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閑話 過去編

 これは少し昔の話、フォール達が里にいた頃の出来事。


「クレマンさん、私もう帰りますね」

「最近何かと物騒だから、気を付けるんですよ」

 店の営業が終わり、帰ろうとしたオドレイに投げかけられたクレマンの返事を、彼女はどこか他人事のように感じていました。まさか自分が危険なことに巻き込まれないだろうという楽観的な考えが、彼女を油断させていたのです。

 しかし、そんな油断とオドレイの美貌が災いして、その日の帰り道、彼女は見ず知らずの男に手を掴まれ、攫われそうになってしまいました。その時になってようやく自分の考えの甘さを後悔し、恐怖に打ち震えていたオドレイのもとに一人の男が現れると、その男はいともたやすく暴漢を蹴散らし、無言で立ち去ろうとしました。

「あの!ちょっと待ってください。その、助けてくれてありがとうございます。よかったらお名前を聞いてもいいですか?」

「治安が悪くなってんのに、女が一人で出歩くなんて何考えてんだよ。身を守る術は用意しとけよ」

 安堵と感謝で心がいっぱいになっていたオドレイは、その言葉に冷や水を浴びせられて、思わず声を荒げてしまいました。

「そんな言い方ないじゃないですか」

「こういう言い方しか知らないもんでね」

 今まで異性からこんな扱いを受けたことがないオドレイは、先ほどまでの恩を忘れて腹が立って仕方がありませんでした。


 オドレイとその男性、アルテュールは顔を合わせる度に言い争うくらいの関係性のまま月日が経ったある日、二人の仕事の休みが被る日がありました。

「よかったらうちの店で飲まない?」

 何気ないオドレイの誘いに、アルテュールとオドレイは二人で飲みに行き、ある程酒が入ったところで、酔っぱらったアルテュールは普段だったら言わない本音をこぼしました。

「お前といると気が緩んじまう。あいつのことを忘れて幸せを求めちまう」

「妹さんの話?」

「あいつの平和を守るために強くなったはずなのに、お前を助けたのだって、女子供を守って罪悪感から逃れるためだったのに、お前を女として見るつもりなんてなかったのに」

 今まで見たことのないアルテュールの弱っている姿をきっかけに、二人の関係性は急激に変化していくのでした。

 儂は生まれた国の美醜の価値観を、終ぞ理解できなかったのじゃ。

 じゃが、そのことを口にして両親に嫌な顔をされて以来、美醜の価値観が異なっていることは誰にも言わず、周囲の意見に流され、父が勧めた好みでない男と結婚し、息子を産み、その時に気が付いたのじゃ。

 生まれたばかりの我が子の愛しいこと。髭も生えておらず、控えめな肉体でなんとも愛らしかったのじゃ。しかし、齢十にもなればその姿は大きく変わってしまい、他の男共と同じような姿になってしもうた。

 それから子供が成人して家にとどまる理由を無くした儂は、これ以上国に暮らすことに耐えきれず、誘われるようにデュポン山を登り、気が付くと超常の力を手にしておった。

 それからさらに二百年ほど経過すると、国から儂の名前を知る者が消えたのか、儂は火山に住まう火の神として信仰されるようになったのじゃ。

 そこで、儂は復讐のついでに自分の利益を追求することにしたのじゃ。

「顔のいい男を作るにはどうすればよいのじゃ?」

「遺伝さすべし。子は親に覚ゆるものなればぞ」

「よくわからぬ故、また来るのじゃ」


「儂の苦しみを理解しなかったくせに、今度は信仰している、など言ってくるのじゃが、どう操ってやればよいかのう」

「主を信じさせなさい。さすれば主のために行動するようになるでしょう」

「お主はいつもそれしか言わんのう」


「お前はどうやって人外の生き物をまとめておるのじゃ?」

「黙れ!俺の生み出した種族の方がドワーフごときより優秀だ!図に乗るなよ!」

「そうかっかするでない」


「おや、ドワーフ娘。ジェーンはいないのか?お前が来るなら一緒に連れてきて欲しかったが。近くに住んでいただろう」

「自分で誘うのじゃな」


「顔の形状などの遺伝をさせるために選択して交配させるべきということだ。つまり交配育種だ」

「喋り方が変わったのう」

 こうして儂は試行錯誤を経て、今の国の形式を完成させたのじゃ。

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