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友達の友達  作者: 長篠金泥
第4章

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33/63

33 パターンCでお願いします

 たっぷりのタメの後で、霜山は仰々(ぎょうぎょう)しく問いを投げる。

 その芝居しばいがかった振る舞いは、まるで映画のラスト手前のようだ。

 茶番ちゃばんに付き合わされる馬鹿馬鹿しさと、おびえる心をしずめられない忌々(いまいま)しさ。

 二つの感情に心中をき回されながら、晃は小さく頷いた。


「アキラ君の選んだのは、ユキちゃん……それで間違いないかな」


 既に覚悟を決めている晃だが、やはり即答するのは躊躇ためらわれる。

 なので、数秒の間をとってから首を縦に振った。

 しかし、霜山は答えを待っているポーズを崩さない。

 仕方ないので、声に出して返事をする。


「……そう、です」

「犠牲にするのは、ケイタ君じゃなくてユキちゃん。それでいいの?」

「はい」

「殺されるのは、レイジ君じゃなくてユキちゃん。本当にいいの?」

「はい」

「お別れするのは、カオリちゃんじゃなくてユキちゃん。そうなの?」

「……はいっ」

「死体になるのは、アキラ君じゃなくてユキ――」

「だから、そうだって言ってんだろがぁ! もういいってんだよ!」


 澄まし顔とドヤ顔を絶妙な匙加減さじかげんでミックスした、ここ数年間に目にした中で最高にムカつくつらで質問を繰り返され、我慢の限界に達した晃はついつい立場を忘れて怒鳴り返す。

 制裁を加えるつもりか、リョウがスッと一歩踏み出した。

 だが霜山は、片手を上げてそれを止める。

 それからパンパンと素早く二回手を叩き、きびすを返して優希を見る。


「あぅ、う……」


 ねっとりとした視線に絡め取られ、優希は低くうめきを漏らす。

 晃には想像するしかないが、現在の彼女の頭の中には、死の恐怖を筆頭とした様々な感情が吹き荒れているに違いなかった。

 そんな優希をしばらく見据えた霜山は、不意に優しげな表情を浮かべると、何気ない調子で問いを発した。


「死にたくない?」

「うっ、ううっ」


 まともな声にならない二つ返事が、高速で首を振る優希から出てくる。

 霜山は満足げに微笑み返すと、更に質問を重ねる。

 

「そりゃまぁ、死にたくないよね。じゃあ……キミは助かるけど、代わりに他の全員が殺される、って条件でも助かりたい?」

「それでも、それでもいいよっ! しし、死にたくっ――死にたくないっ! こんな、こんなとこで死ぬのっ――いや! こんなのは、いやだからっ!」


 鼻声になっているが、回答にはまったく迷いがない。

 慶太と佳織は、友人の豹変ひょうへんに困惑している様子で優希を見る。

 今日が初対面の玲次も、絶叫命乞いにはドン引きしているようだ。

 ここまで追い詰めた原因の大部分は自分にある――そう自覚している晃としては、優希がどんな醜態しゅうたいを晒しても責める気にはなれなかったが。


「落ち着いて、ユキちゃん。残念だけど、キミはアキラ君に犠牲者として選ばれたんだ……だから、もう助からない」

「ぞっ、んなっ――」

 

 残酷な事実を告げる霜山に、優希は絶望を一段と深くした。

 心の底から霜山が楽しそうで、フザケた笑顔に殺意が湧き起こる。

 だが、暴れても事態が悪化するだけ、と自分に言い聞かせ晃は動かない。

 

「でも、それじゃあんまりだよね。だから、選択肢をあげよう」

「せん、たく、し?」

「そう。条件次第で、死に方を選ばせてあげるよ」


 何を言われてるんだろう、という感じに優希が周囲を見回した。

 クロがガラムに火を点けて、ジッポをポケットに戻して深々と吸う。

 そして甘ったるい煙を吐き出すと、選択肢とやらを提示する。


「パターンA、犯されてから殺される。パターンB、犯されながら殺される。パターンC、殺されてから犯される……さ、どれでも好きなの選んでチョーダイッ!」


 カクカクと腰を振りながら、クロはゲラゲラと笑う。

 嫌悪感を丸出しに目を逸らした優希は、霜山の方へと向き直った。

 微笑をたたえた霜山は、優希をいたわるような口調でもって訊ねる。


「条件は簡単だ。キミの道連れを一人、選んで。そしたら――」

「晃っ! 晃で!」


 クイズ王でもここまで早押しできないだろう、食い気味の即答。

 ここまでの経緯いきさつからして仕方ないとは思うが、ここまで憎まれているのはさすがにつらいものが――

 そこまで考えたところで、自分に死刑宣告が向けられたのを把握はあくした晃は、頭の芯がてついた状態で吼える。

 

「はっ――はぁあああああああっ? 何がっ!? 俺もう関係ないだろ!」

「ボクはね、公正さを大事にしたいんだ。誰かが理不尽に傷ついていたら、別の理不尽をそこに重ねてでも救いたくなる……そういう気持ち、わからないかな」

「なっ、なんっ……なな、な……」


 霜山が何を言っているのか、サッパリわからなかった。

 優希を犠牲にしてみっともなく助かるはずが、みっともなさはそのままに自分まで死ぬことになるとか、本気でワケが分からない。

 慶太と玲次と佳織は、コロコロと変わる状況への戸惑いからか、声も出さず身動みじろぎもしないで、推移をジッと見守っている。

 優希は、狂気をはらんだ笑みで晃をめつけていた。

 愕然がくぜんと眺めていると、彼女の唇が「ざまぁみろ」と動く。


「はいはーい、じゃあユキちゃん、どんなラストを迎えたいのかにゃ~?」

「――ン、Cで」


 ノリノリで訊いてくるクロに、優希はかすれた声で答えた。


「んん? Cか? パターンCは何だったっけ? ちゃんと言えよオイッ」

「ぁうっ」


 クロに軽めに背中を蹴られ、優希は改めて答える。


「さ、先に……殺して」

「まず殺されて、からの~?」

「殺して、から……犯して」

「はい! 女子からの屍姦しかん要請、入りましたぁ! いやはや、もうね。マニアックな要求過ぎて、おじさん軽く引いちゃってるよ? 最近の子はスゲェなぁ、マジでありえねぇってば」


 わざわざ言わせておいて、クロは心底楽しげに優希をなぶる。

 悪趣味さに反吐へどが出そうになる晃だが、優希の前菜として殺されそうな立場に転落しているので、それとは無関係にもう吐きそうだった。

 そんな晃をチラッと見て、それから優希の方も確認して、霜山はフンッと小さく音を立てて溜息を吐いた。


「じゃあ、決まりだね。選ばれたのは、ユキちゃんとアキラ君」


 それだけ告げて、喜色満面きしょくまんめんの霜山は口をつぐんだ。

 何の意図があるのかわからない、無言の時間がしばらく続く。

 場の緊張感が飽和ほうわしかけたところで、小太りは再び口を開いた。

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