【番外編】ピクニック(7/7)
「マァマ、パァパ~!」
遂に初代皇帝の魔術工房から出ることができた。
開いた扉の先で、みんな心配そうに待ってくれている。
皇帝陛下に抱かれたフロストは、今にも落ちそうな勢いで、ヴァルドと私の方へ手を伸ばす。
慌てて駆け寄り、ヴァルドがフロストを受け止める。
「二人とも無事でよかった」
「本当に。心配したわ」
「急に二人の姿が見えなくなって、焦りましたよ!」
皇帝陛下夫妻とソードマスターのマッドにそう言われながら、ヴァルドと私は初代皇帝の魔術工房で何が起きたのかを話すことになった。
でもまずは昼食をしてから。
もうアフタヌーンティーに近い時間で、お腹はぺこぺこ。
でも最高級の料理を青空の下、いただくことができた。
「なんと! この工房で失踪したと言われている五代目皇帝は、暗殺されていたのか!? それは確かなのか!?」
「はい。皇帝を示す指輪をつけていましたし、書置きの手紙も残されていました」
ヴァルドの報告に皇帝陛下は驚きつつも、「物置小屋に皇帝の遺体を放置はできない。何とか回収できないか」となる。既に仕掛けとその対応も分かるので、そこはソードマスターのマッドを中心に、遺体回収チームが編成されることになった。
「しかし、なぜ自分だけ、外に出られ、お二人はブラックドックに導かれたのでしょう?」
私達を見守りながら考え込むマッドに、ヴァルドは自身の考えを伝えた。
「十字路に現れると言われる霊的な存在。それがブラックドックだ。その存在を信じているか、信じていないかで、その姿は……見える者、見えない者に分かれるのだろう。だがそれだけではないと思う。そこにいるという意識があるか、ないかでも違ってくるはずだ」
「ということはつまり……」
顎に手を当て思案するマッドに、ヴァルドは持論の展開を続ける。
「まずマッドは、あの場所がノードになっており、まさにそこが十字路であることを、気にも留めていなかった。ましてやブラックドックのことなど頭に浮かんでいない。そこにいるなんて想像もしていなかった。だからこそすんなり、外へ出られたのかもしれない。対してわたしとミアは、ここにブラックドックがいるかもしれない――そう認識してしまったから、その姿が見え、導かれることになったのかもしれない」
「え、それではあのブラックドックは、初代皇帝の魔術で見えた幻影ではなく、本物のブラックドックだったということですか!?」
驚く私にヴァルドはあっさりこう告げる。
「初代皇帝は、自身の魔術工房で子孫が暗殺され、その遺体が隠されることなんて想定していないはず。つまりブラックドックが現れる魔術なんて、掛けていないだろう。それに最後に、父上の飼い犬だったロンが逃げ出したと思われる穴から姿を消し……その後、もう私達の前にブラックドックは現れていない。消えてしまった。案内の役目を終えたということで、姿を消したのだろう。わたしはこれまで霊的な存在を強く信じるわけではなかったが……。今回の出来事は、そういうことだと思う」
すると皇帝陛下まで、こんなことを言う。
「ヴァルドとミアは見ることが出来て、マッドは見ることはなかった。ブラックドックが見えるのは、その当事者に関わる人だと伝えられている。五代目皇帝の子孫であるヴァルドが、その姿を見ることになった。だがこれは当然のこと。さらにミアは既にヴァルドとつがい婚姻の夫婦仲だ。皇族の一人になっている。ゆえにブラックドックの姿が見えたのであろう」
これを聞いた私は、今更だが鳥肌を立てている。
ホラーは得意というわけではない。
それにこれまで霊的なものを見たことがないのだ。
まさか都市伝説として、あまりにも有名なブラックドックを見てしまうなんて……。
ただ、ブラックドックは死の象徴だったり、悪魔に例えられることもあるのだ。さらに子供に不要な外出をさせないため、ブラックドックに食べられる……なんて伝承もある。
そちらの意味で現れたのなら、いくらでもガタブルだろう。
でも今回は違う。
五体目皇帝の遺体の場所を教えてくれたのだ。
多くの失踪した人々の真実を教えてくれた。
まさに案内役として現れてくれたのだから……。
霊的なものを見てしまったと、過剰に怖がらなくていいのかもしれない。
そう思っていたら。
ヴァルドと目が合う。
さらにヴァルドは口元に、何とも言えない甘い笑みを浮かべている。
これにはなんだかドキドキしてしまい、ブラックドックによる怖い気持ちは、すぐに忘れてしまう。
「とんだピクニックになってしまったが、五代目皇帝の死の真相が判明したことは、大きな収穫だ。ジョルナンド侯爵なんて聞いたことがない。既に途絶えた一族なのだろうが……。この後、調査チームを組み、そちらも調べるとしよう。子孫がいるなら苦言の一つでも言ってやらんとな。もはや時効で罪には問えないが。……すべては宮殿へ戻ってからだ。では帰るぞ」
皇帝陛下がこの場を締め括り、波乱万丈なピクニックは終了となる。
そしてその日の夜――。
ヴァルドと私は、二人とも白いバスローブを着て、ソファで寛ぎ、ナイトティーを飲んでいた。するとヴァルドがとんでもないことを言い出す。
「ミアはあんな状況だというのに、わたしに抱かれたいと思っていたのか」
「! まさか」
「魔力の強い初代皇帝の魔術工房に閉じ込められた。トラップのような魔術も発動している。さらにブラックドックまで現れたんだ。ミアに何かあった時、いち早く動く必要がある。つがい婚姻による共鳴を強く感じ取れるよう、意識していた」
つまりヴァルドに突然キスをされた後、私がなんだかウズウズしていたことが……バレている……!
ここはもう羞恥で全身が熱くなってしまう。
「恥ずかしがる必要はない。わたしだってあの時のキスで、ミアのことを抱きたいと思っていた。それはミアの体にも、共鳴により、伝わっていたのかもしれない」
そんなことを言いながら、ヴァルドに触れられると……。
すぐに息が上がり、全身が痺れるように震えてしまう。
「ミア」と名を呼ばれ、ベッドへと向かうと――。
春の宵。
私の体はヴァルドの愛にとろけていく。
お読みいただき、ありがとうございます!
お次は、ならではエピソードと
ヴァルドの素敵な●●姿で
あんなこと♡が描かれます(//∇//)
新キャラも登場しますよ~☆彡






















































