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至高の魔女  作者: みやび
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第27話

アルクは執務室で1人仕事に励んでいた。

めずらしくルドルフがやり残した机の上の山積みの書類を、1枚づつ丁寧に目を通していたのだった。


あとはルドルフのサインさえあれば片が付く。

どこかへ消えたルドルフの負担を少しでも軽減するべく作業を進めていたのである。


行き先も言わず消えたのだから、城内を出ることはまず考えられない。

こんな事は過去にも何度もあった事だ。


前回は皇室の庭園で1人ポツンとなにやら考え事をしていた。

殿下だって1人で居たい時だってあるだろう。


そんな事を考えながら、アルクは次の書類に目を通そうとしたその時だった。

目の前にいきなりルドルフが現れたのだ。


瞬間移動を自由自在に操るルドルフだ。

突然消えたり現れたりと言った事は日常茶飯事である。


そんな事にはアルクは慣れているのでいちいち動じるはずはない。

だがその時のアルクはひどく驚いた。


「殿下!何があったんですか?」


そこに現れたルドルフの姿があまりにも異様だったからである。

その美しい白銀の髪にも、高級な上着にも、整った顔に至るまで全身に、なにやら黄色い物がぺっとりと張り付いていたからである。


「・・・・・・・・」


ルドルフは無言で答えようとしない。

ただ眉間に皺を寄せ、こめかみに手を当てて首を振るだけであった。


『私は上空にいてよかったわ。そんなものがこの翼に着いたんでは、うまく飛べないところだったわよ。』


遅れて現れたサリーがそう言った。


アルクはその異様な黄色い物体を確認しようとルドルフに近づいた。

それは・・・どう見てもカボチャを塗りたくったとしか見えなかった。


とりあえず危険はなさそうだった。

ただルドルフの全身から感じられるオーラからはとても危険なものを感じた。


「すぐに着替えを用意させましょう。」


アルクは逃げるように執務室を出たのであった。


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侍女達の献身的な努力で、すっかり身綺麗になったルドルフは執務室のソファでくつろいでいた。

先ほど侍女が淹れてくれたお茶を優雅な仕草で飲んでいた。


「どうして防御魔法をお使いにならなかったのですか?」


向かいの椅子でお茶を飲みながらアルクは聞いた。


「・・・油断していたからだ。」


ルドルフがぶっきらぼうに答える。


「油断・・・・ですか?」


突然降ってきた雨ですら一滴たりともその身に当たったことすらない、その防御本能の優れたルドルフはおよそ油断という言葉からは一番ほど遠い人物である。

アルクとしてはルドルフからそんな言葉が出る事すら意外であった。


「まさか、あんな単純な事が失敗するとは思いもしなかったんだ。

それと少し気を取られた事もあって・・・・」


「ほう・・・気を取られた事とは?」


アルクは身を乗り出して興味を示した。


「ルーチェの使い魔はやはりミーアではなかった。

タオとか言うあのサビ猫のほうだ。」


「・・まさか!」


アルクは驚いた。あんなサビ猫が使い魔だなんて・・・・・・

未だかつてサビ猫が使い魔だなんて聞いたこともない。


「その、まさか・・・だ。」


ルドルフが念を押すように言ったが、まだアルクは自分の耳を疑うほどだった。


「ありえませんね・・・・。

でもそうだったなら失敗もやむをえないですね。」


あれほどの黒髪と黒い瞳なのだから、それなりの魔力も持っていただろうに・・・・

なんともったいない事だ。


アルクは昨日出合った少女の姿を思い出しながら残念に思った。


「でもそうなると、やはり森を消したのはケイトで間違いないですね。

調査の手間が省けて助かりました。」


「そうだな・・・・」


それでまず間違いはないだろうと相槌を打ちながらもルドルフは何かひっかかる気がした。

ルーチェが魔力を使った時、ほんの一瞬だがその魔力の流れが気になったのだ。


何か通常と違う気がしたのだが・・・・・

それともルーチェの魔力の使い方があまりにも無茶苦茶だったからそう感じただけなのだろうか。

やはり考えすぎだろう。


いくら本人に才能があっても使い魔があれなら、たいした力も出せまい。

ましてやカボチャの件で、その本人にすらセンスの欠片も見当たらない事は実証済みだ。


アルクは話の途中で急に黙り込んで何やら考えにふけるルドルフを見ていた。


まだ何か気になる事でもあるのだろうか?

彼女の何がいつも冷静で的確な判断をする殿下の気持ちを乱しているのだろうか?


アルクには普通の、ただの清純な少女にしか見えなかった。


ふと手にもったティーカップの中身を確認する。

ティーカップの中には飲みかけのお茶が半分ほど残っていた。


アルクは突然そのお茶をルドルフを狙って浴びせかけた。

考えにふけっていたルドルフは振り向きもしなかった。


しかしそのお茶はやはり一滴たりともルドルフに当たりはしなかったのだった。

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