何かを期待してしまう
「できればここに滞在させていただきたい」
ミーチル村長の言葉を遮るように、ヴァルドが口にした言葉。
私はドキッとしていた。
だって「ここ」というのは、この家のことだ。
この家に滞在したいということは……。
さっき不意に抱き寄せられた時のことを思い出す。
あれはヴァルドを支えようとして、何となく抱きついているような感じになり、それに彼が応じてくれた……だけなのかもしれない。でも短い時間であるが、その上半身を私は抱きしめていた。その時、とても幸せな気持ちに満たされていたのだ。
もしかするとそれはヴァルドも同じだったのでは?
安らぎを覚え、ここにいたいと感じたのでは?
しかし。
「ここでの滞在を希望する理由は二つあります。まず一つ目。空き家だった場所に、急に人が住んだとなると、ある意味目立つ。できればわたし<皇太子>がここに滞在していることは、村人には伏せていただきたい。魔術を使い、変装もするつもりです」
「ああ、そうかい。でも、そうだね。敵を欺くにはまず味方からという。それはその通りだ」
明確な理由があったことに「そ、そうですよね」と、私は心の中で恥ずかしい気持ちになっている。
私に安らぎを覚え、ここにいたいと思ってくれた――だなんて。
……完全に舞い上がっていた。
「そして二つ目。お恥ずかしいことにわたしは、身の回りをサポートしてもらえる人間を必要としています。こちらにはメイドがいますよね? できればわたしのことも、サポートしてもらえればと思います。ただ、護衛の人間はなしで問題ありません。魔術でトラップを、この家の周囲に巡らすつもりです。それに……ここの村人に、悪人はいないと聞いています。そういう村であると」
「ここにいるソルレンとミアは、夫婦であり、赤ん坊はまだ幼い。それでいてミアは頑張って戦士の役割を果たしてくれている。本来は子育てしてもらって構わないんだけど、戦士の役割は特殊だ。普段から鍛えておかないと、勘を忘れるからね。それで復帰してもらったわけだから、サポートとしてニージェという子をつけている。ニージェは元メイドだ。その経験を生かした役割を果たしてもらっているわけさ」
ソルレンと私が夫婦であると聞いた瞬間。
ヴァルドの頬がピクリと動いた……気がしたのは、これまた気のせいだろう。皇族特有の、あのアイリス色の瞳は落ち着いた様子だし、表情に変化はない。
どうしても何かを期待してしまう……。
そんな私の胸中など関係なく、ミーチル村長はこう付け加えた。
「何よりヴァルド殿下は怪我をされている。そのサポートは必要かと思う。ただ、この村にも、数は少ないがポーションの備蓄はある。こんな場所ゆえ、二年前は医者もいなかった。いざという時は魔術アイテムに頼るしかないからね。ポーションを殿下に使っても構わないが」
これにはヴァルドは、私にしたのと同じ説明をした。ミーチル村長は「殿下の敵は、あくどいねぇ」とため息をつく。そこでヴァルドは、こんな提案をした。
「この村には、役割を果たして滞在するものと理解しています。わたしは魔術を使えるので、滞在中は村で必要となるポーションなどの魔術アイテムを作り、提供しましょう。それを役割とみなしてもらえると助かるのですが……」
これにはその場にいた三人で、ビックリだった。
魔術アイテムなんて、金貨でやり取りされるもの。
それをただここに春まで住まわせ、衣食住を提供すれば手に入るなんて。
ミーチル村長は快諾だった。






















































