会いたかった人達
ヴァルドに頼み、やってきた場所。
それは……サンレモニアの村だ。
世間では、病気で王宮にこもっていた王女は密かに出産していたとなっているが。村の住人にはさすがにこれが嘘であると分かってしまう。そこでヴァルドと結ばれた私は、妊娠の可能性を考え、この村に身を隠すために実は訪れていた――ということを書簡では先に伝えている。そして村人はみんな、口外しないと誓ってくれていたのだ。村の掟に従い、秘密を守ってくれることになった。
そんな私とヴァルドの味方である村人たちなのに。
ちゃんとした挨拶もせず、姿を消すことになってしまった。よってきちんと対面で御礼を伝えたかったし、ミーチル村長やハナ、ソルレンやニージェにも会いたいと思ったのだ。
ソルレンが偵察として村にいることは秘密であり、そしてこれからも村に住み続けるという。なんだかんだでソルレンは、村を気に入っていたのだ。
ニージェは数少ない女騎士であり、帝国へ戻ると思ったら……。
「ミアの言霊の力なのか。ミアがフロストと共に帝国へ来て、ニージェに帰還を命じたところ……。可能であれば、このまま村に残りたいと言ってきた。そのまま偵察活動をソルレンと続けたいと。つまりニージェは、ソルレンのことが好きなようだ。ソルレンがどう思っているかは分からない。だがミアとわたしは結ばれ、限りなく幸せなんだ。わたしに仕える者達にも幸せになって欲しい。だから滞在を許可した」
ニージェとソルレン。
まだ交際しているわけではない。でも二人が上手くいくといいなと、以前より思っていたのだ。ニージェもソルレンも、とても有能だし、性格もいい。お似合いの二人だと思う。村に残る二人の間に恋が芽生えることを……願わずにはいられなかった。
ちなみに村にいる医師と助産婦。この二人も村を気に入り、このままサンレモニアの村で暮らす選択をしている。つまりそれだけこの村が、皆に愛されているということだ。
「あ、ヴァルド様、ミア様!」
転移魔術でミーチル村長の家の近くまで行くと、ハナが手を振り、迎えに来てくれた。
赤いウールのワンピース姿のハナは、なんだか以前より大人びたように感じる。
聞くと最近、お化粧をするようになったのだという。
きっかけは間違いなく、ノルディクスとの文通だ。
彼との文通でハナは綺麗になりたいと願い、お化粧も始めたのだと思う。
気付けばいろいろなところで、恋の花が芽生えていた。
「ミア様たちが来ると、魔術で手紙が届いた時には、ビックリしました。でも事前に連絡をもらえたので、ニージェさんとソルレンさんも呼んであります。お祖母ちゃんもちゃんと待っていますから」
ハナに先導され、ミーチル村長のリビングルームに行くと……。
確かにみんな待っていてくれた。ハナの両親アクセルとメリーもいる。護衛の戦士は気を利かせ、隣室で待機してくれた。
そしてテーブルには、焼き立てのアップルパイがいい香りを漂わせている。用意されている紅茶は、街で冬になる前に手に入れたという、舶来品のキームンだ。
それぞれとの再会を喜び、この村で約二年。お世話になったことへの御礼を伝えることになった。焼き立てのアップルパイと上質な紅茶を飲みながら。
「フロストを見た時。帝国の皇族の血を引くことは、一目で分かった。でもまさか皇太子殿下がお相手だったとは……! 本当に驚いたよ。だがここはサンレモニアの村だ。この村においては、森の外の地位は関係ないからね。ミアはいつだって私達からしたら、村を守る戦士のミアさ。夫婦喧嘩して辛くなったら、いつでも戻っておいで。サンレモニアの村は、ミアの帰りをいつだって待っている」
ミーチル村長のこの言葉に、思わず感動してしまう。夫婦喧嘩なんてしないと思うが、何かあった時。迎えてくれる場所があることは、とても心強い。
こうしてミーチル村長のところでじっくり話した後は、広場へ集まってくれた村人に挨拶をした。さらに役割でお世話になった戦士たちにも会いに行く。
ピーターの飼い犬のピピにまで挨拶をして、ようやく終了だった。
「ミア」
「はい」
「これが最後ではない。君が望めばこの村には、また足を運ぶことはできる。アズとピーターが作るパンは、焼き立てが美味しい。またフロストと三人で食べに来よう」
「……! そうですね。そうしましょう」
こうして空が茜色に染まり始めた頃、村人に見送られ、私達は帝国へ戻った。
転移魔術を使ったとはいえ、一日掛かりでマリアーレ王国へ向かい、さらにサンレモニアの村に行き、帝国へ帰還した。馬車の移動だったら何日もかかることであり、それを思うと本当にすごいことだと思う。
ただ、ヴァルドはまだしも、フロストはまだ赤ん坊。帝国に戻ると、離乳食を食べ、すぐに眠ってしまった。
一方のヴァルドと私は、皇帝陛下夫妻に今日の成果を報告。それから夕食会に向け、着替えとなった。昼間から一転。今度は私が、ヴァルドの髪色のアイスブルーのドレスを着て、ヴァルドはアイリス色のテールコートに着替えた。
夕食会は私的なものであったが、時間の都合がついたということで、バジル公爵ほか、何名かの貴族も同席していた。
皇帝夫妻は食後、すぐに部屋に戻る。一方、ヴァルドとお酒を飲みながら話したいと思う者は多い。
夕食会が行われたダイニングルームの隣の部屋が開放され、そこで飲み物とつまみが提供されることになった。私はフロストの様子も見たいので、夕食会が終わると同時に、退席。
フロストの部屋に向かうことにした。






















































