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友達の友達  作者: 長篠金泥
第4章

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32 死にたくない

 優希の発する無秩序むちつじょな暴言は、三分近くも続いていた。

 体感的には数時間にも思えるしんどさだが、晃は黙って受け止める。

 

「お前が死ねよっ! 死ね死ね死ね死ね死ねっ! 何とか言えよ晃ぁ! だからさぁ、何か言えって言ってんでしょうがぁ! 黙ってないでさぁ!」


 エンドレスに罵倒ばとうされ、胃がえぐられるように痛む。

 だけど何を言っても無意味だし、相手をますます逆上させるだけ。

 そう考えて無言をつらぬいていると、優希が不意に言葉を切った。

 どうしたのかと見れば、顔色が真っ白になっていて、両目にはおびえがにじんでいる。

 正気に戻った――というか、怒りを恐れが上回ってしまったようだ。


「……ねぇ、何か言ってよ」

「ごめん……ホントに、ごめん」

「いやゴメンとか、そういうんじゃなくて……もっとこう、あるでしょ?」

「……ごめん、優希さん」


 どう取りつくろっても、いくら言葉を飾っても、何の意味もない。

 それを自覚している晃は、シンプルな謝罪の言葉だけを繰り返す。

 やがて腰が抜けたような動作で、優希がペタンと床に座り込む。

 どんなに抗議しても運命が変えられない、と悟ってしまったのか。


「マジで、マジ何なのこれぇ……ありえないって、ホントにこんな……こんなのおかしいじゃんって……ねぇ」


 優希はブツブツ言いながら、獅子舞ししまいめいたダイナミックな動きで首を振る。

 自分に降りかかろうとする理不尽に対し、全身で拒絶しているのかようだ。


「いきなり呼び出されたと思ったら、やりたくもない肝試しに付き合わされて……散々ヒドい目に遭わされて、そんでもってここで死ぬ? 殺される? 何それっ!? ぜんっぜん意味わかんない! ……だから、ねぇ佳織」


 名前を呼ばれ、ビクッと肩を揺らして佳織が顔を上げる。

 上げはしたが、優希の方はかたくなに見ようとしない。

 何度呼んでも応じない友人に対し、優希は床をバンバン踏み蹴りながら言う。


「替わって……私と替わってよ! ねぇ! 自分でも言ってたけどさ、何もかもアンタの馬鹿なカレシのせいじゃん、今日のこれ全部っ! なのに、なのにさぁ、どうして私なの! 替わってよ! そんで死ねよ! くぁっ、わぁあ、れぇええええええええええええええええええええっ!」


 優希は高音で怒鳴り散らすが、佳織は答えようとしない。

 無言で涙を流し、激しくしゃくりあげている。


「泣いてんじゃないよっ! そんな嘘泣きはいらねんだよっ、カマトトぶってんじゃねぇよクソアマッ! 替われって言ってんでしょ! なぁああああああっ!?」

「ユキ……もう、もうやめて……」

「はぁああああああっ!? やめろって!? 黙って死んでろっての!? だからぁ、アンタが代わりに死んでってさぁ! さっきから言ってんじゃん!」


 優希の怒涛どとうのキレっぷりは止まらない。

 諦めて受け入れたら、そこで殺されるのは確定してしまう。

 だから、どこまでも悪足掻わるあがきをするのはわかる――わかるんだが、見るにえない。

 呪いの言葉を吐き散らす優希の姿に、晃は窒息ちっそくしそうな気分だ。

 内輪揉めを見物しているクロとリョウが、心の底から楽しげにニヤニヤしてのも猛烈に不愉快だった。


「じゃあもう、玲次くんでもいいや。クッソ馬鹿な兄貴の罪滅ぼしにさぁ、死んでよ……ね? 私じゃなくて、あんたでいいじゃん。馬鹿の遺伝子は共有してるんだからさ、サクッと死んじゃってよ」


 冷静になったのか、或いはキレ具合が更に一歩先に進んだのか。

 優希の声がトーンダウンする――が、内容は激烈なままだ。

 思考停止しているのか、或いは既に優希を死人と認識しているのか。

 玲次は能面っぽい無表情のまま、何も答えようとはしない。

 効果がないので諦めたか、今度は慶太へと矛先を向けた。


「じゃあやっぱり、慶太さんにお願いするしかないじゃん……さっき、替わるって言ってたし、いいでしょ? そもそも、そもそもだよ? おかしいじゃない、私が選ばれるとか。悪いのはアンタなんだし。廃墟で肝試しとかさ、そんな馬鹿なこと考えなきゃ、こんなことになってないし。だから、ね? 死んで?」

「ユ、ユキちゃん……」

 

 それが当然だ、くらいのテンションで「死ね」と言ってくる優希。

 身代わり上等だったハズの慶太も、顔をしかめてドン引きしている。

 晃もたまれなさを高めていると、フッと首を回した優希と目が合う。


「ホラホラ、晃くん……私じゃなくて慶太さんにするって言ってよ。ねぇ、死ぬのは私じゃなくて、慶太にしましたって。言え。言えよ……言いなさい! ねぇ!? 言えってんでしょぉおおおおおおおおっがっ! シカトしてんなよ、ぅおいっ!」


 語尾が震えてきたと思ったら、唐突に金切かなきり声へと転じる。

 命が懸かっていると、人間はここまで豹変ひょうへんできるのか。

 鼓膜こまくに刺さる絶叫を受け止めながら、晃は変な具合に感心していた。

 ここまでの醜態しゅうたいさらさせてしまったのは、心が痛むが――

 俺を指名しろ、と言いたげな慶太の視線にも気付いている。

 だが晃は選択を変えず、小さくかぶりを振って拒絶のサインを示す。


「さて、ユキちゃんの熱烈にも程があるアピールタイム、一段落したみたいだけどさ。アキラくんの答えは変わってないのかにゃ~?」


 フザケた調子でリョウに訊かれ、晃はしばらく間を置いてから頷く。

 別に迷ったわけではなく、迷わず即答したのがバレたくなかったから。

 こんな状況に至っても、まだ「いい人」っぽく演じようとしている。

 そんな自分に、ちょっとどころじゃなくウンザリする晃だった。


「ファイナルアンサー?」

「ファ――」


 無駄に渋がった口調でクロに問われ、思わず乗りそうになる晃。

 しかし、ギリギリのところでしのいで、首を縦に振った。


「では霜山さん、お願いします」

「しまぁーす」


 リョウとクロがそう言いながら、霜山の左右を固める位置に移動する。

 室内で進行する状況を黙って見物していた霜山は、ゆったりとした動作で椅子から腰を上げた。

 優希を中心に繰り広げられた、感情をき出しにした口論に呆れての冷笑か、それとも興奮しているのか、口の端が上がっているような。


「ふぅう、ぅん……」


 ねっとりとした溜息を吐きながら、霜山が二歩ほど前に出た。

 晃が、優希が、慶太が、佳織が、玲次が、この場を支配する男を凝視ぎょうしする。

 その表情は愉悦ゆえつを通り越して、もはや恍惚こうこつに近い。

 オーバーサイズのパンツなので定かじゃないが、勃起ぼっきしているようにも見える。

 サディストにとっては、今こそが最高の瞬間なのかもしれない――

 晃は気色悪さに歯噛はがみしつつ、キモさ絶好調の霜山の言葉を待つ。


「……これが、最後の確認だけど」

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