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至高の魔女  作者: みやび
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第25話

机の上に山ほど積み上げられた書類を前にルドルフは溜息をついていた。

このところほとんど仕事は進んでいなかった。


なんとか集中しようと筆は取るのだが、どういう訳かすぐに思考が他へ移ってしまうのだった。

そうして終わるどころか、どんどん貯まっていく仕事にイラついてもいた。


長年、側に仕えてきたアルクから見てもそんなルドルフの状態はめずらしいものだった。

いつもなら行動的で決断の早いルドルフはサクサクと驚異的なスピードで仕事をこなしてしまうのだ。


あの日、アルバートの住居に出向いて帰ってきてからずっとこの調子なのである。

結局あの日も肝心の東の森が消えた件の調査は何も出来ていない状態のままだ。


仕事の量を少し調整したほうがいいかもしれないと考えながらアルクは聞いた。


「なにか気になる事でも?」


「そうだな。気になる事といえば、なぜ闇の魔法使いばかりが狙われる?

しかも少年少女ばかりが・・・・・」


アルクの問いかけに持っていた筆を置いてルドルフはその端正な顔を上げた。


「そっちですか・・・・

私はルーチェのことで何か気がかりでもあるのかと思ったのですけれどね。」


「ルーチェか・・・・あいつはとても非常識な奴だ。」


立て続けに起こった初めてだらけのの出来事を思い出したのかその顔を歪める。


「だが、気になる事はいくつかあるんだ。

あのおどおどした態度は何か隠し事でもあるんだろうか?」


これについては、ルーチェはただお金の心配をしていただけであるのだが、皇室生まれでお金の計算などしたことのないルドルフには計り知れるはずもない事であった。


「それにあの黒猫も変だ。」


「ケイトの使い魔のミーアですか?

あれだけの漆黒の黒猫はめずらしいですね。

しかもその毛並みは艶々で、すばらしいと私は思いましたけれど・・・?」


アルクはルドルフが言いたい事の真意を図りかね首をかしげた。


「うむ。それだけ優秀な使い魔だということだ。

それほどの使い魔が、なぜ主の元を離れていられるんだ?」


そこまで聞いてアルクはハッとした。

もしアルクが意識不明だったとしてもキースはアルクの側をけっして離れることはない。


それをもし強制的にでもアルクから遠ざけたとしたら・・・・・

たちまちキースは制御不能となり大変な被害が出ることになるだろう。


まるで野生に戻ったように誰の指示にも従うことはけっしてない。

優秀な使い魔ほどこの傾向は顕著に現れるはずである。


「サリーにしても私から離されたりしたら、野生に戻り誰の指示にも従うはずがない。

それなのにあの黒猫は主から離れたばかりか、ルーチェの指示に従っていたんだ。」


「そういえば、入り口ではルーチェを守ろうとすらしていたな・・・・・

なるほど、使い魔を預けるなんて元々不可能な事のはずだ。」


そう考えると確かに謎であることに気づいたアルクであった。


ミーアの横ではタオもルーチェを守ろうとしていたのだが、この二人にはタオの事など論外であった。

その眼中にも入ってはいなかった。


「もしかして、本当はミーアはルーチェの使い魔じゃないのか?

それとも、見掛け倒しのとんでもないできそこないの使い魔なのか・・・」


腕を組んで、色々な可能性を頭の中で組み立ててみるが、どうもしっくりとくる答えは見当たらない。

どう考えてもやっぱり腑に落ちないルドルフなのであった。


ミーアはできそこないの使い魔などではけっしてない。

正真正銘、むしろ稀にみるほどのとても優秀な使い魔だ。


そんなミーアなのだから当然、本来なら誰の指示にも従わなかったはずだ。


もしルーチェでなかったなら付いて行く事もなければ、ましてや指示に従うなどありえなかっただろう。

それがたとえケイトの父親のアルバートであったとしてもだ。


療養所で追い出された後、ミーアならいくらでも忍び込んでケイトの元に戻れたはずだし、またその姿を見咎められたとしてもそれ以上追い出されることもなかったであろう。


でもミーアはそうはしなかった。ルーチェの指示に従い、その後を付いていった。

そうしておとなしくケイトが戻るのを待っているのである。


それはミーアにとってルーチェは母親であり、一度はその使い魔となり、一生を共に過ごす覚悟を決めた間柄であったからこそ可能となった特別なものだった。


これが逆にタオであったとしたら、けっしてルーチェの側を離れようとしないだろう。

たとえ追い出されたとしても、隙をみてはルーチェのベットに戻ろうとする努力は怠らない。

タオとケイトの間にそういった関係が成り立っていないのだから、結果はまったく違ったものとなっていただろう。


そういった特別な信頼関係であることを当の本人達は気づいてもいなかった。

それはごく通常の事として長い時間をかけて培われてきたものだったからである。


やはりもっと踏み込んだ調査が必要だな・・・・


「ちょっと行って来る。」


おもむろに立ち上がったルドルフはそう言い残すと、すっと消えた。

1人取り残されたアルクは呆然としていた。


「えっ? どこへ・・・・・・」


誰もいない部屋にその声は響いたのだった。


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