気も楽だろう?
ソルレンと夫婦を演じていると、ヴァルドにバレてしまった。そのことはソルレンとミーチル村長へ、報告することになる。
私が村長の護衛につき、夜間勤務明けのソルレンが訪ねて来て、この件を話すことになった。
村長の自宅のリビングルームのソファに、村長、ローテーブルを挟み、私とソルレンが横並びで座っていた。
私の話を聞くと、ペイズリー柄の厚手のウールのショールを羽織ったミーチル村長は、実に快活に笑った。
「なあに、気にする必要はないさ。皇太子殿下も、ここで身分を隠しているんだ。お前さん達のことを、誰かにバラすつもりはないと言っている。それに一緒に過ごして分かっているだろう? 信頼できる相手だと。それに水晶もクリアしているし、掟も守ると誓っている」
私がこの村で暮らしたいと申し出た時。犯罪者でないか確認するための魔術アイテム――水晶を使った判定を受けていた。そして詮索は禁止、暴力は禁止、思いやりの心を持つこと――この村の掟。ヴァルドもまた判定を受け、掟を守ると誓っていた。
ミーチル村長もソルレンも、ヴァルドを善人だと思っている。
そのミーチル村長とソルレンは、フロストの父親は、皇族の血筋と思っている。が、しかし。まさか品行方正なヴァルドが、フロストの父親とは思っていない。だからこそ二人とも、あの家で滞在することを許可したわけで……。
そこで白シャツにチャコールグレーのセーター、黒のズボンのソルレンが、こんな風に言ってくれた。
「ニージェはメイドとして働いていた。よって主について、詮索はしない。だから自分とミアが夫婦らしいことをしていなくても、見て見ぬふりをしてくれた。だが殿下は違う。元々勘の鋭い方だ。さすがに気づくだろう。むしろ気づかない方がおかしい……。よってミア、そこは君だけの責任ではない。むしろバレた方が、気も楽だろう?」
気は確かに楽だ。
だが私とソルレンが本当の夫婦ではないとバレてしまうと……。
フロストの父親は誰なのか?――そうヴァルドが考えてしまわないか。そして切れ者のヴァルドなら、フロストの父親を探り当ててしまうのでは……。
ううん。今はそんな考え方をするのは止めよう。ヴァルドにとって私は、たまたま療養している先でお世話になっている村人に過ぎない。その私の赤ん坊の父親が誰かなんて、皇太子が気にするはずがないだろう。
鮮やかなブルーのウールのワンピースを着た私は、そう思うことにした。
「そうそう。今週末からホリデーシーズンで、みんなリースを作り、ツリーに飾りをするだろう? ビバーナム・ティヌスの実を取りに、ハナたちが森に出る。二人とも明日、戦士の役割は休みと聞いている。もし予定がなければ、ハナたちの護衛についてもらってもいいかい? 本当はザックとフロンに頼んでいたんだけど、あの夫婦、どうも二人揃って風邪をひいたらしくてさ」
ミーチル村長の言葉に、ソルレンと顔を見合わせ、頷く。
冬は基本的に村の外へ出ない。だが村長の指示で、必要な物を取りに出ることはあった。その際、戦士の役割でオフの者が護衛につくのは、よくあること。当然、快諾だ。
ちなみにビバーナム・ティヌスは、とても美しい碧い実をつける。
冬は鳥の目につくような、赤い実をつける木々が多い。鳥に食べてもらい、その種子を運んでもらうためだ。だがビバーナム・ティヌスは、サファイアのような美しい実をつける。真っ白な雪の中でこの実を見つけると、ハッとする。その美しさに。
そしてハナの両親はこの村で、グリーンショップを営んでいる。シーズンイベントで使う草木を揃えるのも、ハナとその両親の役割。冬でも一ヵ月に一度は、森へ出ていた。ハナはいずれこのグリーンショップを継ぐことになる。勉強を兼ね、いつも両親に同行していたのだ。
「じゃあ、明日はよろしく」
ミーチル村長のこの言葉を合図に、話し合いは終了だ。
私は引き続き、ミーチル村長の護衛。ソルレンは家へと帰っていった。
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