第四章:炎は命を焼かず
― サダルとの出会い ―
旅の途中、拓也とエリシアは廃村の小さな教会跡に宿を取っていた。
日が沈み、焚き火の灯が静かに揺れている。
「今日は静かだな」
拓也がぼそりとつぶやいたその瞬間——
「静けさは、語りの始まりにふさわしい」
突如、焚き火の向こうに男の姿が現れた。
フードを深くかぶった異形の男。
額には短い角。だが、その目に敵意はなかった。
「安心しろ。俺は争うつもりはない。
名は“サダル”。……ある者の親友だ。
“レギオス”という名を、お前は知らないだろう」
「……知らない」
拓也は即答した。だが、心の奥でひっかかるものがあった。
「だろうな。それでいい。
彼は表に出るような悪魔じゃない。
戦いよりも、癒しを選んだ。
——“癒しの炎”を使う、稀有な存在だった」
「……炎で、癒す?」
「そう。“焼き尽くす”ための炎ではない。
傷を癒し、痛みを和らげる炎。
それがレギオスの持つ固有スキルだった」
拓也とエリシアが顔を見合わせる。
炎が癒すなど、聞いたこともない。
悪魔といえば破壊や支配を象徴するもののはずだ。
サダルは続けた。
「彼は……ある少女と出会った。
優しいが、壊れそうなほど儚い人間だった。
何度も傷つき、それでも他人を助けようとした子だ。
——お前の、妹。優奈だ」
「……優奈を、知っているのか」
「彼女は命を落としかけていた。
暴走した悪魔に囲まれ、仲間を守ろうとして自分の命を差し出そうとした。
そのとき、レギオスは彼女を“癒しの炎”で包んだ。
そして、自らの心臓を捧げた」
拓也は絶句した。
「なんで……なんでそんなことを」
「彼は言っていた。
“この子の中に、光がある。
争いを終わらせる力じゃない。
——癒す力を、この世界に残してくれるかもしれない”と」
拓也の胸の奥が熱くなる。
それが“炎”のせいなのか、自分の怒りと哀しみなのか、もうわからなかった。
「癒しの力を持った悪魔が、
命を差し出して人間を救った。
そのことを知っているのは……もう、俺だけかもしれない」
サダルは静かに立ち上がった。
「優奈の中に今も宿っているのは、力だけじゃない。
レギオスの心、その願いもだ。
だが、彼女はその力に押しつぶされかけている。
……支えてやれるのは、お前だけだ」
焚き火の灯りに照らされた拓也の目は、強く、まっすぐになっていた。
「俺は悪魔を殺さない。
……だが、それだけじゃ足りない気がしてきた」
「なら、進め。
お前の炎が、人を焼かないものであるならば、きっと届く。
彼の“癒しの意志”も、きっと——」
風が吹いた。
サダルの姿は、闇の中に消えていた。
残されたのは、焚き火の温もりと、
——かすかに青く燃える、小さな炎




