地上と地底 ③
ざわざわしている周囲の声をよそに、リンは隣にいる妹のリーシャへこう尋ねた。
「ねえ、リーシャ。今のお話の意味、わかる」
すると、リーシャは首を傾げたもののあっさりこう返した。
「う、うん」
「なんでわかるの」
「だって、リーシャはそこから来たんだもん」
「えっ、何よ。それ」
「お母ちゃんのお腹に来る前は、そこにいたんだもん」
ここで急にその話を聞いていたトクが尋ねた。
「ねえ、リーシャ。そのお話もっと聞かせて」
その話によればリーシャは母の胎内に入る前の記憶があり、林松が言う向こうの世界でパン屋の娘として働いていたと明かした。そう聞いたリンは首を傾げながらも再度尋ねた。
「ねえ、どうしてそんなこと覚えてるの。お姉ちゃんはリーシャと病院で初めて会ってことしか知らないのに」
すると、リーシャは少し微笑んでこう答えた。
「ううんとね、これってなんて言えば良いのかな。えっと、いつか夢で見たことを今も覚えているって感じ」
「ってことは、夢かもしれないってこと」
「そ。でも、それがさっきおいちゃんが言ってたことかな。あ、間違ってたらごめんね」
リンはそう聞いたこの時に何かが閃いたような気がした。なるほどこの世と逆ということは、つまり簡単には善人が悪人であり逆もしかりということか。そこまで理解すると、トクが身を乗り出してきて笑いながらこう言った。
「ま、とりあえずはお父ちゃんに聞いて見よっか」
そうして会場を後にした家族はそのまま林松邸へ行くことになった。やがて五人を迎えた綾子が早速口走った。
「ねえ、さっきの話って本当だと思う」
そう聞いて香純は笑って答えた。
「ま、半々ですかね、今のところは」
「そうよねえ。私も聞いた時にあれって思ったの。普段から冗談ばかり言っていた人だから余計にね。でもさ香純さん、これって本当じゃない」
香純は少しだけ考える素振りをした後ですぐに答えた。
「ま、確かに冗談ばかりの人ですが・・・。ええ、私も不思議に思っていたところです」
綾子はその返答が嬉しくて
「ね、でしょ。そうでしょ」
と言うなり、香純の右手を取った。
手紙の最後にはこう書かれていた。
「そのためこれから互いにぶつかることになるのは確実だ。それがどのようなタイミングで表へ出てくるのかはここで明言できないが、自分の分身と思うような人たちに合う日がまもなく来るだろう。そしてその時に我々ができることは何なのかを具体的に考えてみてもらいたい。術を磨くのも結構だが、最終的にどうしたいのかをよく考えてもらいたい」
最後、イシへのメッセージがあった。
「イシ、お前はこれからリンたちと地底へ行きなさい」
そう聞いたイシはしばらくぽかんとしていたが、首を何度か振った後は両目をしっかりと見開いて答えた。
「えっ、あっうん。わかりました」
「でもさ、どうやって行くの」
不思議に思ったリンがそう尋ねると、イシは得意気に鼻下を擦り答えた。
「それなら任せてよ。でも香純おじさんの協力が必要だけど」
香純はそれにすぐさま答えた。
「なるほど、俺の術が必要という訳だな」
「うん、おじさん。よろしくね」
翌日、地底へ向かうメンバーを決めた。
「香純おじさんと真純ちゃん、それとリンちゃんリーシャちゃんと葉流ちゃんか」
とイシが言い、六人が現地へ向かうこととなったがトクは全く納得してなかった。
「何、私は一人で待つの。そんなの嫌よ」
それを聞いていたリーシャが
「お母ちゃん、わたしは行かないよ」
と言ったが、イシがすぐ首を横に振った。
「そうは言っても、リーシャちゃんが持っている記憶が必要になるかもしれないから。一緒に行こう」
「嫌、お母ちゃんと一緒にいる」
「そっか、困ったなあ」
と、ここで香純が
「だったらお留守番してろ。お母ちゃんを頼んだぞ」
と言うとリーシャはすぐ笑顔でこう答えた。
「うん、お父ちゃんも頑張ってね」
香純は片手で頭をぽりぽりと掻きながら笑顔で頷いた。
一方の真純とリンは、今もどこか落ち着かなかった。これから父親と一緒に行くとはいえ、地底とはそもそも何なのか。リンがそう思っていると、先にしびれを切らした真純が父へこう尋ねた。
「ねえ、僕たちってこれからどうなるのかな」
香純は真純の頭を撫でながらそれに答えた。
「ん、俺にもわからん」
そう聞いてリンはぷっと一瞬だけ笑ったものの、すぐに真顔で尋ねた。
「お父ちゃん、私も残る」
「それは駄目だ。お前の力は必要だ」
「だって、お母ちゃんとリーシャだけじゃ」
「それでも行くんだ。さっきおいちゃんが言ってたろ。それにイシもいる。大丈夫、なんとかなるさ」




