67 友達の友達
「でな、Cの言動がオカシくなったまま元に戻んないから、AとBはマジでヤバいなコレ、ってなって。それで地元の古い寺にCを運び込んだんだけど――」
「うぅわ、出た出た出た、出ちゃったよ。T・E・R・A、寺! 霊感キレッキレな和尚がいて『破ァ!』とか言っちゃうやーつ」
「これって『残念ながらもう手遅れじゃ』なの? それとも『お主らも除霊の儀式を手伝え』ってパターン?」
語りの途中で混ぜっ返され、後部座席のカズシはデカく舌打ち。
運転席と助手席の背を軽く殴り、友人とその彼女に文句をタレる。
「てめぇらが怪談を聞きたいっつうから、わざわざ話したのによぉ……何なんだよ、この仕打ち。田舎に特有の都会っ子イジメか?」
「おいおい、生まれも育ちも千葉だろ。経歴偽装で訴えんぞ、カズ」
「てか、登場人物の名前がアルファベットなの、ぶっちゃけウザい」
カズシの抗議を、ヒロヤとリコはツープラトンで蹴散らす。
ネットで読んだのを思い出し、そのまま語った怪談だった。
人名のややこしさは、自分でも混乱しかけたのが否めない。
ともあれ、ここで終わらせると一方的に負けた感じが出てしまう。
なので、カズシはリコへと強引にバトンを渡すことにした。
「じゃあ次リコちゃんね。聞いたらその深夜に、本物来るのを頼む」
「知らないって、そんないかついの!」
「なら、どんなのあんの」
「えぇと……中学の頃に聞いた変な話がある、かな」
「ふぅん。俺も知らないやつ?」
ヒロヤの問いに「たぶん」と応じるリコ。
ペットの炭酸水を一口飲み、小さく咳払いをしてから始める。
「あのー、えっとね、これはパルちー……ああ、アタシと小中と一緒だった幼馴染で、春海ちゃんって友達がいるんだけど、そのパルちーのおじいちゃんの、兄弟の……孫かな? 曾孫? とにかく、そんな感じの親戚が、法事か何か……じゃなくて、正月! そう、お正月に親戚が集まってる時に、ちょっと何か酒の席にありがちの……何ていうの、ネタ話をするみたいな流れの、そういう風に盛り上がって。でね、そんで、そこでパルちーの……はとこだっけ? またいとこかな? まぁ、そのちょっと年上の親戚、十個くらい上って言ってたかな。その人が、クラスメイトから聞いた、って話を始めたんだけど――」
「説明ヘタクソか! 長いし、全然わからん!」
グダグダすぎる喋りに、限界に達したヒロヤからのツッコミが。
カズシとしても完全同意だったが、あからさまに機嫌を損ねたリコに追撃を入れるのはどうかと思ったので、苦笑するだけに止めておく。
「だから、そのパルちーの親戚の、高二の時のクラスメイトのお父さんが、会社の同僚から家族の体験談だっていって聞いたって話なんだけど――」
「またしてもワケわからん! その同僚の家族ってのを適当な仮名にするとかで、サクサク話を進めてくれって」
「えぇえ……もう、めんどくさいなぁ」
彼氏からの二度目のツッコミに、リコは車の天井を見上げて唸る。
一分ほどで話が整頓できたようで、また炭酸を飲んでから再開した。
「その同僚の奥さん、えっと……山田でいいか。その山田さんが、中学生だった時の話ね。山田さんが通ってた学校で、コックリさん……のアレンジ系? なんかそういうのが、急に流行したことがあったんだって」
「あぁ、キューピッドさんとか、星の王子様とか」
「そうそう、そんなの。十円じゃなくて、外国のコインを使うルールだったとか言ってたっけ。で、山田さんも友達二人に誘われて、放課後にやってみたらしいんだ。でも、どうも変な感じになったっていうか、呼び出した相手が普通じゃない動きで」
「動きが変ってのも、そりゃ……」
三人の誰かが動かしてるんだし、そいつの匙加減次第じゃねぇの。
とでも言いたげに口を挟んだヒロヤは、途中で言葉を濁した。
自分の無粋さに、危ういタイミングで気付いたらしい。
リコは怪訝そうに首を傾げ、気を取り直して続ける。
「誰かがフザケたにしても、ずっと『しぬ』とか『しね』とか『ころす』とか、そんな言葉ばっかりが出てきて、だいぶタチ悪い感じだったのね。そんなんだから、参加者の一人が怒っちゃって」
「まぁ、そうなるだろうな」
「その子は『いいかげんにして』って怒鳴って、そのまま帰っちゃった。もう一人の友達も、その子を追いかけてっちゃって。残された山田さんは、しょうがないんで自分も帰ろうとしたんだけど、呼び出した霊だか何だかは絶対に帰らせないと呪われる、ってルールを思い出したのね。だから『お帰り下さい』とか言いながら、指でもってコインを霊の出入口的な場所までね、スッと移動させようとしたんだけど……」
数秒の溜めを置いてから、リコは声のトーンを低くして続ける。
「コインがね、動かなかったんだって。ピターッてくっついたみたいに、もう全然動かないの。それで『やだ何これ! 帰って!』って言いながら山田さんが指を離したんだけど……コインがね、『いいえ』って書いてあるとこをグルグル回って、止まらない。困った山田さんは、悩んだ末に……放ったらかして帰っちゃった」
「放置かよ!」
「帰るなよ!」
カズシとヒロヤのツッコミが同時に飛び出す。
「呪いとかあんなら、コックリさん的な何かにはキッチリお帰りいただけよ!」
「そんなん言われても。アタシは聞いただけだし」
カズシの追加ツッコミに、リコが素で返してきた。
赤信号で停まったヒロヤは、左を向きながら訊く。
「そっから、何かあったのか? 呪われたり祟られたり」
「そういうのは、なかったらしいけど……」
「けど?」
「次の日ね、最初に登校したクラスメイトが、コックリさんもどきに使った紙がグシャグシャに丸められて、教卓の上に置いてあるのを見つけたんだって。で、何だコレって紙を開いてみたら、小っちゃくなった外国のコインが入ってた」
「サイズが縮んでたのか」
カズシが言うと、リコがゆっくり頭を振る。
「じゃなくて、折り畳まれてたの。二回ね」
その光景を想像し、カズシの背筋を冷たいものが通り抜けた。
青なのに発進が遅れたヒロヤは、後続にクラクションを鳴らされる。
リコの語りがヘッポコなんで、しょうもないオチだと予想していた。
なのに想像以上に薄気味悪い話で、若干リアクションに困っている。
「まぁ、アレだ……カズのインチキ話より、ちゃんとしてる」
「いちいち俺をディスらずに褒めろよ! つうか、何で唐突に怪談なんだ」
「これから肝試し行くんだから、そういうテンションにしねぇと」
「……んあ?」
「はぁ?」
ヒロヤの想定外な返答に、カズシは軽く金縛る。
リコも聞いてないのか、アホを見る目を隣に向けていた。
「ん? 言ってなかったか?」
「いや、そんなラノベ主人公っぽさはいらんが」
「てかヒロ、何なの? 肝試しって」
「知らんのか。夜中に墓場とか心霊スポットとかに行って――」
「違くて! どっからそんな話になったの、って訊いてんの!」
シラケ面のカズシと、半ギレ状態のリコ。
そんな二人に、ヒロヤは妙に気取った態度で答える。
「んー、今年はまだ夏らしいイベント、してないだろ」
「そう言われると、そうかもな」
「だから、ここらで行っとけ、と。機は熟してるはずだ、と」
「いやいや、誰の発言なんだよ。意味がわからねぇよ」
「まずアタシらに、色々と確認しなって……もう大人なんだし」
乗り気から程遠いカズシとリコが、強めのダメ出しをぶつけてくる。
しかしヒロヤは鼻を鳴らし、ボリュームを絞り気味にしてある音楽を停めた。
そして、ドリンクホルダーに置いたエナドリを一気に飲み干す。
投げ気味に缶を戻したヒロヤは、パキポキ首を鳴らして話を続けた。
「まぁ、実際に現場に着いたら、お前らもその気になるって」
「どの気だよ……ぶっちゃけ、ワリと帰りたいんだけど」
カズシが愚痴ると、ヒロヤは意味深に笑う。
「今回の目的地……病院なんだけど、ココはマジなやつだ」
「マジって、マジに? 本当に本物が出る、とかそういうの?」
リコのこんがらがった質問に、ヒロヤは重々しく頷き返した。
雰囲気が変わったと察したカズシは、とりあえず続きを聞くことに。
「つうかさ、出ても当然な謂れがあんだよ。俺と前のバイト先で仲良かった沖山君、何度か会ってるだろ? あの坊主頭で、五個か六個か年上の。その沖山君の高校時代の友達にな、晃ってのがいたんだ。そんで高二の夏休み、晃が四人のツレと車でもって――」
今回で完結となります……最後まで読んで「面白かった」と思ってくれた方は、是非とも評価をよろしくお願いします。




