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宿敵の純潔を奪いました  作者: 一番星キラリ@商業ノベル&漫画化進行中
第二部

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あなたのパパよ

 こうしてヴァルドは、自身のミドルネームであり、賢帝として知られる三代目皇帝の名「アルク」を名乗り、髪色を魔術でブロンドに変えた。瞳の色は、フロストのようにポーションを使うことなく、碧眼に変えている。


 こうなるともう皇族であると分からないし、むしろマリアーレ王国の人間に思える。


 そのヴァルドは我が家にやって来てからしばらくは、寝室で過ごす日々が続いた。これまでの疲労もあったのだろう。日中でもベッドで寝ていることが多かった。その間、ソルレン、ニージェ、私の三人で交代で看病を行った。


 そんな日々の中、ドキドキでフロストにも合わせたが「ミアに似た愛らしい赤ん坊だ」とヴァルドは微笑み、自身の子供であるとは……当然だが気付いていない。かつ私の正体もバレずに済んでいる。


 最初は緊張の日々だ。気付かれるのでは……という不安もある。だがヴァルドは全く気付いている様子がないので、その緊張と不安も私の中で解けて行く。


 そして遂にこの日を迎える。


「永久凍土もある帝国では、氷や冬にまつわる名を持つ者がとても多い。フロストという名は、帝国の人間の名に思える。でもこの髪と瞳の色。マリアーレ王国の血筋なのだろう。なんだか不思議な気持ちになる」


 初めてフロストを抱き上げたヴァルドが、しみじみそう言った時は、もういろいろな意味で心臓がバクバクだった。


 ヴァルドは肩に怪我をしているのだ。抜糸するまで、重いものは持たないようにと、医師から指示を受けていた。よってヴァルドとフロストは既に対面していたが、抱っこすることはなかった。でも今回、抜糸を終えたヴァルドは、遂にフロストを抱き上げた……!


 ヴァルドは髪色と瞳を、フロストは瞳の色を変えている。


 でも私には、二人の本来の姿が脳裏に浮かび、胸が熱くなってしまう。


 ヴァルドとフロストが初対面を果たした時は、感動よりも、「バレないだろうか」という思いの方が強かった。


 でも今は違う。大きく気持ちを揺さぶられ、感無量で涙を堪えるのが大変!


 フロストは無邪気にヴァルドの頬に触れ、「パァパ、パァパ」と言う。


 やはりフロストは……分かるのだろうか。自分の父親が。


 「そうよ、フロスト。あなたのパパよ」


 喉までその言葉が出かかったが、それは呑み込む。そしてそこはソルレンが言っていた「きっと同じような年齢だから、勘違いしているようです」という説で誤魔化すことになった。


「なるほど。……未婚であり、子供はいない身だが、こんな風に声を掛けられると……。くすぐったい気持ちになるな」


 そう言って微笑むヴァルドに、フロストはあの青紫色の瞳をキラキラさせキャッ、キャッと笑う。


 フロストは……本当に可愛い!

 そしてフロストと一緒にいるヴァルドも……可愛い……なんて言ったら怒られそうだ。

 でも……優しいパパの顔に見える。


 その一方で。


 もしヴァルドが子供嫌いだったらという心配も少し持っていた。だがそんなことはない。フロストを見て相好を崩すその姿は……。


 まさに夢の中のヴァルドそのものだった。


 懸命に両手を伸ばすフロストに、自身の指を掴ませ、笑う姿は……。

 スマホがあれば動画と写真撮りまくりだ。


 その対面以降、フロストは度々ヴァルドの部屋を訪れている。ヴァルドに会うと、フロストがいつも以上にご機嫌なのは……気のせいなのかな。私は親子の絆だと密かに思っていたけれど。


 そして「ヴァルド。フロストは本当は、あなたの子供なのよ」――そう、何度伝えたいと思ったことか。


 でもそれを伝えた瞬間。

 この平和な日々は激変してしまう。

 フロストが、あの日の出来事で誕生した赤ん坊であるとヴァルドが知ったら……。


 これまでのように、柔和な笑みで、フロストに接してくれるだろうか?

 子供に罪はないと思ってくれるだろうか?


 もしも。

 もしもヴァルドがフロストだけではなく、私の正体も知ったら……。


 私とつがい婚姻で結ばれてしまったヴァルドは、私以外の女性との間に、子供を成すことができない。


 私のことは憎いし、大嫌いだろう。

 それでも後継ぎは必要。そしてフロストがいるなら……。


 フロストの魔力は劣るだろうが、ないわけではないと思うのだ。ならばフロストを手に入れ、未来の皇帝として育てる。でも私は不要なはず。そうなると……。


 ヴァルドは常に騎士道精神に溢れ、戦時中でも女子供を手に掛けることはなかった。だが私に対しては、非情になると思う。


 私の正体が分かったら、問答無用で私の命をとるかもしれない。そしてフロストだけ連れ、帝国へ戻る可能性は……ないとは言い切れない。


 やはりフロストの正体も、私の正体も。

 明かすことはできないと思った。

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