ。聖地のアウグスティヌスの森に関してはそういう対処が一切されていないそうなので、魔物も多く存在していると聞きます」

「……そうなんですね」

「はい。とりあえずここで一度野営をしましょう。山を登るのは明日で」

 自然豊かなところに魔物があふれているって、俺、いきなり森にいたからグラニーさんいなかったら本当にヤバかったんだなと実感する。

 そして来訪者への対処を一切していないって、本当に聖地って人が来ない場所なんだな。入ったら最後、俺なんてすぐに死んでしまいそうな気がする。

 

 山の麓で一泊してから、山を登る。


 正直言って、それは俺にとってつらい事だった。エルフになっているらしいけど、俺にチートと呼ばれる類のものはないと言えるだろう。体力もそんなにあるわけではない。

 魔術師が身体強化の魔術をかけてくれているけれど、そこまで劇的に効果があるわけではなかった。辛いものは辛い。

 景色はとても良かった。

 魔物と呼ばれる存在の鳴き声らしきものは時々聞こえてきたけれども、魔物が目の前に現れることもない。

 木々の合間に何かが見えた気がしたけれど、他の人に言ったら何もないと言われたので気のせいかと気にしないことにした。

 『慈愛の賢者様』が道を舗装してくれているおかげで、けもの道を歩くというわけでもない。とはいえ、舗装してくれているとはいっても山道は山道だ。途中で何度も俺の足が悲鳴を上げて休憩をはさんだ。

 途中途中で野営をしながらも進んでいった。

 それにしても騎士や魔術師たちは俺ほど疲れてはないようだ。これが異世界で鍛えられている現地人と、異世界から来た『迷い人』の差かと思った。魔術師なんて後衛職だろうに……。ただ俺より疲れていないってだけで疲弊は見られているけど。

 今は『迷い人』として周りに気を使われ、守られている立場だからいいけど、何かあった時にこのままでは駄目だよな。魔法を使えるようにならなければならないし、体力だってつけなければならないと思う。

 『迷い人』だからって、守られ続ける道はどうかと思うし。いや、一番は地球に帰ることが優先なんだけれど。帰れなかった場合のこともちゃんと考えなければならないのだ。

 『慈愛の賢者様』はどんな人だろうか。そして『森の賢者様』の元へ連れて行ってくれるのだろうか。

 俺と同じ『迷い人』だという『森の賢者様』にはどうしても会いたい。帰れる可能性があるとしたらそこしかないのだから。

 もし会わせてくれないと言われたとしても、食い下がろう。まずは『森の賢者様』に会わなければどうしようもないのだから。

 おんなことを考えながら一心に足を進めた。俺が途中で休憩を多く取ったというのもあって時間はかかったがなんとかたどり着けた。

 山頂付近に、一つの家があった。

 木でできた二階建ての家だ。

「ここが、『慈愛の賢者様』の住居になります」

「……ここが」

「まずは私たちが『慈愛の賢者様』にお伺いを立てますのでお待ちください」

「はい」

 ……『慈愛の賢者様』って呼ばれる人だから話は聞いてくれるとは思うけれど、これからどうなるのだろうかとずっとドキドキしている。

 お伺いを立てに一人が扉へと向かって、ノックをする。そして扉越しに会話を交わしていた。

 それから戻ってきたその人は「中に入れてくださるそうです」と言ってくれたので、『慈愛の賢者様』の家の中に入ることになった。




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