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至高の魔女  作者: みやび
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エピローグ

あれから時は流れ・・・

俺達が帝都で暮らし初めて二年になる。


ルーチェも王妃としての生活にようやく慣れてきた今日この頃だ。

歴代の王妃とはかなり常識を逸してはいるが・・・・


もとい趣は異なるもののなんとかなっているようだ。

ルドルフがあえて修正しようとはしないので仕方がない。


周りの者がそれに慣れてきたと言った方がよいのかもしれない。

巷では跡継ぎはまだかと期待されてはいるようだが、今のところまったくその気配はない。


ルドルフは皇帝としての貫禄も十分であった。

国務も滞りなくこなし帝都での人々の暮らしは以前にも増して快適なものとなっているらしい。


ルドルフは皇帝としての世間の評判は非常に高いものであったが、唯一故郷の村に残っているルーチェの父イサンにだけはすこぶる悪いものだった。


イサンの長年の悲願であった親子水入らずの生活が、ルーチェが学園を卒業してわずか一年にも満たない短い期間であった事を未だに根に持っているらしい。


ケイトはアルバートの仕事の手伝いで毎日忙しく働いている。

アルバートは千年後の未来の人々に残す為に詳細な文献を作成しているのだ。


アルクに至っては最高神官長であるにもかかわらず、祭壇の女神様よりもケイトを崇拝する有様だ。

思いが強すぎて未だに告白すら出来ないでいるらしい。


変わった事といえば最近は使い魔としてサビ猫がブームになっているようだ。

今まで見向きもされなかったサビ猫が今では世界中で珍重されているのも不思議なものだ。


『タオ、こんなところにいたの?』


日当たりのいいテラスで昼寝をしていた俺に声を掛けてきたのは黒猫のミーアだ。


『子供達がいないのよ。いったいどこへ行ったのかしら?

あなたも少しは子供達の面倒を見てちょうだい。』


俺は4匹の子猫の父親になっていた。

母親はもちろんミーアだ。


『俺が探してくるよ』


俺は大きく背伸びをしてからテラスから飛び降りた。

くるりと回転して庭へと着地する。


あいつらはやたら元気で走り回ってちょっと目を離すといなくなる。

まったくおちおち昼寝もできやしないんだ。


さて、どこから探すか・・・・

俺は中庭のほうへ向かった。


すると・・・すぐに見付かった。

中庭を仕切っている塀の下にキャティがいた。


ケイトが考えたかわいらしい名前だ。響きもなかなかいい。

一番体の小さい白猫だ。残念ながら運動神経はイマイチだ。


他の兄弟が難なく登って越えられる塀がこいつだけ登れない。


『・・・だからこうやって歯を使って少しずつ大きくしていくんだ。』


パルスの話をキャティは真剣に聞いていた。


『おいキャティなにをしてるんだ?』


俺は後ろから声をかけた。


『あ・・おとうさん!』


キャティは振り返ってしっぽを振った。


『今、パルスさんに塀の穴の開け方を教わってたのよ。なかなか難しくて・・・・』


おいおい、いくら塀が登れないからと言って穴を開けて潜り抜けるなんて猫のする事じゃないぜ!


『こらパルス余計な事を教えるな。』


『なんだよう。頼まれたから教えてただけじゃないか。』


パルスが不満そうに言う。


『キャティお前は猫なんだ。穴を開けるなんてねずみのする事だ。

そんな事は教えて貰わなくていい。』


俺はキャティの首の後ろをやさしく咥えるとひょいとジャンプして塀を乗り越えた。

そのまま少し歩くと今度はプリシラを見つけた。


ルドルフが付けた名前だ。きっと高貴な名前に違いない。

こいつは一番機敏で運動神経に長けている。ミーアそっくりの黒猫だ。


なにやらぴょんぴょんと高いジャンプを繰り返している。なにをやってるんだろう?

その上ではサリーが低空飛行で旋回していた。


『プリシラなにをしてるんだ?』


『おとうさん!サリーさんに飛び方を教わってるのよ。

サリーさんのようにスイスイ空を飛べたらかっこいいと思って・・・・・』


『・・・・・・』


俺は呆れた。


『この子はなかなか見込みがあるわよ。これで羽さえあれば申し分ないのだけどね。』


サリー頼むからその気にさせるのはやめてくれ・・・・


『来るんだプリシラ。お母さんが心配している。』


俺はサリーに文句を言う勇気はない。

黙ってプリシラとキャティを連れてその場を離れた。


次に見つけたのはリングだ。側にはキースがいた。

一番体が大きいトラ猫のリングはアルクが名付け親だ。


なにやら輪がどうの繋がりがどーのとアルクが名前の由来を長々と小難しい説明をしていたが誰も聞いちゃいなかった。

近寄ってみるとキースの話し声が聞こえてきた。


『だから肉なんだよ。焼いたのはダメだ。血がしたたる様な生肉が一番いい・・・』


『ふ~ん・・・生肉を食べたらキースさんのように大きくなれるのかぁ』


リングの夢はキースの大きさを超える事らしい。


『いくぞリング。おかあさんが呼んでる』


『おいおい・・・話の途中で連れていくなよ。』


リングはやけにキースに気に入られているようだ。

あの無口なキースがリングの前ではなぜか雄弁になる。


『キースまたな!』


俺はキースにそう声をかけると三匹を引き連れて歩き出す。

頼みもしないのに次々と変な家庭教師が現れる。


最後の一匹は花壇の側に居た。

こいつの名付け親はルーチェだ。俺はルーチェにだけは頼みたくはなかったのだが・・・・


まだ目も見えない小さな頃、俺そっくりのサビ猫のこいつをルーチェはその手の平に載せて真剣に名前を考えていた。

その時こいつは、ずるりと滑ってコロコロとルーチェの手の平から転げ落ちたのだ。


その瞬間、こいつの名前はコロンと決定したのだった。

やっぱり・・・・いつものパターンだった。


なにやらカラスの講習を受けてるらしい。

俺は三匹を引き連れて近づいた。


「ここに栽培されてるマタタビをだなー!

兄弟四匹で分けたら一匹いくつづつなのだー?」


『全部俺のものだ!分けてなんかやるものか!』


コロンは一番食いしん坊だった・・・・・


『ずるいわ。おにいちゃん!』


『そうだぞコロン。独り占めはいけないんだぞ。』


「そう言う問題じゃなくてだなー!

ちゃんと計算して答えを出さなきゃーなのだー!」


なかなかカラスを手こずらせているようだ。

カラスからは文字と計算意外は教わるんじゃないぞ。


そいつは本当に世間には疎い奴だからな・・・・

こんな奴らが次々と俺の子供達にちょっかいを掛けてくるんだ。


教育上よろしくないのは明白だ。

俺は子供達の将来が心配でならない。


『まあ。あなた達こんな所でお勉強してたのね。なんておりこうなのかしら。

お父さんに似なくて本当によかったわ。』


ミーアが俺達を見つけて近寄ってきた。

やっぱり一言余計な事を言うミーアであった。


それでもまあ・・・俺はこんな生活が結構気に入っている。

こいつらの中からもいつか使い魔になる奴もいるだろう。


それぞれが素晴らしい出会いをする日が来るに違いない。

未来がある。あまりに当たり前過ぎてそれがどんなに大切な事か・・・・


それは赤い星を見た者にしか分からないのかもしれない。


『それは長い年月・・・たとえば千年も文明が発達すれば・・・・

元々持っていたはずの何か大切な物を失ってしまったのかもしれないわ。』


遠い日のミーアの言葉を思い出した。

また再び双子星が重なる日、人々はその大切な物を思いだせるのだろうか・・・・


俺は遠い千年後に思いを馳せるのであった。



( 完 )


最後までご愛読頂きありがとうございました。これにて「至高の魔女」は完結です。

ひたすら王道まっしぐらに書き進んでまいりました。

処女作にしてこれだけの長編はまったく無謀な挑戦でした。

思いもかけずたくさんの方に来て頂きました。

感想を下さった方、評価頂いた方、お気に入りに入れて下さった方、本当に励みになりました。

拙い文章ながらも最後まで書き上げられましたのも皆様のおかげと感謝しています。

少しエピローグがかなり先の話になりすぎた感はありますが。

もしご要望があれば小話あるいは続編等の猶予も残しておいたほうがいいかもなんてね。

なかったらどうしよう・・・・(;^ω^)

ともあれ先は未定です。

次回は関連話になるかまったく別話になるかはわかりませんが今後ともよろしくお願いします。

しばしの休憩の後、またお目にかかれたら幸いです。


最後にこの小説のモデルとなった我が家の愛猫メルが執筆の終盤で急死しました。

心ならずもこれが追悼小説となってしまいました。

命の大切さ、未来がある素晴らしさ、コンプレックスなんて吹き飛ばして強く生きていくんだぞ!

そんなメッセージを私なりに入れたつもりです。

誰かの心に響いたら嬉しく思います。

この小説を愛猫メルに捧げます。冥福を祈って・・・・




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