能力
施設長は、かつてフェレライと交戦したときのことを思い返していた。
あの戦闘には、今でも理解できない点がいくつもある。
(まず、一つ目)
戦闘が長引き、フェレライがマーキングしていた領域から離れたときのことだ。
明らかに、二十メートル以上離れた場所からの攻撃に対する反応が鈍くなった。
通常のゲヒュールと同じく、感情を認識できる範囲には限界があるのだろう。
つまり、マーキングによる感情認識は、無制限に機能するものではない。
(次に、二つ目)
フェレライの攻撃についてだ。
あれは、おそらくイメージを現実に植え付ける能力だ。
一見すれば、何でもありの無法な能力に思える。
しかし、実際にはそうではない。
(三つ目)
斬る動作や撃つ動作など、攻撃に対応した動作を必要としていた。
おそらく、現実に植え付けるイメージを強固にするためだ。
イメージが曖昧なままでは、能力が成立しないのだろう。
(四つ目)
動作による制約そのものは、取り除くこともできるはずだ。
だが、その場合は膨大な魔力を消費することになる。
燃費が悪すぎる。実戦で扱うには割に合わない。
だからこそ、フェレライも動作を省略しなかったのだろう。
(五つ目)
フェレライは、槍を投げる動作をしていた。
大量の魔力を消費しながら、あえてその動作を省略しなかった。
それによって、通常の物理現象としては成立しない攻撃を、現実に植え付けていたのではないか。
(六つ目)
フェレライの攻撃には、重さがなかった。
貫通する現象や、斬られる現象は発生する。
しかし、武器で受け止めても、衝撃で吹き飛ばされることはなかった。
そもそも、実体のない武器に重さなど存在しない。
持っていないものの重さを現実にする。それ自体が、イメージとして破綻しているのだろう。
(七つ目)
再現できる現象にも限界があるはずだ。
おそらく、ある程度の知識を持ち、具体的にイメージできる現象しか再現できない。
例えば、毒ガスのような複雑な現象は起こせないのではないか。
……いや、そもそも、本人がその現象を正しく理解していなければ、イメージを成立させることすら難しいはずだ。
施設長は、そこまで考えて目を開いた。
そして、静かに呟く。
「勝てないよなぁ……」




