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友達の友達  作者: 長篠金泥
第6章

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54 暗いところで待ち合わせ

 一つの動作ごとに、体のアチコチ――というか、隅々(すみずみ)まで痛みが広がる。

 積み重なった痛みと疲れは限界に近く、気を抜くと意識を失いかねない。

 だが、そんな最悪のコンディションにも、アキラは順応し始めていた。

 どんなクソみたいな環境でも、人間はいつの間にか慣れるんだな――

 他人事みたいに考えながら、フラつく体を操縦そうじゅうして一歩一歩前に進む。


「ったく……ボス倒したんなら、ヘリが救助に来るべきだろ……」

「どういうこじれ方の、ゲーム脳だよ……」


 晃の軽口に、先導している玲次レイジが振り返らずに応じる。

 アチラも限界に近いようで、声にはまるで張りがない。

 怪我が痛むのか、時々「うっ」とか「ぐっ」とかのうめきが漏れる。

 ともあれ、二人とも脚に大ダメージがなかったのは、不幸中の幸いだな。

 無意味なよかった探しをしつつ、感覚が消えた左肩に対しふくらむ不安を、意識から追い出そうとする晃。


「無理だったら、言ってくれよ」


 玲次が足を止め、心配そうな表情で言ってくる。

 リョウがドロップした小型のフラッシュライトを振り、晃は短く返す。


「……ああ」


 実際は無理と無茶のテンコ盛りだが、言ってもしょうがない。

 本音のところは、背負うかどうかして運んでもらいたい状態だ。

 しかし玲次の方だって、入院不可避の重傷を負っているはず。

 下手に頼ってしまえば、共倒れになって身動きが取れなくなる。

 なので晃は「弱音を吐く」という選択肢は捨てるしかなかった。


 何度か小休止を入れたが、それでもどうにかB棟まで辿り着いた。

 ここまで来れば、出口も近い――自然と安堵あんどの溜息が出る。

 そんな晃の視界に、ドアが開け放たれたままの部屋が映る。

 最初の脱出行で、ダイスケが飛び出してきた警備員の詰所だ。

 何となく明かりを向けてみるが、当然ながら誰もいない。

 さっき見た時と同じ、荒れた室内が浮かび上がるだけだった。


「何してんだぁ、晃?」

「いや……ダイスケがココに監禁されてたの、思い出して」


 その言葉に、玲次の表情がけわしく引きった。

 頭蓋ずがいを踏み壊されて死んだ、凄絶な最期が浮かんだのだろう。

 晃としても、無惨な終わりを強制されたダイスケをいたんではいた。

 だがあいつのことを思い出すと、余計なアレコレも一緒に浮かぶ。

 間抜けなミス、ありえないポカ、アホすぎる暴走、イラッとくる失言。

 NG集のようなトンチキの数々に、何とも言えない気分にさせられる。


 だからと言って、悲しくないワケではない。

 殺されたのも仕方ない、と突き放せるものでもない。

 こんな状況でなく出会っていれば、友人になれた……かもしれない気がしない、とは言い切れないとも限らない感が、そこはかとなくあるようなないような。

 とにかく、かたきだけは取ったぞ――というところで、晃はすっかり忘れていたヤツのことを思い出す。


「そういや、あのデブ……霜山シモヤマの野郎、どうした」

「あっ…………あー、まぁ、どうにかなんだろ」

「ぶははははっ――あふっ、くっ――ぅうううぅ……」


 変な間がガッツリと入ったし、玲次も忘れてたな。

 つい大きめの笑いが出てしまい、全身の各所が盛大にきしむ。

 結構な痛みに顔をしかめながら、晃は質問を重ねた。


「あの野郎、まだ地下室にいるのか」

「知るかよ……オレに訊くなって」

「他の誰に訊くんだよ。上に来るまでは、霜山も一緒か?」

「ああ……だけど、その後は知らん」


 不機嫌さを丸出しにして、吐き捨て気味に答える玲次。

 ここはえて踏み込むべきなのか、と検討してみる晃。

 だが少し考えて、玲次が話したくないのは霜山についてじゃない、と思い至る。

 言いたくないのはたぶん、慶太ケイタがどうなったのか、だろう。

 自分と優希ユキが追い出された後、あの地下室で何があったのか。

 いずれ確かめる必要はあるにしても、それは今じゃなくていい。


「あのデカブツは死んだし、あの……クロだっけ? あいつもそっちでブッ殺したんだろ? それを知ったら逃げるしかねぇだろ、デブだし」

「いや、デブ関係なくね? まぁ霜山単体は話にならんとしても、テイザーガンとか持ち出してたし、油断してっとヤバいかもしれん」

「そう、だな……」


 そんな話になると、玲次はドアの前で足を止める。

 引き返して霜山に対処すべきか、真剣に検討している様子だ。

 自分から話題に出した晃だが、感情はともかく体がまともに動かない。

 二対一で負ける気はしないけど、罠を仕掛けられたらどうなるか。

 悩みつつ決断を待っていると、玲次の手が金属のレバーを引き下げる。


「あのデブが出てきたら、殺すつもりで返り討ち……でいいだろ」

「こっちから狩りに行くのはナシ、と」

「カオリさんとユキさんも待ってる。早いとこ合流しよう」

「……だな」


 リョウが動かなくなった後、持ち物を探ったら鍵が出てきた。

 見覚えのあるキーホルダーからして、慶太の車ので間違いない。

 玲次も晃も無免許だが運転の経験はあるし、佳織カオリは免許を持っている。

 車に乗ってしまえば、そこからはどうとでもなる――はずだ。

 晃がポケットの中の鍵の感触を確かめていると、重たい扉が開かれる。

 霜山が待ち構えている可能性も少し考えたが、人の気配はなかった。


「やっと、終わりか……」


 カスカスの声で、玲次がボソッと呟く。

 外の空気は、さっきよりも冷えているようだ。

 まだ暗いが遠くはかすかにしらみ、朝の近さを伝えてくる。

 四方八方から聞こえる鳩の鳴き声にも、今は不気味さを感じない。

 ここで出てこないとなると、霜山は何をやっているのだろう。

 今も病院内にひそんでいるのか、それともサッサと逃げたのか。

 

「結局のとこ、霜山は何が目的だったんだろうな」

「何って、そんなん……現実と妄想の区別がつかないキチガイ共が、ただメチャクチャやっただけ、だろ」


 半ば独り言のような晃の問いに、玲次は投げりに応じる。

 確かに、クロとリョウには欲望に従っている気配が感じられた。

 クロは、女性を破壊しながらの性的ファンタジーの実現。

 リョウは、制約から解放された状態での暴力による殺人。

 二人の動機に関しては、大体そんな感じだろう。

 しかし、霜山はもう少し複雑なものを抱えている印象があった。


 哲学とか思想とか、そういう高尚こうしょうな何やかんやではない。

 アタマやココロの深い場所がみ腐っている、とでも言うのか。 

 リョウとクロに指示を出す時や、慶太と翔騎ショウキに決闘を命じていた時。

 そして、その後に『犠牲になる誰か』を選ばせた時なんかに、霜山の底意そこい垣間見かいまみえたように晃には思えた。

 

「考えるのは後だ、晃。えぇと、二人はどこなんだっけ?」

「病院の正面に回って、そこの広場周辺……のはず」


 カラ元気を振り絞っているのか、玲次は早足でもって進んでいく。

 それに合わせて晃も歩幅を広くするが、全身の痛みに悶絶もんぜつさせられた。

 大丈夫、すぐ慣れる――そう自分に言い聞かせ、晃は歯を食い縛る。

 十数歩に一回ペースで、背中や脹脛ふくらはぎ痙攣けいれんの予兆めいた強張こわばりが走った。

 普通の生活で使わない筋肉が、片っ端から酷使されているようだ。


「もうちょい急げないか、晃」

「現状で、マックス、だっての」


 これ以上のスピードアップは、物理的に不可能に近い。

 恨みがましく前の背中をにらむ晃だが、玲次はさりげなく速度を落としている。

 口ではこちらをかしつつも、そこまで無理をさせるつもりはないようだ。

 とはいえ、今のペースでもダウン寸前なのが否めない。

 少しでも気を紛らわせようと、晃は息切れしながら話を振る。


「警察に、通報して……どう、誤魔化ごまかす?」

「ぁん? 誤魔化すって、何を」

「アレだ……連中、じゃなく、俺らの、方で……やった、こと」

「正当防衛、で通すのはムズいか……面倒だな」


 晃が懸念けねんを口にすると、玲次はガシガシ髪をき回す。

 晃としても、可能ならば「なるようになるでしょ」でスルーしたい。

 しかし、その方向を選んでしまうと、確実にロクでもないことになる。

 非常識なイベントの連続で麻痺まひ気味だが、人が死ぬのは大事件なのだ。

 なのに病院の中には、晃が知るだけで六つか七つの変死体がある。


 翔騎、ダイスケ、タケ、サクラのグループと、クロとリョウのコンビ。

 認めたくないが、慶太も既に生きてはいないだろう。

 七人が、一晩で死んだ――殺された。

 改めて考えてみると、とんでもないなんてモンじゃない。

 

「……ダメだ、考えがまとまらねぇ。晃はどうだ」

「とりあえず、体中が痛い。あと、めっちゃ眠い」

「オレよりダメじゃねえか」


 そんなことを話しながら、病院の正面入口前へと到着。

 ライトを振って「ココだ」とアピールするが、反応がない。

 優希と佳織は気がついてないのか、それとも別の場所にいるのか。

 アチコチ照らしていると、地面に転がったままの腕が目に入る。


「……クッ」


 それが降ってきた光景を思い出し、晃は上階の窓を見上げた。

 開け放たれたままの窓に、人影は確認できない。

 苦々しく唾を吐いた直後、玲次が不意に声を上げて小走りに移動。


「んっ、アレは」

「二人がいたかっ?」

「いや……これ」


 玲次がランタンで照らしているのは、石畳が大きく崩された一角。

 人為的なものではなく、雑草と庭木の放置が原因だろう。

 自然の力で不自然に浮いた、平たい石の上に置かれた異物。

 それは、淡い水色のブラジャーだった。

今回から全てが終わりに向かう最終章が始まります。

このロクでもない物語がどんな結末を迎えるのか、最後まで見届けてください……

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