第29話
「それにしても、あれほど探していた人物がこれほど近くに居たなんて・・・・・
早く回復して頂きたですね。お会いするのが楽しみです。」
アルクは本当に嬉しそうであった。
「喜ぶのは早急すぎるだろう。まだそうと決まった訳ではない。
それに・・・どうも決め手に欠ける気もするんだ。」
「決め手・・・と言いますと?」
「考えてもみろ? あれほどの聖職者を世界中に配置したんだぞ。
大きな魔力の痕跡があれば必ず知らせが入るはずた。」
「確かに・・・・
今までそれらしき情報はさっぱり入ってはこなかったですね。」
「それだけの魔力を持っているなら、今までにもなんらかの痕跡があってもいいはずなんだが・・・」
ルドルフは腕を組みながら難しい顔を崩さない。
「今回の森が消えた件が初めてではありますが、それでも喜ばしい事です。
それだけの魔力を持つ者が存在したのですから。」
アルクは思った。
陛下は慎重すぎるんだ。現実にあれだけの広大な森は消えているんだ。
そんな事が出来るのは今までは殿下を除いて他にいなかった。
殿下に相当するほどの魔力の持ち主・・・・
それはずっと捜し求めていた者、それ以外に考えられないではないか。
「それはそうなんだが・・・・」
それでも曖昧な返事を返してルドルフはそのまま黙ったまま物思いに深けていく。
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あの日の記憶が蘇る。
まだ幼かったルドルフではあるが、その日の事ははっきりと覚えている。
それほど印象深い出来事であったのである。
その日は朝から城中が騒がしかった。
昨夜突然に赤い星が出現したからであった。
赤い星は日が経つにつれ大きくはっきりその存在を主張した。
いよいよその星が最後を迎える日、父である皇帝に手を引かれ教会の広場に降り立ったのである。
そこには母である王妃や重臣達、そして多くの聖職者に至るまでこれだけの面々が一堂に会するのは、かつてない事であった。
その時の天はいつも見慣れたものとはまったく違っていた。
まるで花火のようにその真っ暗な空にいくつもの流星が色とりどりの芸術を描いていたのだった。
その場にいた全員が黙って天を仰いでいた。
まるで何かの儀式のようだとルドルフは感じていてのだった。
「ルドルフ よく見ておくがいい。
長く栄えたこの帝国だが、まさか私の代で終わろうとはな・・・・」
父の声は力なく響いた。
「陛下、ルドルフはまだこんなにも幼いのです。この子に未来がないなんて・・・・」
母は泣き崩れ、ルドルフをその腕にしっかりと抱きしめた。
香の匂いだろうか・・・母の腕の中で感じたほのかに甘い香りをルドルフは今も忘れない。
「希望があるとすれば、たった1つだ。」
そう言ったまま父は天を見上げた。
そのまま長い沈黙のあと、ぽつんと天に向かって呟いた。
「探せる・・・か?」
すぐ側にいた最高神官長であるタジンが答えた。
「ここにいる者たちは皆、自分のなすべき事をわかっている者ばかりです。かならずしや・・・探し出してみせましょう。」
父はその老齢の神官長の皺だらけの顔を見て、その時はじめてふっと微笑んだ。
「そうか。頼んだぞ」
そう命じたのであった。
その同じ夜のことである。
王妃はとても信仰深い人であった。
皆が寝静まった頃を見計らって、固い決心を以て1人教会の礼拝堂に来たのである。
祭壇にある至高の魔女の像の前に跪き両手を合わせた。
「至高の女神様。どうかもう一度、この地に降り立ってこの世界をお救い下さいませ。
王家の血を引く私のこの命を代償に、この願い必ずお聞き届けくださいます様に・・・・」
それは朝夕行われる通常の祈祷ではなかった。
その尊き命を贄として大きな祈願を懸けたのであった。
王妃は持っていた懐剣をその胸に突き立てたのである。
色彩の施されていなかった至高の魔女の像はその足元を王妃の血の色で染めたのであった。
翌朝、礼拝堂を訪れた神官によってその亡骸は発見され、国中がその訃報に涙したのであった。
王妃は母として、またその帝国を治める皇帝の妻としてその責を果たしたのである。




