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第四十七話:依頼

翌日、わたくしたちはエリーゼさん宛の手紙を出すため、ギルドに向かいました。

内容は、偽名だとは思いますが例の男が「ネモ」と名乗ったことと、拠点の一つがセルリア海岸の地下にあったことです。


ニーナは腕を組みながら、少し難しい顔をして歩いています。


「これでギルドマスターにも伝わるでしょう。どこまで意味があるかは分かりませんが…」

「そうですね。些末なこととはいえ、報告は大事ですわ。」

ニーナは少し呆れたような表情を浮かべます。

「…些末ではないと思いますけどね。偽名の可能性が高いとはいえ、拠点もあったわけですし。このあとはとりあえず海岸に向かいますか?」


『《フン。過ぎた謙虚は愚か物のすることだぞ。》』


(…うるさいですわね。)

わたくしは短く返しつつ、ニーナに答えます。

「その前に、一応依頼も確認してみましょうか。」

「了解です。」


ギルドの掲示板は相変わらず依頼の数が乏しく、木製の壁がよく見えますが、昨日と全く同じというわけでは無さそうでした。


「んー、相変わらず寂しいですが…」

ニーナが依頼書を見渡していましたが、ふと一枚の紙を手に取り、わたくしに差し出してくれました。

「あ、ルナイズ。この依頼、ちょうど良さそうです。即金にはなりませんが。」


「ありがとうございます。…ふむ、ここから東の海岸沿いにある村までの護衛ですね。途中で薬草採集も行いたいため馬車は使えず…と。なるほど、ちょうど良さそうですわね。」

「報酬は金貨二枚、行程は三日間を予定。出発は二日後の朝。条件も良さそうです。」

「依頼者とも顔合わせさせてもらって、問題なければ受けましょう。ちょうどわたくしたちの旅路ですし。」


わたくしたちは、その依頼書を持って受付嬢に尋ねました。


「すみません、こちらの依頼を受けたいのですが、受ける前に依頼者の方にお話を伺うことは可能でしょうか?」

「ええ、大丈夫ですよ。少々お待ちくださいね。」

受付嬢は依頼書を受け取ると、内容を確認し、手元の台帳と照らし合わせています。


「ええと、カヤさんのご依頼ですね。現在宿を取っていらっしゃるので、そちらを訪ねてもらえますか? 『白のさざなみ亭』の221号室です。また、仮で受注作業も行いますので、お二人のドッグタグの提示をお願いします。」

「承知いたしましたわ。」


わたくしたちは首から下げたドッグタグを提示しました。


「ルナイズ様とニーナ様ですね。承りました。この後、本日日付変更までに正式受注、キャンセルのどちらに関わらず受付までお越しください。正当な理由なくお越しにならなかった場合、キャンセル扱いとなりペナルティをつけさせていただきます。」

「承知いたしましたわ。」


わたくしたちはドッグタグを受け取り、ギルドを後にしました。


***


宿に到着したわたくしたちは、早速カヤさんの部屋に向かいました。

控えめに扉をノックし、ギルドから来た旨を伝えると、静かに扉が開きました。


「どうぞ、中にお入りください。」


そこに立っていたのは、透き通るような白い肌と、長く尖った耳を持つエルフの女性でした。

わたくしたちは、彼女に招かれるまま部屋の中へ入りました。


少し広めの部屋は綺麗に整頓されており、大きな窓からは明るい日差しが差し込んでいます。


「広くて綺麗なお部屋ですね。」

「ええ。ここに来る時は商談もしやすいように、この宿のこの部屋にしているんです。さあ、そちらのソファへどうぞ。」


カヤさんは柔らかな微笑みを浮かべ、わたくしたちをソファへ促しました。

そして、流れるような美しい所作でティーセットを用意し、温かいお茶を淹れてくれます。


「さて、お二人は依頼を受けてくださるのですよね。助かります。ここにはあまり護衛を引き受けてくれる人がいないので。」

カヤさんは対面のソファに腰を下ろし、優雅にカップを傾けました。


『《…護衛なんて必要なさそうだがな。》』

(ですわね。凄まじい魔力を感じますわ。)


一見すると穏やかなエルフの女性ですが、わたくしの感覚は彼女が内包する魔力の大きさを確かに捉えていました。


「失礼ですが…カヤさん。かなりお強いのではないですか?」


わたくしがストレートに尋ねると、隣に座っていたニーナがビクッと肩を揺らしました。

「ルナイズ!? 初対面の方に急に失礼ですよ!」

ニーナが慌ててわたくしを嗜め、カヤさんに向かって頭を下げようとします。


ですが、カヤさんは気を悪くするどころか、余裕のある笑みを深めました。

「あら…お分かりになるのですね。でも、私は魔力が多いだけで、戦闘はあまり得意ではないのです。それに、採集できる時は採集に集中したいですから、周りを警戒していただけるととても助かるのですよ。」


カヤさんの落ち着いた返答に、ニーナもほっと胸を撫で下ろしたようでした。

「なるほど、承知いたしました。ニーナ、特に断る理由もないように思いますが、どうでしょうか?」

「そうですね。お受けすることに問題はないと思います。」


ニーナは短く息を吐くと、カヤさんに改めて向き直ります。


「カヤさん。依頼を受けるにあたり、細かいところのすり合わせをさせてください。」

「ええ、何なりと。」

カヤさんは淹れたての紅茶が入ったティーカップをソーサーにそっと置き、静かに微笑んでニーナの言葉に耳を傾けます。


「道中の隊列ですが、カヤさんを中央にして、私とルナイズで前後を挟む形で警戒にあたります。戦闘になった場合は、カヤさんは無理に動かず、その場での待機をお願いできますか?」

「分かりました。貴女たちの指示に従います。」

カヤさんは落ち着いた様子で、頷きました。


「それから、道中の食事についてですが。基本的にはこちらで簡単な食事を用意いたしますので…」

ニーナが少し申し訳なさそうに説明を続けようとしたところで。

カヤさんが、ふふっと上品な笑い声をこぼしてその言葉を遮りました。


「お食事のことなら、私が作りますよ。」

「えっ? いや、しかしご依頼主様にそのような手間をかけさせるわけには…」

予期せぬ提案に、ニーナは言葉を詰まらせました。


「気にしないでください。私、料理をするのが好きなんです。」

カヤさんは本当に楽しそうに、少し悪戯っぽく目を細めました。

「せっかくの長旅ですから、美味しいものを食べた方がお互い気力も湧くでしょう? 食材はこちらで用意しますから、お二人は私の安全の確保に専念してくださいな。」


ニーナは少し悩んでいましたが、頷きました。

「…承知しました。ではぜひお願いします。ルナイズもそれでいいですか?」

「ええ、よろしくお願いいたします。」


わたくしたちは握手を交わし、カヤさんの部屋を後にしました。

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