ちょっと未来の話 嫁と姑
コミカライズの方も更新されてたので、よろしければそちらもご覧ください!
「お招きいただき、ありがとうございます」
サンストーン王国の王宮で、十代半ばとなったアリア・アボットがふんわりと微笑む。
その姿は穏やかな淑女そのものなのだが、相手を知ればサンストーン王国の貴族全員がぎょっとしただろう。
「よく来てくれた。歓迎する」
その美貌に天すら慄くを通り越して逃げ去る女神の如き存在、第一王妃レイラなのだ。
一部の貴族から、絶対に神の血が流れている。もし違うなら、息子に爵位を譲り隠居していい。とまで断言されるレイラは、公的な行事以外での活動がほぼなく、誰かを招くこともまずない。
それが多くの共通認識だったものの、つい最近になって例外が生まれた。
ちなみに物的な実力に関しても、天に意思があれば怯えに怯える存在だったが、流石にそんなことを知る者は限られた。
「前回の時より少し寒くなったな」
「はい。お茶の味も少し変わってきました」
レイラが前回と呟いた通り、このお茶会は複数行なわれている。
理由は最初、クラウスとアリアの相性を知るためだったが、それは初日で終了したので、後は本格的な婚約が決まるまでの交流会に過ぎない。
(【無能】さんが爆笑するはずだ。会う前からなんとなく察していはいたが、ジェイクとそう変わらないほどに図太いとは)
穏やかに微笑んでいるアリアに、レイラは思わず苦笑しそうになった。
再統一王と、神の娘と謳われた女の長男クラウスは、エレノア教教皇の子。古代王権の双子姉妹の子の異母兄になる。
つまりクラウスの妻になると身内の付き合いで、イザベラ、アマラ、ソフィーと接する必要があるときたものだが、こんなのは通常の令嬢には絶対耐えられない。
耐えられないが……どうもこのアリア・アボットという人間はやたらと図太かった。
「素晴らしい香りです」
「それはよかった」
(初対面で見惚れられなかったのは随分久しぶりだ)
お茶の香りを楽しんでいるアリアは、微笑むレイラと初めて会った時に固まらず、普通に挨拶をして見せた。
これはかなりの異常という他なく、少なくともレイラが王妃となってからは記憶にない。
「クラウスとはどうかな?」
「つい先日、お手紙を交換いたしました」
レイラの問いに、アリアは誰もが和んでしまいそうな笑みで答える。
流石に手紙の内容を漏らすのはマナー違反だから口にしなかったが、それでもクラウスと上手くいっていることが十分に分かった。
(クラウスにとっても、この娘がいたのは幸いだった)
誰かと張り合う訳でもなく、自然体のアリアはクラウスの代の後宮に必要不可欠だった。
戦友でもある現在の王妃たちは全員仲がいい。しかしクラウスの代もそうなるとは限らず、変に女達が張り合って争いを始めると、余計なリソースを裂くことになりかねない。
それに母としても、クラウスが表だけではなく裏でも気を抜けない環境は困る。
だからこそ誰かと争うような性格ではなく、クラウスとも普通に接することができるアリアは、これ以上ない次代の国母だった。
「まだ先の話になるが、イザベラさんが婚姻の立ち合いをしたいと言っている」
「まあ。光栄です。イザベラ様には大変、可愛がっていただいておりますので嬉しいです」
「確かに、本当の娘とそう変わらない扱いだ」
「私もそう思っております」
(窒息しないよう監視が必要な程に……)
ほぼ確定している婚姻についてレイラが口にすると、全身から嬉しいという感情を表すアリアが、両の掌を合わせた。
他の王妃たちもアリアと交流しているが、特にイザベラは彼女が可愛らしくて仕方がなく、抱き寄せ窒息させやしまいかと危惧されていた程だ。
なおイザベラの長女は、これで被害が分散されて自分は生き延びることができると安堵していたが、別にそんなことはなく今現在も被害を受けていた。
(嫁姑問題も起こりそうにない。エヴリンが揶揄ってくるだけだ)
勿論、レイラもアリアを非常に可愛がっているため、エヴリンがついに姑やなあ。と言いはするが、世間が好みそうな嫁と姑の確執は起きそうになかった。
このように二人は非常に穏やかな交流が出来ていたのだが……。
「父上と母上たちの出会いはどのようなものでした?」
「……」
『おほほほほほ! 海よりも深く山よりも高い馬鹿騒ぎですわ!』
別の場で結婚を意識し始めた息子に問われ、父はどう言えばいいかさっぱり分からなかった。
檻に入ってた。
屋敷に物を売りに来た。
他国の暗部出身で仕事を探していた。
スライムの姿を見せられて愛を問われた。
不老不死の薬の誘いを受けて薬を壁に叩きつけた。
占いに使われた水晶を割った。
などと言うのは事実上不可能である。
「我々の時代は色々あったんだよ」
「あ、はい」
あまりにも露骨な話題逸らしだったが、どうも面倒臭すぎる話があるなと察したクラウスは、父ジェイクのすっとぼけをそのまま受け入れた。
「幸い今は穏やかだから、急がず慌てずだ」
「そうですね。僕達はゆっくりやっていきます」
「ああ」
『おほほほほほほ!』
激しすぎる人生の果てに伴侶を得たジェイクはクラウスに微笑み、無能の馬鹿笑いが響く。
次代のサンストーン王国も安泰だった。




