地上と地底 ⑨
「ねえ、ところでお兄ちゃんはどこ。お兄ちゃあーん」
リンの声は虚しく辺りに響き渡るのみだった。焦りながら
「ど、どこにいるの。ねえ、イシくん。それと、何と呼べば良いかな・・・」
と、リンはそう言って体をこわばらせた。さっきまで自分の後ろから教えてくれた兄は今、どこにいるのだろうか。何度辺りを見渡してもその姿がなく、心の中で呼びかけても返事はなかった。すると、二人を復活させたその人が落ち着いてこう答えた。
「あ、私ですか。それでしたらジンと呼んでください」
リンはすぐに答えた。
「ジンって、もしかして古くから伝わるあの人のこと」
ジンはそう聞いて少し頬を緩めたが、何も返事をしないままイシへこう言った。
「ここはまだ危ない。すぐに移動しましょう」
そう言うジンの目と一秒程目が合ったイシには、それが彼の本心だと瞬時に伝わった。
「あ、この人って・・・」
イシがそう小声にした瞬間、三人の後方から大きな爆裂音が鳴り響いた。驚いた三人はすぐさまそれぞれの背をくっつけながら辺りを警戒した。
「あいつ、まだ生きてるな」
右横で聞こえたイシの声にリンも密かに答える。
「うん、まだいる」
近場の土壌には生物がいる様子はない。しかしよく見てみると、小さな気泡が湧いているのが見えた。
「ねえ、お兄ちゃんはどこ」
イシにもわからなかった。どうして先程までそこにいた真純が消えたのか。あの爆風でここから遠くへ飛んで行ってしまったのか、それとも他になにかあるのか。そう思いながらもこう言った。
「ジンさん、どうやらあなたは私よりも優れた能力をお持ちのようです。なのでリンの問いに答えてやってくれませんか」
すると、ジンは一度頷いたもののすぐに唱え始めた。
「urunnchuugeruneruga・・・・」
「では、いいですか。この世界、つまり地底と地上がまもなく終わるのです」
「はっ、何ですか。終わるって」
ジンは何も答えずじっと横目でこちらを見ていると、やがてあの相手がようやく三人がいる上空へ現れた。ジンは右手で指差してこう続けた。
「ほほう、あの光の剣をまともに受けたはずだが。まあ、いい。お前は私には勝てない。二人は後ろへ隠れていなさい。イシくん、直ちにシールドを張りなさい」
イシはこくりと頷き、すぐさま光で全身を覆った。今も騒いでいるリンの右手をそっと優しく握ると、その時の光はやがて緑色から金色へ変化した。この瞬間をジンは見逃さなかった。そしてリンはその手を引かれながら岩陰へと隠れた。それからジンは再び光の剣を再び出したまま、相手をじっと見つめた。
「勝てないだと、舐めやがって。お前が古代より伝わる者なら俺は再生出来なかったはずだ。つまりお前はあの者ではないということ。なら、何も問題ないわ。いくぞっ」
相手はそう言うとすぐに自らの姿を消した。一方、ジンは一息ゆっくりと吐き出しながら両目を静かに閉じた。風はなく辺りは昼間だが、次第に薄暗くなってきた。それと同時に、ジンが全身で発している光が眩しさを増してきた。次の瞬間、ジンの姿も消えた。そこにはけたたましい金属音だけが何度も聞こえている。戦いは続き、二人には何もわからないまま数分が経過した。その後、二人の前にぼわっと再びジンの姿が目に入ってきた。右肩を負傷したのか左手でその部分を抑えている。二人と同じくらいの体型のジンは、やや表情をしかめたまま周囲を警戒していた。すると、どこからともなく低い声が聞こえてきた。
「はっはっは。やっぱりお前は古代の者ではないな。その傷が何よりの証拠だ」
ジンはそれを聞くと一瞬だけ笑みを浮かべた。しかし、それはリン達の心配を拭うほどではなかった。
「ねえ、イシくん。これってやばいかも」
それにイシは何も言わないまま、未だ取り乱すリンの背に己の片手を当てたままじっとジン達の姿を見ていた。
「大丈夫、きっとジンさんが勝つよ」
「・・・、どうしてそう思うの」
「わからない。でも、あの人ってなんだか僕と同じ匂いがするんだ」
「えっ、どんな匂い」
「なんか懐かしい感じ」
「へええ、ってさ。それよりお兄ちゃんはどこ。ねえ、イシくん。さっきから私の話、聞いてるの」
「うん、聞いてるよ。でも、リンちゃん今は落ち着いて。今、僕たちはこの闘いに賭けるしかないんだから」
確かにそうだと思うと、リンは右手で頭を激しく掻いた。今にも溢れんばかりの涙をこらえて再び戦場へ目をやった。
「こんな傷、何でもないわ」
ジンはそう言い、左手を負傷した右肩へ当てるとすぐに姿勢を正した。
「再生は出来るのだな。だが、お前が古代より伝わる者なら俺をすぐにでも消せるはず。あの剣で俺を引き裂いたが、今でもこうして俺は再生している。それが答えだ。お前は俺には勝てない」
「馬鹿が」
「何だと。今、何と言った」
「バカだと言ったんだ」
「このやろう、だったら思い知らせてやる」
ジンは再び目を閉じて静かに唱え始め、直後の辺りは一変した。それまでの薄暗がりから明るさが戻ると、その体はさらに輝きを増した。
「どうした、だったら本当に消してやるぞ」
「お前って本当に面白い奴だな。この地底でこれほどまで好きにさせたのは初めてだ。最後に褒めてやる」
「じゃ、そろそろ終いだな」
「ああ、お前がな」
この時、二人はジンが言ったことが今も気になっていた。この世界が終わる。もしそうなったらどうなるのだろうか。今、兄はどこにいるのか。頼りのイシは何も答えてくれない中、リンは頭を抱えつつどうにでもなれと思い始めていた。




