第28話
「なんてことでしょうねぇ・・・まったく」
ルーチェの髪を梳きながらセーラさんは憤慨していた。
「どうせ、森が消えた話をいち早く知って、皆に吹聴したいだけの不良に決まってますよ。
今後はけっして関わってはいけませんよ。」
戻ってきた俺達の姿を見たセーラさんは呆れたように口をぽかーんと開けていた。
それから俺とルーチェを風呂場に連れて行き、ごしごしと洗ったのだった。
「でも・・・そんなに悪い人には見えなかったわ。」
ルーチェは庇うようにそう言った。
それに失敗したのは自分なのだと・・・・・
自らもカボチャだらけの姿だと言うのに怒りもせず、ルーチェの髪についたカボチャの欠片を払ってくれたルドルフ。
そしてその手はとてもやさしかった。
「お嬢様が世間知らずなのをいい事に・・・・
大丈夫ですよ。私が守って差し上げますとも。
今度、そのルドって人が来たら私がとっちめてやるわ。」
セーラさんの決心は固かったのだが・・・
残念ながらその言葉どおり実行する機会はその後なかった。
しばらくして前日と同じく、やはり山ほどもある大量のカボチャが届けられたのは言うまでもない。
セーラさんはその保存魔法を施すのに忙しく時間を費やしたのだった。
結局あの場にいた者で被害を免れたのは、扉の裏に隠れたミーアだけだ。
「ごめんなさい」
謝るルーチェにルドは、しばらく放心状態の様だったが・・・・
それでも気を取り直して、畏まるルーチェの頭に付いたカボチャの欠片を払ってやった。
そして俺の方を無言でじーっと長い間見つめていた。
テラスの惨状を気にするルーチェにこのままでいいからと制して、住居に戻るように促した。
「私も着替えに戻るとしよう。」
そう言って消えたのであった。
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ここは帝都の中心でもある城に隣接する教会である。
巨大なその建物の内部は壁一面から天井に至るまでみごとなリリーフが施され、見るものすべての目をすばらしい芸術で楽しませてくれるに違いない仕様であった。
いくつもの部屋とフロアに分かれており、それぞれに置かれた調度品すらどれもが名のある匠の作であろうと思われる豪華なものである。
その最奥にある一番広い部屋が礼拝堂である。
正面の祭壇にはこの世界で崇拝されている神である「至高の魔女」の像が祭られていた。
天を仰ぎ手を伸ばしたその肢体は美しく、まるで生きているかの様に精巧な作りである。
その長い髪と美しい姿は鮮明に残ってはいるものの、作られたのが当時の物とあって残念ながら色彩は施されてはいなかった。
約1000年前にこの世界を救ったと言われるこの魔女の強大な魔力は伝説として語り継がれ、今もこの世界の人々の信仰ともなっているのである。
しかしこの祭壇の像を拝む事が出来るのは、高い地位の聖職者かあるいは皇族のみという限られた者達だけである。
こんな深夜では誰も礼拝者はいなかった。
しんと静まり返ったその場所で、それでも響かぬ様にと慎重に声を潜めて話す二人の姿があった。
白髪で鋭い目を持つ青年である。
肩にはその使い魔である白鳩が止まっている。
「この度の失態申し訳ありません。」
「せっかくの機会を無駄にしよって、お前は私の期待を裏切るのか?」
そろそろ初老に差しかかろうかといえる年齢の恰幅のいい男が、いまいましそうに顔を歪める。
その服装は高貴な聖職者にのみ許された、金糸が首元と袖口に織り込まれた上質な祭服である。
「ただの小娘とみくびっておりましたが、今度こそ仕留めて見せます。」
「そのように軽々しい事を!
城内の療養所では警備が厳しすぎて手は出せぬぞ。
ましてやこれほど噂が広まっては皆の注目を浴びてますます難しいものであろう。」
青年の言い訳に、初老の男はますます怒りを露にした。
「ですが、私に良案がございます。必ずご期待に沿えるかと。
今しばらくご辛抱を・・・・」
許しを請うように青年は男の前に膝をつき深く頭をさげた。
それを横目で見ながらも、初老の男は背を向けたまま振り向くことすらしなかった。
「ほう。では今度こそ・・私をがっかりさせるでないぞ。」
「御意」
そう言い終わると青年と白鳩はそのまま移転で姿を消した。
残された男はゆっくり周りを警戒する様に見回してから、何事もなかったかのように礼拝堂を後にした。




