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第26話 赤野トビラは静かに暮らしたい

「おお? なんだー、全員生きて帰ってきやがったかぁ」

 俺は無視したが、後の三人は「ただいま」、「ただいま~」と、モジャに声を掛けていた。


「で、トビラ。どうだったよ、今回の旅は?」

「残念だったな。普通に順調だったよ」

「へぇ? 原作とのズレを結構修正できたのか?」

「全部じゃないけど、十分なぐらいには。後は、時間の問題じゃないかな?」

「チッ、つまんねーの」

 だったら聞くなよ。やっぱりコイツ、俺を死なせたいんだろ。


「でもま、思い通りにいかないのがオルタナ世界だ。ちゃんと見張っとかないと、何が起きるかわからないぜぇ?」

「わかってるよ。これからも毎日、空いた時間に様子を見に行くつもりだ」


「あたしたちも最後まで協力するからね!」

「わたしも~!」

「拙者もだ。そして、無事にエンディングを迎えた暁には、改めて魔神ソデコとして魔王軍の影の支配者に――」「いや、そういうのはいいから」


 俺がクラスメイトをあしらうのを見ながら、モジャはクックと笑っていた。

「つーかトビラ……オマエ、マジでしぶといなぁ。他の奴ならとっくにくたばってんのに」

「なんだと?」

「何年もオマエを見てて、オレはじれったかった。いつまで経ってもビビりのままで、大胆なことはやらねー。モブ生活なんて、特権の無駄遣いだ。せっかく好きな世界を作り出せるんだから、欲望の赴くままに楽しめばよかったのによ」

「そんなことしたら……すぐにタブーに触れるだろ」

「大抵の奴ぁわかっててもガマンできねーの。オマエは異常だったから、今までもった」

 モジャはにんまりと口を横に開くと、綺麗に並んだ牙を見せつけるように笑った。


「異常なお前がどんな物語を紡いでいくのか、楽しみながら見ててやんよ。……で、とりあえずはミコとラピスの、どっちを正妻にするんだ?」

「…………えっ?」

「えっ、じゃねーよ、この女たらしが。淡白なふりして、意外と性欲強かったんだなぁ?」

「なっ……なんでお前が知ってんだよ!?」

 見られてた? コイツまさか、今までもずっと? 俺が本の中で何をしてたのか、ずっと観察してたってことか?


「いいから話を逸らすなよ。ミコを捨てるわけにはいかないもんなぁ。あの勇者、フッたら闇堕ちしそうだし。めんどくせー女に捕まったもんだなぁ~?」

「し……知るかよ! そんなこと、俺に聞くなっ!」


「でもさポルタ様。世界を救うためだけにミコのご機嫌を取るなんて、最低だよね?」

「世界というか、コイツは自分の命を守るためだけにミコを利用する気だろう?」

「うわぁ~……最悪ぅ~! でも好きぃ~! やっぱり奴隷にしてぇ~!」

「お前らも勝手なことばっか言うな! 俺は、真剣に悩んでるんだよ!」

「ヒャッハッハ! モテモテだなぁ、トビラよぉ!」

 俺はモテたくなんかない。俺はただ普通に、静かに暮らせたらそれで満足なんだ……。



「ん……」

 目を開くと、ソデコ――じゃなくて、烏羽の寝室。

 本の世界に入ったのは日暮れ頃だったのに、カーテンから光が差し込んでいる。


「朝か……。今、何時だ……?」

「午前八時前……といったところか」と、目覚まし時計を掴んで烏羽が答える。


「本の中に丸三日以上いたからね~。現実で約11時間なら、計算通りだよ~」

「ふわぁ……なんか不思議な感覚。普通の寝起きみたいだね。筋肉痛とかも全然ないし」

「まあ実質、夢を見てただけみたいなもんだからな……」

 クラスメイト三人も無事に現実世界に戻ってきた。

 出かけた時はどうなるかと思っていたけど、ひとまずなんとかなってよかった。


「みんな、本当に助かったよ。ありがとな」

「ううん、そもそもあたしのせいで始まったことだし……」

「これからもみんなで力を合わせて、がんばろうね~!」

「魔王と残りの四天王を蹂躙するのだ!」

「蹂躙まではしなくていいって。ミコが魔王を倒せるように、陰ながら協力していこう」

 まだ問題は残ってるけど、この調子でいけばなんとかなるはずだ。女子三人との間にも信頼関係ができてきたし、何か異変が起きても対応していけるだろう。


「赤野は今日、これからどうするの?」

「いや、まあ……とりあえず、もうちょっとしたら帰ろうかなと……」

「えっ、もう帰っちゃう?」

「明日も日曜なのに~?」

「でも、今日のところは用事も済んだしな……」


 何もないのに、女子の家に居座るのも気まずい。俺はそう思っていたのだが――

「急いで帰ることもないだろう? 人数分の朝食を用意させるから、のんびりしていけ」

「いいのか? なんか悪いな……」

「気にすることはない。食事が終わってしばらくしたら、オルタナの様子を見に行こう」

「うん、そうしよう!」「そうしよ~!」「ええ……」

 なんでコイツらはこんなにオルタナに入りたがってるんだ?

 俺は正直、しばらく何も考えずに過ごしたいんだけどな……。


「様子見だけなら俺だけでも事足りるし……今日は、もういいよ」

「なんだお主? 拙者たちを連れて行きたくない理由でもあるのか?」

「別にないけど、そんな大勢で頻繁に行く必要もないだろ? ミコも覚醒したんだし……」


「あ~、わかった~。ミコちゃんたちと会うのに、わたしたちがいると邪魔なんだね~」

「ち、違うよ。そういうんじゃないけど――」

「ふーん、図星なんだ」

「拙者たちがいないところで、こっそりハーレムを楽しむ、と」

「だから違うって! 変な誤解すんな!」

「でも、婚約者とは二人きりで会いたいんだよね~」「ねー」

「だから、違うって……」


 ミコとのことは当分ネタにされるだろうな。新しい頭痛の種になりそうだ。

 彼女は可愛いとは思うし、好きになってもらえたのは嬉しいけど……なんせ、世界の命運を背負う勇者様だからな。下手に嫌われたりしてもおしまいだし、どうすりゃいいのか。


「そうそう、赤野。結婚といえば――」

 と、烏羽が真面目な顔をこちらに向けた。

「あん? なんだよ?」

 どうせからかわれるんだろうと思った俺も、真顔で応じる。

「お主、拙者の配偶者になれ」

「…………はっ?」

 いきなり耳が腐ったのかと思った。


「そそっ、袖子ちゃ~ん!?」

「袖子、いきなり何言ってんの!?」

 マジで何言ってんのって感じだが、烏羽は恥ずかしがる様子も見せず、淡々と説明する。

「二人は知っているはずだが……拙者の両親は基本的に極めて放任主義なのだが、拙者が結婚できるかどうかということだけ、やたらと気にしている。高校卒業までに彼氏を紹介できなければ、見合いをする約束をさせられているのだ……」

「お、おう……。それで?」

「お主は今日から拙者の彼氏だ。そして結婚して、死ぬまで仮面夫婦を演じろ」


「なっ、なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだよ! 嫌に決まってんだろ!」

「そうだよ袖子! いくらなんでも結婚なんて……」

「しかし史織よ。コイツ以上に都合のいい男がいるか? 無節操なチート野郎だとしても、ある意味では最高の夫だぞ? 趣味を隠す必要もないし、余計な気を遣うこともない」

「そ、それは……そうかもしれないけどさ。結婚って人生に関わることだし、もっと真剣に考えた方がいいんじゃないかな……?」

「拙者はできれば一生結婚などしたくなかった。だから、コイツと仮面夫婦のままで一生を終えたとしても、なんら問題ない」


「俺は問題だらけだよ。ふざけんなよ……」

 一度はそう即答したものの――

「拙者と結婚すれば、遺産だけで働かずに暮らせるぞ?」

「うっ」

 確かに。将来の心配がなくなるどころか、一生遊んで暮らせるようになる。だけどそれと引き換えに、俺は人間として大事なものを失うことになるような……。


「それに赤野なら、性処理は本の中で済ませることができるからな。拙者が相手をしなくていいというのも、大きな利点だ」

「嫌な言い方すんな……。つーか、そういうことしたくない相手と結婚ってどうなんだ?」

「そうだよ袖子、絶対後悔するよ! それに、お父さんとお母さんに子どもを作れって言われたらどうするの?」

「むっ……」

「あーそれ、普通に言われそうだなぁ。俺も結婚するなら子どもはほしいかも? やっぱ方針が合わないから結婚は無理そうだな。諦めてくれ!」

「む、ぐっ……」

 口をつぐんだ烏羽は、不意に視線を逸らした。

 珍しく頬を紅潮させている。


「ま、まあ……。一人だけなら、考えてもいいが……」

「え……」「い、いいんだ……」

「別に積極的に作りたいわけではない! まじまじ見るな! このポルタが!」

「なんで急にキレてんだよ……」

「うるさい! トニトルスに勝ったぐらいで調子に乗るな! エロポルタ!」

「いたっ! や、やめろって……!」

 俺が烏羽にバシバシと叩かれているのを横目に、白梅がマイペースに呟く。


「袖子ちゃんが赤野君と結婚するなら~、わたしも妾にしてもらって一緒に住みたいな~」

「なっ……!?」

「ちょっと! 和花まで何言ってんの……!?」

「袖子ちゃんなら反対しないよね~? わたし、ポルタ様の奴隷になりたいの~」

「おお構わんぞ、好きにしろ」

「よくねーよ! 何勝手に決めてんだ……!」

 烏羽はこの調子だが、山吹は冷静だった。乱心した親友を必死に説得する。


「あ、あのさ……和花、落ち着きなよ。和花の最推しは魔王ヴァニタスでしょ? 赤野とは全然、似ても似つかないのに……」

「ん~……。実はね~、わたしの最推し、ポルタ様に変わったの~」

「赤野じゃなくて、ポルタ様?」

 ……つーか、推しってなんだ。


「そう……もうね、ポルタ様のこと考えるだけでドキドキしちゃう~。ああ~、あの冷たい目で睨みつけられて、〇○○みたいな扱いされて~、×××に△△△を突っ込まれ――」

「おいやめろ! 一応俺、ここにいるんだからな!?」

「あ~、ごめ~ん。でも、赤野君さえよかったら、いつでも玩具みたいに使ってくれていいんだよ~……?」

「い、いや……それは、さすがに……」


「……最っ低!」「痛っで……!!」

 いきなり山吹に二の腕をつねられた。なんで俺がこんな目に……。


「この変態! ミコとラピスでも満足できないの!? 袖子と和花にまで手を出すなんて、信じられないよっ!!」

「俺は何もしてないだろ!? コイツらが勝手に言ってるだけで……!!」

「……いっそのこと、史織もコイツと結婚すればいいのでは?」

「あ~、それいいね~」

「よくないよ……!! あたしは……あたしは、アルドル様と結婚してるんだもん……っ!!」

「お、おう。そうだな……」


「うわぁーん! アルドル様ぁーっ……!!」

「な、なんで泣くんだよ……」

「察してやれ。史織も微妙なお年頃なんだ」

「ねぇ、赤野君~。現実世界でも、ポルタ様って呼んでいい~?」

「絶対ダメだ! ふざけんな! 学校でポルタって名前出したら絶交だからな……!」


 つーか、月曜からは普通に学校生活に戻るんだよな。

 もうすぐ期末テストもあるし……リアルの生活の合間を縫って、コイツらと一緒にソムニア王国に通い続けなきゃいけない。


 正直、憂鬱だ。何がどう間違って、俺の生活はここまで狂ってしまったんだろう。

 静かで波風のない退屈な一日を返してくれ。切実にそう願う俺がいる反面――

 全く予想もしなかった未来が待ち受けているかもしれないことに、妙にワクワクする自分がいるのも事実だ。

 俺、モブとして静かに暮らしたかったはずなんだけどな……。






 ご愛読いただきありがとうございます。

 鈴谷圭都です。


 本作の構想は数年前から固まっていたのですが、ノベルゲームのシナリオとして使うには微妙かなと判断して、ネタ帳の中に眠らせていました。

 それを今回、小説の形で発表してみるのもいいんじゃないかと思いついて、一気に書き下ろしてみました。第一章と第二章、合わせて一冊の文庫本になるのを想定して書いています。

 楽しんでいただけた方は、評価やご感想など、ぜひお願いします。

 皆さんの一言一言が励みになります。

 

 これにて第一部完、ということで、

 一応「完結作品」のタグを付けておきます。

 第三章以降の構想はありますが、連載を再開するのは第四章の終盤まで書き終えた後にするつもりです。

 新話更新時に通知をお届けできるように、ブックマークしていただけると嬉しいです。


 それでは、またお会いしましょう。ありがとうございました。


※合間で発表済部分の、細かい本文の修正を行うことがあるかもしれません。

 その作業で更新通知が送られるかどうかわかっていないのですが、

 紛らわしいことがあってもご容赦ください……。

 

※この文章は、第三章連載開始時に修正します。

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[一言] 毎日更新を楽しみにしていて、楽しく読ませていただきました。 次回更新楽しみにしています♪
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