相反する気持ち
翌朝。
私を見たニージェは、驚き気味で声をかける。
「おはようございます、ミア……様。髪、染めたのですか?」
「そ、そうなのよ。ほら、ヴァルド皇太子殿下がいるでしょう。以前、殿下と会った時、この髪の色だったから。それにこの眼鏡。この姿で会わないと、私と分かってもらえない可能性があるから!」
「な、なるほどです」「そう、そうなのよ」
私は苦笑するしかない。
医師の手当てが終わり、あれは三時過ぎか。「お疲れさまでした」と解散になり、医師とソルレンは二階の客間で休むことになった。部屋に戻った私は……髪を染めることになる。終わるともう爆睡。
翌日はさすがにいつもの時間に起きる者はいない。
ブランチの時間に起き、食事となった。
医師もいるので、ヴァルドの食事はニージェに任せることになる。ダイニングルームでは、ソルレン、医師、私はフロストに離乳食とミルクをあげながら、食事となった。
食事が終わると、医師がヴァルドを再度診察した。
ニージェの見立て通り、傷は深くなかった。
深くはないが、軽傷ではない。
医師の見立ては……。
「全治三ヵ月。この地の冬が終わり、春になる頃には、完治するでしょう」――だった。
昨晩、傷の縫合は終っている。飲み薬が処方され、縫合した箇所の消毒は、定期的に行うようにとのこと。
「熱もないですね。何より殿下はお若いですし、体力もあるでしょうから。傷が化膿などしなければ問題ないはずです」
医師の言葉に皆、安堵する。
「帰る前に消毒をしておきます」
私は医師を手伝い、ニージェは食事。ソルレンは後片付けで、フロストはリビングのベビーベッドで休んでいた。
「ではミア様、失礼いたします」
処置を終えた医師が帰るのを見送った。
雪はうっすらと積もったようだが、冬晴れのおかげで、すっかり溶けてしまっている。
「フロスト、少し日光浴しましょうか」
私はフロストをふかふかの毛布にくるみ、日光浴。
冬の柔らかい陽の光を浴びながらヴァルドに命の別状がなかったことに安堵だった。
戦場を駆け巡った経験があるので、傷の様子から重傷ではないとすぐに判断できた。おかげで昨晩は落ち着いて行動できたと思う。もしもただの王女だったら……かなり動揺し、慌てただろう。
「パァパ、パァパ」
「どうしたの、フロスト?」
さっきまでウトウトしていたのに、フロストがそう言って手足をばたつかせた。そこでソルレンのそばに連れて行くと――。
違うとばかりに首を振る。
「パァパ、パァパ」
フロストは目の前にソルレンがいるのに、彼の部屋の方へ手を伸ばす。
これには「もしや」と背中に汗が伝う。
だがそこでソルレンがこんなフォローをしてくれた。
「自分と年齢が近い男性、しかも髪色も似ていますからね。ヴァルド皇太子殿下のことを、フロストは自分と勘違いしているのでしょう」
「分かりますわ。お二人ともハンサムだから。フロスト坊ちゃんも、大喜びなのでしょうね」
ニージェも同意を示し、微笑む。
ソルレンとニージェも今の様子だと、フロストの父親が実はヴァルドであるとは……気が付いていない!
だが肝心のフロストは「パァパ、パァパ」と、ヴァルドに会いたがる。
これはまさかのヴァルドとの初対面!?
父親と息子の感動の対面!を夢想する一方で。
もしフロストと会うことで、ヴァルドが何か察知してしまったらと思うと……気が気ではない! ヴァルドは聡明だし、戦場においても空気を読むのが上手かった。
「ヴァルド皇太子殿下も、自分が帝国出身と分かっています。髪色が似ている。フロストが勘違いしたと思うだけですよ。……会わせてみますか?」
ソルレンがフォローしてくれるなら、会わせてみてもいいのかしら……。
どこかでヴァルドに、フロストを見せたいという気持ちもあった。
だが私自身のことはバレたくない。
相反する気持ちに迷っていた時。
玄関の扉をノックする音が聞こえる。
丁度、食事を終えたニージェが玄関に向かうと、そこにはミーチル村長と護衛の戦士がいた。ソルレンと私も慌てて駆け寄る。
「さっき医師から聞いたよ。帝国の皇太子殿下がここにいるって。なんでも怪我をしているとか。驚いたよ。まあ、まだ冬の初めだ。訪問者がいても不思議ではないが……。それでも真夜中の訪問というのは驚きだ。だがさすがだね、皇太子は。魔術を使えるのは便利だ。しかしなんでまた、ここへやってきたのか。それに怪我を負っているなんて、一体何があったのか。その辺りの話、聞いたのかい?」
私は昨晩以降、まだヴァルドと顔を合わせていない。昨日は一瞬、目を開けたヴァルドと目が合った。でも後は意識を失っているヴァルドとしか接していなかった。
でもニージェとソルレンは、どうなのだろう?
すると二人も、必要なことしか会話していないという。
つまり何があり、なぜここに来たのかなどは……聞いていなかった。
そこでひとまずミーチル村長と護衛の戦士をリビングルームへ通した。ニージェはお茶の用意。ソルレンは、昨晩から今朝にかけてのヴァルドの様子を話して聞かせる。私はフロストを寝かせることにした。
来客があり、「寝てもらえると助かるのだけど」と思うタイミングで、フロストはちゃんと寝てくれるのだ。これにはいつも助けられている。
フロストをリビングルームのベビーベッドに寝かせた私は、ヴァルドの様子を見に行くことにした。
食事を終え、薬を飲んだのだ。今は眠っている可能性もある。ミーチル村長は「眠っているなら、無理に起こす必要はないよ。怪我人なんだから」と言ってくれていた。
ヴァルドが休んでいる部屋へ向かい、軽くノックをし、反応を待つ。






















































