第23話
「まったく、非常識よね・・・・」
バララッタを口いっぱいに含みながらルーチェは、手にもったスプーンを置いた。
すでに5つ目のバララッタを平らげていた。
部屋には山ほどもある大量のバララッタが積まれている。
これでも最初に持ち込まれた量の半分である。
残りの半分は療養所の方に運ばれた。
療養所の方でもきっと扱いに迷惑したであろう事は容易に想像できた。
二人が消えてからほどなくして、大量のバララッタが届けられたのだ。
ルーチェがルドに渡したはずの小袋も開けられた様子もなく一緒に届いた。
「セーラさんが保存魔法を施してくれたからよかったものの、こんなにたくさんのバララッタを買うなんて。
ルドも相当バララッタが気に入ったのね。」
とんでもない勘違いであった。
「でもお金持ちのやる事ってわからないわ。加減というものを知らないのよきっと・・・・」
ルーチェはそう言いながら6コ目のバララッタに手を伸ばしていた。
『ルーチェったら、そんなに食べたら太ってしまうわよ。』
そう言ったミーアも2個は平らげていた。
俺は1個食べただけでその甘さに虫が逆らいそうになったというのに・・・・
「そんなに食べては、夕食が食べられなくなっちゃいますよ。
今夜は私の自慢のパイを焼いているんですからね、そっちをしっかり食べてもらわなくてはね。」
セーラさんにしっかり叱られるルーチェだった。
「それから勝手に知らない人を部屋に入れてはダメですよ。
たまたま、そのルドさんとやらは良い人だったかもしれないけど、用心にこしたことはありませんからね。」
もしもこの時アルクの名前が出ていれば、すぐに誰の事であるかわかったセーラではあるが・・・・
ルドという名前にはさっぱり心当たりがなかった。
どこぞの貴族の子息が興味半分に東の森が消えた話を聞きに来たのかと思ったのだ。
それほどに噂は広まり、皆が興味を持っている事を知っていたからだ。
まさか自分が留守の間に、皇太子殿下が直々にこの部屋に訪れていたなんて想像すらしなかったのである。
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その夜、アルバートは戻ってきた。カラスも一緒だ。
仕事帰りに療養所にいるケイトの元に寄って来たらしい。
「ルーチェが届けてくれたバララッタを喜んでいたよ。少し食欲が戻ったようでね。
男親はこういう時、役に立たないもんだ。」
アルバートの目の下にはくっきりとクマが出来ていた。
このところケイトに付きっ切りだったのだ。
仕事がずいぶん貯まっていたのだろう。
夕べ帰ってこなかったのもその為だったのかもしれないと俺は思った。
「それに私は仕事でもある研究に一度着手してしまうと、ついつい時間も忘れてしまうのでね。
昨夜もそれでついうっかり。早く帰ってくるつもりだったのに・・・」
『ついうっかりで俺達の事はすっかり忘れられたんだな・・・』
俺はガックリと頭垂れた。
アルバートは見た目は立派な紳士で、周りの者からもとても尊敬されてはいる。
しかし、その実態はかなり性格的に問題がありそうだ。
「アルバートはなー! 時間だけじゃないんだぞー!
食事だってなんだって、ぜーんぶ忘れてしまうんだぞー!」
カラスが自慢げに胸を張って言う。こいつもかなり問題がありそうだ。
『バカなカラスのことは無視しましょうよ。』
ミーアが呆れたようにそう言った。
「なんだとー! バカって言ったなー!
俺は優秀だー! 頭がいいんだぞー!
主としか話せないお前らと違って、俺は誰とでも話せるんだからなー!」
確かに通常は主としか話せない使い魔だが、オウムやセキセイインコ等の一部の鳥類においては主以外に誰とでも話が出来るという貴重なスキルを持っている使い魔がいる。
もちろんカラスもその一匹であることは間違いない。
『その貴重なスキルを、最大限に無駄に使ってるだけのバカにすぎないわ。』
ミーア得意の毒舌であった。
どうやらミーアの攻撃対象はカラスのほうに向かったようだった。
カラスお前はなかなか役に立つ奴だ。
俺はカラスの意外な存在価値をこの時、見出したのだった。
暗いと思っていたこの先の暮らしに一筋の光が見えた気がした。




