終わり
私がいい香りにひかれ、ついヴァルドに体を近づけてしまったから……。
ティーカップを手に取ろうとしていたヴァルドは、カップを取らず、私を抱き寄せた。
「なんだ。甘えたいのか?」
「!? ち、ちが」
「違う」と言おうとしたが、ヴァルドのアイリス色の瞳が寂しそうに曇っている。
「違う」と言ったら絶望してしまいそうだ。
「……甘えたいです」
かなり小声で答えると、ヴァルドは聞こえなかったようで、私の口元に耳を近づける。他人の耳なんて気にしたことがなかった。でも改めてヴァルドの耳を見ると、なんだか形がいい。思わず耳朶に触れると、お餅みたいにぷにぷにして、そしてヒンヤリして気持ちよかった。
「……ミア」
ヴァルドがなんとも甘い声で囁き、私の首筋へキスをする。
今度は私が、甘い驚きの声を出す番だった。
これにはメイド達がクスクスと笑い、部屋から出て行く。
「まったくミアは、魅了魔術が発動していないのに、随分と積極的だ」
「! そんな! 耳朶はたまたまです。なんだか触り心地がよくて……ひゃっ!」
さっきのお返しとばかりに、ヴァルドが耳朶にキスをする。しかも温かい息が耳と首筋にかかり、なんだかたまらなくなってしまう。
「紅茶はもういい。ベッドへ行こう」
掠れたような声で囁かれては、「え、待って」とは言えない。
声も出せず、こくこく頷く。
するとヴァルドは、いとも簡単に私のことを抱き上げた。
「……軽いな。ミア、もっとちゃんと食べないとダメだ」
「そ、そんなことないですよ。ヴァルドが鍛えているから、軽く感じているだけです」
そんな会話をしていると、甘い雰囲気から遠ざかったが。
ベッドにおろされると、ヴァルドの表情が一変する。
「ミア。あの日、わたしに言った言葉、覚えているか?」
ヴァルドはそう言いながら、私のガウンを脱がせる。
あの日、というのは間違いない。
私がヴァルドの純潔を奪った日だ。
あの時、私は魅了魔術のせいで、とんでもない一言をのたまっている。
今ここで思い出すことになり、一気に全身が熱くなった。
「今日は、わたしにとってリベンジだな」
そう言うと、ヴァルドは自身のガウンもスルリと脱いでいる。
さらに私の寝間着もあっという間に脱がせると、すぐに布団の中へと私をくるむ。
「すぐに温かくなる。だが冷えるから」
そう言いながら、自身も寝間着を脱ぐと――。
あの時眺めた彫像のような美しい体が、私に重なる。
お風呂上りなので、まだヴァルドの体は温かい。
心臓が爆発しそうなぐらいドキドキし始める。
初めて結ばれるわけではないのに。
ものすごく緊張している。
「!」
顎をくいと持ち上げられ、唇が重なる。
軽く触れるようなキスから、それは次第に深い口づけへと変わっていく。
息遣いが荒くなり、体の芯の部分が痺れるように感じる。
「……ヴァルド」
自分でも驚くくらい切ない声で、ヴァルドの名を呼んでいる。
ヴァルドはフッと口元に笑みを浮かべ、妖艶な表情を浮かべた。
「ミアはただ、気持ちよくなればいい。わたしがミアの全てを奪う」
あの日の夜のセリフ、ヴァルドバージョンだ!
そんなことを思えたのは、この時まで。
その後はもう、本当に。
私の全てを奪い尽くすようなヴァルドの溺愛が待っていて――。
永久凍土が国土の多くをしめ、冬の寒さで知られるノースクリスタル帝国。
でもヴァルドに抱かれる私は、そんな寒さとは一生、無縁に思えた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第三部も終わり、本編完全完結でございます。
読者様に本作、お楽しみいただけたなら、嬉しく思います。
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番外編の更新を考えています。
こちらは本編で描ききれていないドキドキ描写多めの予定です。
今月なるはやでご用意いたします。
ミアやヴァルド、フロストやじぃじやばぁば、マリアーレクラウン騎士団のみんなやサンレモニアの村の人々のこと、気になる方は引き続きお楽しみくださいませ☆彡
そして新作の『陛下は悪役令嬢をご所望です』と『ボンビー男爵令嬢』も
引き続き応援いただけると嬉しいです!!






















































