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瞳を奪う

 着替え終わったスレイが女性服を取り扱う1階へ降りていくと胸元と背中の大きく開いた薄緑のパーティードレスに身を包んだ見覚えのあるエルフがいた。エルフ本来の美しさを際立たせる衣装を身に纏い、店内にいる同姓の視線すら奪う存在感を放っている。

 余計な飾りがない大きく背中の露出したドレスのデザインは、彼女の美しい身体の凹凸ラインを引き立てながら、胸元に走る深いカットが豊かな胸が強調し、艶かしさを全面に出している。着ている本人は、慣れないヒールに苦戦しながらあまりその場から動こうとしない辺り、逆に様になっているようにも見える。

 このまま、彼女を見つめていては例のお薬の効果が再発するような感覚になってしまい、スレイは視線を横にそらしてしまう。


「エレナ、どこかのパーティーにでも参加するつもりか…?」


「こ、これは違うのよ!サリアが勝手に!!」


 思わず、声をかけたスレイに気がついたエリナは、耳まで真っ赤にしながら、試着室に逃げるように引っ込んだ。一人取り残される身としては、少々罰の悪い場所と感じたスレイは、入り口に程近い場所に移動していくと先客が彼を待ちかねている。


「あ、スレイさん新しい服に着替えてきたんですね?」


「リオン、お前もここで待ってたんだな」


「手続きが早く終わったので、予定よりも早く来れたんですけど…まぁ、あんまり落ち着ける場所ではないですしねぇ…」


「違いない」


 スレイとリオンがお互い苦笑しながら、雑談を続けているとパーティードレスから開放され、新たな衣装を身にまとったエリナとサリアが合流してくる。

 白のブラウスに茶色の皮製コルセット、丈の短いカラーデニムのショートパンツに巻きスカート、真新しいショートブーツの感覚に戸惑うエリナ。スチームパンクの衣装でこんなものがあったなとスレイは心の中で呟く。


「パーティードレスは買わないのか?」


「開口一番にそれをいうとかなんのつもりよ…」


 エリナは、スレイの剽軽な態度に思わず嘆息する。もっと気の聴いた言葉を書ければいいというのにと心の中で愚痴りながら苦い顔を見せる。


「まぁ、パーティードレス程じゃないが十分、似合ってるじゃないか」


「勘弁してよ…というか忘れなさい。いますぐ、迅速に忘れなさい」


「エリナさんめちゃくちゃ綺麗でしたからね!お陰で今着てる服も安くで買えましたし!」


 明るく特にほかに意味も意図もないサリアの一言。エリナは、渋い顔をしながら頭を振って、


「元はといえばサリアが…あーもう、知らないから早く行きましょ!」


 乱暴に店のドアを開けて、逃げるように店内の外に出たエリナ。スレイは、苦笑しながら彼女に止めを刺した。それは、エリナにとって手痛い一言で事実。


「はりきって店内を出るのはいいんだが…先導してもエリナは、道がわからないだろ」


 どこか締まらないふわふわとした空気のまま、4人は最初の目的地であるサリアとリオンの所属している魔術学園に歩き出した。






「そういえば、ここ最近学園都市で妙なうわさが流れてる話聞いたんですよね」


 魔術学園へ続くストリートの店を眺めながら、リオンは思い出したように唐突に話を切り出す。面倒事の臭いを感じ取ったスレイは、げんなりとした表情でリオンに続きを促す。


「ここ最近、深夜に外を出ていた住人が精神に異常をきたすって話で、協会に連れて行っても症状が治らずに皆一様に何かから逃げ回りながら、来る来るって錯乱するって話なんですけどね」


 スレイは、リオンの語った話の内容に対して、訝しげな表情を変えながら、一体どこのホラーだと呟いて空を仰ぐ。


「ホラー…?とりあえず、話を続けますね。彼らの初期症状は、眠りにつくと全身をつなぎ合わせた人の形をした何かが徘徊していている遺跡のような場所で目覚めるらしいんです」


「ちょ、ちょっとリオン、寝るのが怖くなる話やめてよ」


 サリアの声に隠し切れない緊張が現れる。暗いところも苦手な彼女にとって、この手の話は予想通りの反応。


「話のオチもまさにそれで、寝ることが恐ろしくなった彼らは眠らなくなったんだけど、最後は現実と夢の区別がつかなくなって精神に異常をきたすって話だそうですよ。えっと、まさにあんな感じなんですけど…」


 リオンの指を刺した先には、人に囲まれながら見えない何かに向かって、剣を振り回す焦点の定まっていない男の姿。この街の入り口を固めていた兵士たちと同じ鉄製の鎧に身を固め、見えない何かに向かって武器を振り回している為、彼を止めに来た兵士も中々手が出せずにいる。


「来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来る来るこっちに来るなああああアアアぁぁあああ!」


「分かったから、さっさと振り回す剣を手放せ!!」


「あぁ、くっそ…またこの発狂か、これで何件目だ!!」


 男のブツブツと呟き続ける姿は、狂気。

 見るものに恐怖すら与えるような何かを感じさせる。周囲の兵士たちも彼に視線を合わせないようにしながら、ジリジリと距離を詰めていく。


「こいつはまた、ずいぶんと都合のいいタイミングで…」


「彼の目を見ない方がいいわ。あの男の放つ嫌な感覚は、私のエルフとしての感覚が今すぐ離れろって告げる程度に悪質なもの。例えるなら…意識がある間、ずっと呪術をばら撒く厄介なものよ」


 エリナは、3人の視界をさえぎるように立つと、真剣な眼差しで忠告する。

 森と呪術の関係は、切っても切れない関係。故に森と共に暮らしてきたエルフにとって呪術は馴染みの深い術でもある。その彼女が言うのだから余程悪質な術式をかけられているのだろう。スレイたちはそっと視線を逸らしながら目的地へ向かって歩き出す。


「しっかし、このまま見過ごすのもマズいと思うんだが…主に兵士たちが」


「条件の整った場所にミリシャを連れて来ないとあのレベルの呪いを受けた人間の解除は無理よ。対象と直接接触も危険だし、周囲の人間も誰がかかっているか発動しないと分からない…つまり、術者が分からない現状、手が出せないわけ。理解してくれたかしら」


 軽く指を口元に当てながら語るエリナを横目に中途半端に話を聞いていたスレイは、ボソッと呟く。


「素手で殴ったり、ハルバートの柄で殴って意識奪っちゃダメか…」


「スレイ、絶対関わろうとしちゃダメだからね!」

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