地上と地底 ④
やがて準備を終えたので、香純は皆を近くに呼び寄せてこう言った。
「これから地底へ向かうことになるが、正直言って無事に帰ってこられるのかさえわからない。でも、俺は林松さんの言葉を信じている。どうせごちゃごちゃ考えたところで、結局は同じ場所にたどり着くのは既に知るところだからな。で、皆はどう思うか聞いてみたいんだ」
香純は皆へそう尋ねて自身の唇の端を歯で噛みながら反応を待った。するとリンがすぐ挙手してこう言った。
「私、やっぱり行きたくないわ」
その声を聞いた香純は厳しい表情でこう返した。
「ああ、俺だってそうだぞ。いつまでもお前たちと仲良く暮らしていたいし、それに畑の作物が気になって仕方ないからな。でも、これは俺達にしか出来ないようなんだ。林松さんがそこまでが強く仰った意味を考えるとな。それでもお前はそれでもここに残りたいんだな」
それはリンの主張を遮らないよう配慮しながらも今の香純が最大限娘を気遣う言葉だった。リンは首を何度か左右へ振った後にこう続けた。
「私、よくわからないの。ねえ、どうして私達が行かないといけないの」
香純は少し微みこう答えた。
「これまで苦労して獲得してきた術があるだろ。実はそれが答えの一つに含まれていると思うんだ。つまりこれだけ林松さんが切迫して仰っている意味とは、向こうの世界の人たちが会得するかもしれない瞬間にいるということかもしれないんだ」
「えっ、どういうこと」
「だから、俺達がこれから新たな術を会得する前にどうにかしないとってこと・・・」
イシがすべての準備が整ったと香純へ耳打ちした。
「わかった。そろそろ行くか」
そう答えた香純はすぐに両目を瞑り念を一点に集中し始めた。その脇にいるイシが小声でこう言っている。
「ねえ、おじさん。乗り物が出来たらすぐに教えてね」
次の瞬間、香純は両目をうっすら開けて
「あいよ」
と答え、軽く頷くと再び目を閉じた。
やがて香純が術を唱え終わると、イシはその右肩へ軽く手を添えて言った。
「よし、行くぞお」
すると、目の前に先程乗ってきた船と全く同じものが目の前に現れた。それを見た真純たちがこう言った。
「あ、さっき乗ってきた船だ」
そう言いながら中へ入った直後にブザー音が鳴り響いた。
「大地の守り様の承認がありません。ただちに降りてください」
その声に皆がポカンとしていると、それぞれの頭上から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ああ、すまんすまん。今、ちょいと疲れて寝てた。さ、これで通れるじゃろ。皆、頼んだぞ」
それから問題なく全員が搭乗することが出来た。
乗船後はいつかと同じようだった。
「大地の守り様、到着まで残り二分です」
あの女性アナウンスが船内に響いた。
どうして香純が作った船にイシが手を加えたのか。今も解せないリンはそう思いながらこう尋ねた。
「ねえ、イシくん。地底へ行くのにどうしてお父ちゃんの力が必要なの。イシくんの力だけじゃ無理なの」
イシは右手で髪を軽く掻きながら少し困った表情を浮かべた。しかしすぐニコリと微笑みそれに答えた。
「ええと、簡単にいえば僕の視点を追加しないといけないの。だって僕、根本的に皆と違う存在だからさ」
「えっ、意味がわかんない」
「ううんとねえ、例えば今リンちゃんは壁をすり抜ける力があるでしょ。そこに僕の力をプラスすればこの三次元を簡単に通り越せるんだ。で、僕たちはそこでしっかり手をつなぐことが出来るってわけ」
「は、手をつなぐって。要するに互いにプラスになるってこと」
「ま、まあ、そんなとこかな。でも、これって相性があるから簡単じゃないんだ」
「お父ちゃんは良いんだ」
「うん、香純おじさんとはどこか似てる部分があるから」
「えっ。て、ことは、私もだよね・・・」
イシは何も言わず、ただ微笑んでいた。




