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友達の友達  作者: 長篠金泥
第6章

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56 ブルーベルベット

 銃かよ。

 最悪だ。


 いや、最悪の事態は想像してたから、それが確定しただけ。

 霜山をおびき出すつもりが、コチラの接近を教える結果に終わった。

 あいつが姿を現しても、下手に動けば即座に反撃を受ける。

 だからって、この膠着こうちゃく状態を続けてもいられない。


 頭に血がのぼっている晃は、考えが全然まとまらない。

 現状を分析しようにも、ふくらみ続ける焦燥感が理性をけずっていく。

 落ち着け、いいから落ち着け――考えろ、ゆっくり考えるんだ――

 繰り返し自分に言い聞かせ、何度も深呼吸して動揺をしずめる。

 玲次も似たような精神状態なのか、心臓の辺りを何度も叩いていた。


 少し冷静さを取り戻した頭で、晃はシミュレートしてみる。

 自分が霜山の立場だったら、ここからどう動くか。

 それに対しては、考えるまでもなく最適解が出せる。

 優希か佳織に銃を突きつけ「出て来ないと撃つ」と言えばおしまい。

 人質が二人いるから、まず一人を撃ってしまうパターンも選べる。

 晃は歯軋はぎしりしている玲次に近寄り、押し殺した声で告げた。


「出てく雰囲気になったら、俺一人で行く」

「ああ……オレは隠れ続けてチャンスを待つ?」

「そんなんで。タイミングは任せる」


 時間的にも精神的にも、細かく打ち合わせる余裕はない。

 なので、事態が動いた後は玲次の判断に任せるしかなかった。

 いつも通りならば、持ち前のかんの良さでどうとでもなるはず。

 しかし今の玲次だと、そこまで安心して放置できない雰囲気だ。

 散々にやらかしたダイスケと比べれば、数倍マシではあるが――

 

「クソが……ココで殺しとかねぇとな、あのデブよぉ……」


 だいぶキレ気味なので、どうしても不安が残ってしまう。

 今日あったことを考えれば、色々と引きずるのも仕方ない。

 それはわかっているが、感情を優先されると思わぬ事故が起きる。

 綱渡つなわたりが延々と続く状況に、晃の気分と表情は曇るばかりだ。


 次のフェイズが始まるのを、晃はただジッと待った。

 怪我が原因じゃない感じの痛みが、体のアチコチで浮いたり消えたりする。

 神経を目の細かい紙ヤスリでゆっくり削られるような、しびれと痛み。

 実際に痛みがあるのか全て錯覚さっかくなのか、自分でもわからない。

 ともあれ、ひたすら不快で気を散らされる。


 玲次は既に移動を開始し、どこかわからん場所に身を隠している。

 低く合唱するハトと、妙にテンションの高いカラスがやかましい。

 時々「ひぐっ」とか「えうっ」とかの、嗚咽おえつの断片が混ざった。

 佳織なのか、優希なのか――たぶん佳織だろう。

 彼女らの限界も近そうだが、霜山はまだ動かないのか。

 舌打ちを発しかけた晃は、危ういところで止める。


 そこから一分か、三分か。

 短くはないが、そう長くもない時間が経過した後。

 不意に白っぽい明かりがはじけ、晃は目をくらまされる。

 LEDランタンの光の中に、数人の姿が見えた。

 ひざまずかされた優希と佳織と、二人の背後に立っているデブ。


 霜山だ。


 薄気味悪い笑顔を浮かべ、左手でスルスル佳織の髪をいていた。

 服装がインチキBボーイ風から、薄灰色のツナギに変わってるのは何故。

 されるがままの佳織は、頭を触られる度に押し殺した悲鳴を漏らす。

 そして霜山の右手には拳銃――ではなく、見覚えのある刃物が。

 リョウが慶太の指を切り落とすのに使った、あのナイフだ。


「いるんでしょ? 出てきなよ」


 軽い調子で霜山が呼んでくるが、晃は動けない。

 玲次も反応を躊躇ちゅうちょしているようで、動きがなかった。

 銃だったら、自分か玲次に狙いが移れば、佳織は安全だろう。

 しかしこの状態では、仕掛けた瞬間にザクッといかれそうだ。

 そんな予感がしたので、とりあえず様子見を続けたが――


「シカトするなら、左からね」


 左、とは何の左だ。

 不吉な雰囲気があるが、それでも晃は待つ。

 十秒ほどしてから、霜山の右手がサッと動いた。


「あづっ――え……えぇっ? ううぁあぁぎっ――ぃいいいいいぃいいっ!? ひぃあああああああああああああああっ!」

「早く出てこないと、右もなくなるけどー?」


 リンゴを切るのと大差ない、自然な動作だった。

 まるで日常の一コマのように、佳織の左耳は切り落とされる。

 佳織は最初、自分が何をされたか理解できなかったらしい。

 しかし痛みと出血で把握して、側頭部を押さえて絶叫を吐き出している。

 指の間から流れ散った血は、ランタンの光に照らされ不自然に赤い。


 晃もまた、目の前の光景にリアリティを感じられなかった。

 これが現実と認識するのに、佳織以上に手間取ったかもしれない。

 すっかり忘れていた――というか、麻痺まひしていたのだ。

 自分らが相手しているのは、完全にタガを外している狂人。

 常識的な思考で対処して、どうにかなろうハズもない。


「でっ、出てくからっ! 待てって!」


 もはや選択の余地も、交渉の余裕もない。

 そう判断した晃は、裏返り気味の声で応じて自分の姿を晒す。

 切り取った耳をつまんでブラつかせていた霜山から、作り笑いが消えた。

 それから、切る時と同じ何気なさで、左耳を放り捨てる。

 コチラを見据え、ナイフの刃先をチョイチョイと動かす霜山。

 これは「こっちに来い」と言ってる、と判断した晃は小股こまたで歩み寄る。


「もう少し早く。両手は組んで、頭の上」

「わかった、わかってるから」


 言われた通り、晃は両手を頭上に持っていこうとする。

 その瞬間「ブチブチミチッ」と不吉な音が耳元で鳴った。

 破壊された左肩が、負の存在感を盛大にアピールしている。


「んっ、はぁああぐぁ!」

「モタモタしないで」


 思わず叫んでうずくまった途端に、冷えた声が投げられた。

 霜山の機嫌を損ねたら自分は勿論、優希と佳織にも被害が及ぶ。

 だから晃は、血の味がするほどに唇を噛んで立ち上がった。

 そしてギクシャクした足取りで、三人のいる方へと近付いていく。


 極度の緊張のせいか、一歩ごとに足が地面に沈む感覚にとらわれる晃。

 無理に上げた左肩の奥には、火傷に似た熱いうずきが発生している。

 霜山の方を見れば、手にした凶器がナイフから拳銃に戻っていた。

 正式名称はわからないが、いかにも拳銃という雰囲気の拳銃。

 映画やマンガで見覚えがある、消音用の部品がついているようだ。


 サイレンサー――最近はサプレッサーとか呼ぶんだっけ。

 銃声に半端な印象があったのは、これが機能していたからか。

 晃はやけに落ち着いた気分で、銃についての考察を重ねている。

 いきなり心臓や眉間みけんは撃たないだろう、という計算とも言えない判断。

 それによって生じたヤケクソな精神状態が、晃を冷静にしていた。


「そこで止まって」


 霜山の言葉に従い、晃は足を止める。

 彼我ひがの距離は十メートル前後か、もう少し短いくらい。

 攻撃に転じるには、ちょっとばかり遠すぎる。

 さりげなく間合いを詰めようとすれば、銃口を向けて制止してきた。

 短いにらみ合いを経て、霜山は苦笑らしき表情を形作る――

更新ペース乱れっぱなしで申し訳ねぇです……

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