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関係者


   〈関係者〉


 さっきまであんなに遠くにいた集団が、あっという間にすぐそこまで近付いていた。近くにきてわかったのが、その集団は何十人どころの人数ではなかった。何百人、いや、千人近くはいるだろう。その時、死神が口を開いた。

「あっ、聞くのを忘れていました。あなたは、これから自分が天国と地獄、どちらに行くと思います?

あなたが今まで生きてきた人生を振り返ってみてください。あなたは生きていた時、良い人間でしたか?それとも悪い人間でしたか?」

その質問に私は生きていた時の自分の姿を思い返していた。

(私は良い人間だったのだろうか?)

家庭の事を思って一生懸命仕事はしていた。少しでも生活を楽にしようと、毎日残業してたし、休日だって仕事に励んでいた。でも、それが妻には理解されてはいなかった。妻が子供を連れて出て行った時、私はようやくそれに気がついた。妻は私の事が嫌いだっただろう。結局私は、周りからは愛されていなかったのかもしれない。だから会社もリストラされるし、自殺という道を選んでしまったのだろう。私の今まではなんだったのだろうか・・・

生きていた時の自分がどうだったかなんて答えが見つからないまま時間は過ぎていった。

「ブー、時間切れです。どうやら答えは出せなかったみたいですね。」

死神の声で我に返った私の周りを、さっきまで遠くを歩いていた人達が取り囲んでいた。それが、ついさっき夢に見た光景に似ていて鳥肌が立った。

みんな下の方を見つめながらどこか暗い、悲しそうな表情をしている様に見えた。目も虚ろで自分で言うのもなんだが、まるで生気がない。というか、ここはあの世だ。その人達に何があったのかは知らないがもう亡くなっているのだろう。

「じゃ、みんな揃った事ですし、そろそろ始めますか。」

死神は明るく言った。

「始めるって何を?」

「あれ?まだ説明していませんでしたっけ?これから始まるのは神の審判です。」

「神の審判?」

「そうです。まあ、わかりやすく言うと裁判ですね。あなたはこれから裁判にかけられるのです!」

「ちょっと待て!何で私が裁判にかけられないといけないんだ!ふざけるな!」

「納得いきませんか?」

動揺してしまった私に死神は表情一つ変える事なく冷静に答えた。死んだ私が裁判で何を争う事があるのか。だが、その答えはすぐに死神の口から発せられた。

「神の審判・・・。それは自殺した者の逝く道を決める裁判。つまり、あなたが天国で生まれ変わるのを待つか、地獄で今までの行いを反省し生まれ変わるのを待つのか、どちらかが決まります。それがここでのルールなのです。あなたはそれに従わなければならない。

というか、それ以外に選ぶ道はない。あなたはもう死んでいるのですから。」

そうだった。死んでいる時点で私は“私であって私ではない”肉体のない魂だけの器。決定権なんてなかった。

「神の審判はわかった。その結果で私がどこに行くのか決まるのもわかった。でも、この人達は何なんだ?」

「この人間たちですか?ここにいる人間は全てあなたの関係者です。」

「な、なにを言ってるんだ?私はこんな人達を知らないし会った事もない!関係者であるわけがないだろうが!」

「いいえ。全てあなたの、あなたとの関係者です。」

私は混乱していた。

「まだ、納得いかない事があるみたいですねぇ。でも、もうだいぶ時間が過ぎてますからこれ以上は話せません。それに、今の時点であなたにこの人間たちが誰なのかを知る意味が無い・・・。私の口から説明したところで、あなたは理解するかもしれませんが何の感情も生まれない。

それでは何も意味が無いのです。だからあなたには関係者自らの証言を聞いてもらいたい。いや、聞く事があなたの最後の使命なのですから。

後は神の審判が始まれば理解できますよ。今までの人間もみんなそうでしたから。

私はもう話す事はなかった。話したところで何も変わらないのがわかったからかもしれない。

「ではこれから、神の審判を始める!」

これから私が天国に行くのか地獄に行くのかが決まる。今の私にはただその判決が下されるのを待つしか出来なかった。




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