不死の吸血鬼
「ルイン……アルカード…ッ!!」
俺は、目の前の敵が己の標的だということを理解すると同時に違和感を感じた。
こいつ……
「ふん。彼女を待たせてはいけないぜ。お前が紳士ならな。さて、俺はお前をーーー」
奴が言葉を終える前に俺は斬り込んだ。
俺は大太刀を腰に構え、刹那の内に奴との間合いを詰める。
「ぉぉおおおおおお!!!」
周りの吸血鬼が俺に襲いかかる。
ドゴォッ!!
躱した吸血鬼の蹴りがコンクリートの床を抉る。俺は躱すと同時に頭部を斬り飛ばす。他の吸血鬼が怯んだ隙に標的の目の前へ一瞬で間合いを詰める。
「さすが吸血鬼ってわけか。身体能力は常人の数倍……。そしてそれより厄介なのがーーー」
俺が斬り上げるのを奴は後ろへ跳んで躱す。奴の右腕が宙を舞うーーー
と同時に奴の右腕が再生する。
「回復力ってわけか!!!」
ガギィッ!!!
俺の追撃を奴は剣で受け止める。
俺は一旦後方へ跳び、距離をとる。
奴は西洋風の長剣を構えながら俺の方を見据えて言う。
「……速いな。速い。そうか、お前本家の者か。ーーー身の丈程の大太刀。 刀、か。たしか、神撫の業だったな」
「………詳しいんだな。俺らのこと。まるで以前闘ったことがあるみたいな言い草だけど」
俺達『七家』はそれぞれ一つの武器を極めた集団だ。
昔、全国から一つの武芸に長けた者を集めたことが七家の成り立ちらしい。
俺の神撫家は、刀を極めた家だった。
「詳しいさ。つい二百年前に殺しあったことがある仲だからな」
「はっ。お前何歳だよ」
ジリッ…
奴の仲間の吸血鬼が俺との距離を詰めてくる。…あと少しで俺の間合いにーーー
「やめろ!!」
ピタッ
奴の怒号と共に周りの吸血鬼共の動きが止まる。
「お前らじゃ死ぬだけだ。ここは俺に任せろ」
奴が鋭い口調で言う。
「ッ!だけどよぉッ!!こいつぁカイルをッ!!」
仲間の一人が奴に反論する。
俺が斬ったあいつはカイルって名なのか。
「いいから行けッ!!」
奴の再びの怒号。
仲間の吸血鬼達は俺を睨みながら散って行く。
「……仲間想いなんだな」
あれは決意する男の顔だった。
「そうみえるか?ただ単にあいつらがいると邪魔なだけだ」
「まぁ俺もちょうどいいぜ。俺の標的は、お前だからな」
ちっ……一番殺しにくい奴だぜ、こいつ。
「ふん、そうか。俺もお前を殺す理由ができたところだ」
刹那。
俺が一瞬で10mもの間合いを詰め込むと同時に奴に斬りかかる。
狙うは、首。ただ一点。
ヒュンッ!!
奴の首が宙を舞う。
と、同時に奴の頭は再生していた。
「ッ!?」
奴が剣で俺の首を狙って斬りかかる。
俺はとっさに奴の剣を受け止める。
ガキィッ!!!
ッ!!なんで!?なんであいつッ!!
「首を斬り落として死なないのかって?」
奴が言葉を発すると同時に地面に塗られていた奴の赤い血が無数の槍となって俺に襲いかかる。
「ッうぉおおおぉおおッッ!!」
俺は後方へ跳びながらすべての血槍を斬り、奴と距離をとる。
おかしい。おかしい。吸血鬼の絶対的弱点の一つは頭部のはず。なのにあいつはーーー
「……すさまじい反応だな。ふん。だが、理解しただろう?お前は、俺を殺すことはできない」
奴は首を鳴らしながら言う。
「……首を斬って死なない吸血鬼なんて聞いたことがないんだがな」
「ふん。お前達の上司に聞いてみたらどうだ?」
「……なんだと?」
上がこいつのことを知ってる…?
「お前何も知らないようだな。俺のことも、自分達の上司のことも」
「……俺の仕事はお前を殺すこと。それだけで、十分だ」
そうだ。俺は七家の頭だ。俺が揺らいでどうする。
「ふん。仕事熱心なことだな。話にならん」
「お前とおしゃべりに来たわけじゃないんでね」
「俺はお前とおしゃべりにきたんだがな」
奴は不敵に笑いながら言う。
「悪いが、冗談に付き合ってるほど暇じゃないんでね。そろそろ終わりにしよーぜ」
俺は刀を構える。
「終わりにする?お前に俺は殺せないって先刻証明したのをもう忘れたのか?」
「忘れてるのはッーー!!!」
地面が抉れるほどの跳躍で奴の懐まで距離を詰める。
目にも止まらぬ速さで再び奴の首を狙って斬りかかる。
「お前の方だッ!!!」
ザザンッ!!
奴の頭が宙を舞う。
が、数瞬の後に奴の頭が再生される。
「ふん。しつこい奴だな。俺には効かないと何度言ったらーーーッ!?」
奴が右手の剣を振ろうとして異変に気づいた。
奴の右腕がなくなっていることに。
「探し物はこれ?」
そこには奴の右腕を持った、大鎌を担ぐ霊宮の姿があった。
「本当は胴体真っ二つにしようとしたのだけれど……おまえ、すごい反応速度ね」
「ッ!十字架の大鎌!お前霊宮の人間か!!」
奴が声を荒げる。
霊宮は凛とした立ち振る舞いで奴に答える
「そう。私は霊宮夕婢。死神、霊宮の人間よ」
死神。霊宮が死神と呼ばれる所以は武器の大鎌だけではない。
音もなく、姿もなく、殺気すらなく殺す、無音殺人の達人だからである。
「よお、遅かったな」
「あいつ、隙なさすぎよ。首飛んで意識とぶ一瞬を待ってたの」
一回目首とんだ時は、死んだと思ったからびっくりしたわ
って俺に不満気に言ってくる。
おそらくあいつも目の前で見てたんだな……
「……ふん。右腕を完全に再生させるのにけっこう時間がかかりそうだな」
奴が自分の腕を見ながら言う。
「まだ再生できるの?普通は二度と再生できないのだけれど」
霊宮が驚いたように言う。
「時間はかかるがな。まさか霊宮に会うとは運がいいのか悪いのか……。というわけだ、悪いが今回は退かせてもらう」
「逃がすと思う?」
霊宮が大鎌を構える。
「やめとけ、夕婢。あいつ、本気だしたら俺達じゃどうにもならん。お前が最初の一撃で仕留めきれなかった時点で今回は諦めるしかない。それに、確かめたいこともあるしな」
俺は臨戦体制の霊宮をなだめる。
「ふん。賢い選択だな。 お前達の上司に言っておけ、待っていろ、と」
まぁまた会うことになるだろうがな。
そう言うと、奴は霧になって姿を消した。
待っていろ、ね……。
どういう意味なのか。
吸血鬼共の狙いは上なのか……?
俺達を殺す気がない吸血鬼
頭を斬られても死なない吸血鬼
考えれば考えるほど分からなくなった。
とりあえず俺は霊宮と一緒に帰路に着いた。
途中霊宮に奴を逃がしたことで何度か文句を言われたが、俺は上の空で話を聞いていた。
上は俺達に何か隠している。
俺はそんな気がしてならなかった。




