なぜ……?
私は捜索されていないが、それは病気であり、王宮で臥せっていることになっているからだ。そして病気のことは、国民には特に発表されていない。
なぜ……?
あ。
でもそれは思い当たる。
私はリヴィ団長として、戦場に赴いていた。王宮にいないことがその当時、とても多かった。ゆえに王女の動向については「王宮で淑女教育を受けている」「健やかに王宮でお過ごしである」くらいの情報しか、流さないようにしていたのだ。
そんな状態が三年続く。
次第に国民も、あまり王女に関心を向けなくなった。需要もないため、ニュースペーパーも積極的に王女の動向を掲載することはなくなる。だから病気のことも公になっていないのね。
王女が失踪した……これはかなりセンセーショナル。でも病気なら、公にしても同情されるだけだ。それにそのまま闘病の末、逝去したとできる。
「ミア様、大丈夫ですか?」
遠慮がちに尋ねるノルディクスの声に、我へと返る。
ついつい、いろいろと考えてしまう。彼が大変な打ち明け話をしてくれたのに、私は「え、えええええ!」と叫んだだけだ。これはとても失礼なことをしたと、慌てて口を開くことになる。
「申し訳ありませんでした。その団長様の置かれている立場があまりにもお可哀そうで……。婚約者の件は残念ですが、二年間も会えない状態で、病もヒドイとなると……。お気持ちの整理はつきましたか?」
これにはノルディクスが沈黙してしまう。でもこの反応を見るに、私が病で王宮で臥せっていようと、気持ちに変化はない……と言っている気がして、背中に汗が伝う。
「気持ちの整理をつける……それは両親からも、その縁談を僕に持ち掛けた相手からも、同じように言われました。年齢的にも、もたもたしている場合ではないと。正式な婚約をしていたわけではないのだから、次へ進むようにと言われ……。ですがたとえ会えなくても、彼女がそこにいると思うと、とても忘れることができない。前を向くなど無理だと思いましたが……」
そこで言葉を切ると、ノルディクスはなんだか寂しい笑顔で私を見る。
「この村へ来たことが、いいきっかけになりそうです。……前へ進むしかありませんね」
そこで大きく息を吐いた後、ノルディクスは私に尋ねた。
「ミア様は今、お幸せですか?」
「はい。幸せです」
「そうですか。でもそうですよね。愛する人と結ばれたのですから」
「そう、ですね」
実態は、ノルディクスの想像とは全く異なる。
私は……こんな形とはなったが、ヴァルドのことが好きだった。好敵手として尊敬し、その気持ちが高まり、好意に変わっていた……と思う。だが父親の策略により、魅了魔術に操られた私は、ヴァルドの純潔を奪ってしまった。
当然、嫌われ、憎まれ、疎まれ、もはや記憶から消し去りたいレベルの存在に、彼の中で私はなっていると思う。
つまり純粋に愛する人と結ばれ、子供ができた……というわけではなかった。
かつソルレンとは、あくまで白い結婚で契約婚。私の護衛も兼ね、成立している関係。本当の夫婦でも、家族でもない。
というか、私らしくない話題を振り、正体がバレないことを目論んだ。しかしこれは明らかに失敗。もうこの話は終わりにしたい!
「そういえばすっかり平和になりましたよね。今日だって帝国の皇太子は、自身の手柄をちゃんとマリアーレ王国の第二王子に譲りましたし」
「ああ、そうですね。ヴァルド皇太子は、いろいろと手を尽くしてくれているのです。二年前の平和条約締結記念舞踏会で、マリアーレ王国を訪れてからずっと水面下で。関税の問題で、またも戦争か、となりかねた時も、彼が動いてくれたと聞いています。それにこれまで帝国は閉鎖的でしたが、ヴァルド皇太子が様々な国と国交を結ぶことで、開かれた国、というイメージができているようですよ」
「そうなんですね……!」
情報収集は毎日欠かさずしている。それでも踏み込んだ情報は入ってこない。リヴィ団長でいた頃に比べると、圧倒的に政治に疎くなっていた。
「ただ、ヴァルド皇太子が優秀であればあるほど、保守派の連中は、彼を疎むようになっているようで……。五つの公爵家が、不穏な動きを見せているようです」






















































