【番外編】忘れえぬ思い(2)
女性のような美しさを持つケイン大公との挨拶は、十五分程で終わった。この後、皇帝陛下夫妻を交えての昼食会もある。
よってケイン大公は、自身の就任の経緯とこれからも帝国と友好関係を深めたいことを表明し、その後はヴァルドの婚約を祝う言葉をシンプルに伝えてくれた。
「ではこの後、皇帝陛下同席の昼食会もあります。そちらでまたお会いしましょう」
「はい。殿下。拝謁のお時間をいただき、ありがとうございます」
ケイン大公は礼儀正しく頭を下げ、謁見は無事終了。
ヴァルドにエスコートされ、謁見の間を出た。
このまま一旦、皇宮に戻り、昼食会まで時間がある。
一方のヴァルドは執務が待っているだろう。ならば私はフロストの様子を見に行こうと思ったが……。
「ミア」とヴァルドに呼ばれ、腰を抱き寄せられたと思ったら。
パタンと閉じる扉の音。
「!?」
宮殿にはいくつも部屋があるが、ここは……応接室では?
カチャリと音がして、ヴァルドが扉がの内鍵をかけている。
室内にはリカは勿論、コスタ、ソードマスターであり、ヴァルドの護衛をしているマッドの姿もない。
「ヴァルド、どうしたのですか……?」
扉を背にした私はキョトンとした状態でヴァルドと向き合っていた。
するとヴァルドは前世で言うならまさに壁ドンをした状態で、私に顔を近づける。
急にそんなことをされてはドキッとしてしまう。
さらにそのまま近づけられた顔は、私の耳元でこんなことをささやく。
「こうして欲しいと願ったのでは?」
清楚な石鹸の香りと共に、ヴァルドの息が耳にかかり、心拍数は急上昇。
しかもその手はドレスの上から腰の辺りに触れているのだ。
「ヴ、ヴァルド……」
「この正装した純白の軍服が、お気に召したのかな?」
「!」
つがい婚姻による共鳴。
フロストであれ、ヴァルドであれ、特に二人が強く感情を吐露しない限り、私は関知できない。共鳴にまだ慣れていない……からかもしれない。
対してヴァルドは、すぐに私の心の動きに呼応する。
……違うわ。
表面的には普通にしていても、心の中ですぐに私は反応してしまう。しかも割と喜怒哀楽を豊かに出してしまうのだ、心の中では!
つまり。
儀礼用の軍服で正装したヴァルドに抱かれたいと思ったことも……バレている!
「妻の望みに応えること。それは夫の役目と思うが?」
「で、ですが……今は昼間ですよ? それにこの後、大公との昼食会が……。それに執務は? みんなも驚い」
キスをされてしまうと。
冷静な判断なんてできなくなってしまう。
しかも口でゴチャゴチャ言っているが、本心は……今のこのシチュエーションにとんでもなく興奮してしまっている……!
「誰も邪魔はしない。すべきことはしている。文句も言わせない」
そう言いながらヴァルドがドレスのスカートをグッとたくしあげる。
首筋へのキスも同時進行なので、もう息が荒くなり、冷静な思考などできるわけがない!
「でも……声は抑えた方がいいかもしれない。扉の向こうで、皆、聞き耳を立てているかもしれないぞ?」
そんな!
ヴァルドにこんな風に触れられ、声を出すのがダメだなんて!
だがそんな縛りさえ、今の気分を盛り上げるスパイスになっているようで。
「……こんなにも興奮して。そんなにわたしが欲しいのか?」
ヴァルドの言葉にさらに感度が良好になってしまうが。
「!」
心臓が止まりそうだった。
だってここは応接室であり、まだ日中。レースのカーテンは日よけのために引かれているが……。
窓から見える中庭の向こうは回廊が見えている。
そこには……あの見目麗しいケイン大公の姿が……!
も、もしかして見られているのでは!?
この世界、前世のように室内を見えにくくするミラーレースカーテンなんてないのだ。
「ミア、急にそんなに力をいれるな」
「で、でも、ヴァルド、窓から誰かに見られるかもしれないわ」
「わたしは別に構わないが」
「え!」
さらに力が入ってしまい、ヴァルドは「きつい……」と言うが、それは仕方ないと思います!
「中庭には警備兵もいる。立ち止まり、じっとこの部屋を覗き見するなんて、できない」
その言葉に、再度窓を見ると、確かに大公の姿はもうない。そして回廊を通る人達は、いちいち立ち止まり、こちらを見ることもなかった。
「わたしより、外を気にする余裕があるのだな」
「そ、そんなことは……あっ」
その後はもう、私に余計なことを考える暇を与えてくれない、ヴァルドの溺愛が待っていた。






















































