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真の聖戦戦争  作者: ガネスー
第一章 目覚め(続き)
9/11

幕間 ― 黒羽部隊・疑念の夜 ―


―“正義”の中に潜むほころび―


「優奈、少し話がある。作戦室まで来てくれ」


夕方、帰投した直後。

副隊長・冬馬が無表情にそう告げた。


他の隊員たちは、誰も目を合わせようとしない。

重苦しい沈黙の中、優奈は静かに頷いた。


作戦室。扉が閉まる音が響く。


中には冬馬の他、情報分析班のカナエ、そして医務班のフェンリルの姿があった。


「座れ」


そう言われ、優奈は椅子に腰を下ろす。

重たい空気が、皮膚を這うように感じられる。


「……これは何だと思う?」


冬馬が無造作に投げたのは、戦闘記録のホログラム映像。

それは——優奈とルドの接触現場を遠くから捉えた、ドローン映像だった。


「“敵と接触したが、発見できなかった”と報告していたな。

だが、この映像を見る限り——お前は明らかに“敵と話していた”」


優奈の指が、わずかに震える。


カナエが冷たい口調で続ける。


「しかもその後、敵は逃走。追撃報告も無し。

それだけならまだしも、あんたが使った魔法……あれは“人間の持つものじゃない”。」


フェンリルが、彼女の胸元を指す。


「君は、魔力中枢の検査をずっと拒否してるな。

“黒羽部隊”の正式隊員で、唯一だ。理由を聞かせてくれるか?」


優奈は口を開かない。

言えば、すべてが終わる。

だが、黙っていても——それは変わらない。


冬馬の声が低くなる。


「俺たちは“復讐”のためにこの部隊にいるわけじゃない。

この世界に脅威を残さないために、戦っている。

……もしお前が、悪魔と通じているなら——裏切り者だ」


その言葉は、胸に突き刺さるナイフだった。


優奈は、視線を落とし、静かに息を吸った。


「……私が使っているのは、“レギオス”という悪魔の力。

彼は……自らの心臓を私に託した。“この世界を変えてほしい”と」


三人は、言葉を失った。


優奈は、それ以上の弁解をしなかった。

ただ、真っ直ぐに彼らを見返した。


「私は、敵の中にも言葉を持つ者がいることを知っている。

あの時、ルド・グライアを殺すことはできた。でも……しなかった。

それが“裏切り”だというなら、処分を受けます」


フェンリルが椅子から立ち上がった。


「本当に……お前は、悪魔の力を宿してるのか?」


「ええ」


「……どうして言わなかった」


「言えるはずがない。——この部隊に、そんなことを話せる空気はなかったから」


冬馬は、ずっと目を伏せたままだった。

やがて、ゆっくりと口を開く。


「……このことは、まだ上には報告していない。

お前に“処分”を下すかどうかは、今夜中に決める」


「……はい」


「部屋から出るな。以上だ」


優奈は立ち上がり、ドアに向かった。


その背中に、カナエがぽつりと言った。


「……悪魔の力で、誰を救いたかったの?」


優奈は、振り向かずに答えた。


「——全部の命。たとえそれが、人間じゃなくても」


そして、静かに扉を閉じた。

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