コミカライズ連動 王命が齎した混乱
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(国難だ……)
レオ王子、進軍停止の王命を無視。
その報告を持ち帰ったアボット公爵が爆発しそうな胃を無視し、立場に相応しい考えに耽る。
(王家の、しかも第一王子で王位継承最有力の人間が王命無視……これでは陛下の権威そのものが否定されたようなものだ)
王命を無視したレオは王族として果てしなく間違い、そして将としてどこまでも正しい。
別にこれが自国の防衛戦であちこちに数が必要ならレオも納得できる。
しかし他国に攻め入っている今現在に必要なのは、高度な柔軟性と機動力。更には確固たる指揮系統であり、碌な訓練もしていないであろうジュリアスの軍などお呼びではないのだ。
(恐らくレオ殿下も、陛下だけならまだ許容したはず。しかしジュリアス殿下も一緒では……)
もう一点。
アーロン王がジュリアスを置いて戦場に来たなら、レオもある程度は顔を立てる配慮が可能だった。
というのも戦場のアーロン王はレオの意見を鵜呑みにするしかないので、面倒な荷物を抱えはするが全体の指揮を掌握することが出来る。
しかし潜在的を通り越して明確な敵であるジュリアスが、何かをする度に口を挟むのは間違いなく、そうすればまた優柔不断なアーロン王が突拍子もないことをするのは目に見えていた。
(率いられている貴族も似たような考えを多少は持っているのだろう。それに敵はあくまでエメラルド王国だから、自分を無理矢理納得させることはできる)
次にアボットは、レオ傘下の貴族の考えを読み取ろうとした。
もしレオが、サンストーン王国の王都に攻め込んで、ジュリアスを殺しアーロン王を排除せよという無理難題な命令を発したなら、流石に傘下貴族も戸惑い動きを止めたのは間違いない。
しかし今のところレオは、攻め込んでいる敵国に致命的な一打を打ち込むための、当初の戦略的行動を堅持しているため、貴族達も判断に困っていた。
(しかし……だが……)
レオの気持ちは分かる。分かるが、軍権を預かっている人間が王命から外れたなら、それはもう反逆という言葉でしか表現できないのだ。
「バート、ジュリアス殿下はどうすると思う?」
「しきりにジュリアス殿下派閥の貴族が活動していますので、反逆者を討つべきだと陛下に訴えているのではないかと」
「すうう……ふううう……」
アボットはまず予想を外れることはないと思いつつも腹心に尋ねると、想像通りの答えが返って来たので、可能な限り肺に空気を吸い込んで吐き出した。
ジュリアスの口出しがきっかけでアーロン王が暴走し、レオが王命無視をやらかした上で、ジュリアスがエメラルド王国軍そっちのけで政敵を始末しようとしているのだ
サンストーン王家に振り回されているアボットが気絶していないのは奇跡だろう。
(ジェイク殿下だけがまともだったかな……)
アボットは現実逃避気味に、自分が預かっている第三王子について考えた。
振る舞いは王を筆頭とする王家の中で唯一まともで、アボットたちも危うく死にかけたが、王命を無視したレオと一戦交えようとしたのは道理の塊だ。
(これでジュリアス殿下が優位になった。陛下に疎まれている我が家は寒い季節が続くな)
一瞬の現実逃避から戻ったアボットは次期王位と公爵家について考える。
基本的に王位継承争いには加わっていないアボットだが、長男であるレオの方が無理が無いと判断していた。
しかしジュリアスが王となれば、熱心に彼を推していなかったアボット公爵家が冷遇されるのは明らかで、表舞台に立つことはもうないだろう。
(陛下にとっても予想外だっただろうが)
疲れ切ったアボットの内心だったが、アーロン王はそれどころではなかった。
◆
「どうやらアーロン王は、大きなショックを受けているようです」
「流石に王命ガン無視は予想外も予想外だからなあ」
悪婦イザベラが無能王子の耳へ囁くと、思わず頷いてしまう。
行軍している時も、寝ている時もアーロン王には同じ疑問をずっと感じていた。
アーロン王にとってレオとジュリアスの認識は、途轍もなく兄弟仲が悪いことに目を瞑れば自慢の息子だ。
父であり、王である自分の命に反するなど想像したことすらなく、未だにレオの王命違反がなにかの間違いではないかと思っていた程だ。
それだけ王命に反するのは重く、王政の世界では間違いなく反逆者なのである。
「決断できない人が父だから、中途半端に関して厳しくなったかな」
ジェイクが若干の自嘲を含んで呟く。
完璧な戦略を目指して妥協できない長男。
弟、第二王子という地位に妥協できない次男。
勝てないと分かっていても王命を反した兄に噛みついた三男。
なるほど、サンストーン三兄弟は中途半端なことはせず、定めたことに対してやたらと果断なところがあった。
その果断さにおいて長男と次男は空回りして、三男は国を導くことになったが。
「レオ王子への合流ですが、アーロン王の決心は硬いようです」
「実際、多分大丈夫だけど……父上の考えはちょっと違うだろうね」
「はい」
イザベラの報告を聞いたジェイクは、遺伝上の父でしかない男の考えをかなり正確に把握していた。
本来、反逆を起こしたようなレオとの合流は避ける必要があった。
しかし、息子が自分に反していないと信じたいアーロン王は、その極大のリスクを無視してレオとの合流を目指しており、ジェイクもその渦に巻き込まれている。
「軍権ってのは取り扱いをしくじれないなあ」
後年、親しい親族がいないために軍権を与えられず、大公になって一回。王になってからも二回、国家間戦争の戦場に行く羽目になった男が呟く。
結局この問題は彼の息子たちが成長するまで片付かなかったが、その時期になると神王とまで呼ばれる男が率いるサンストーン王国なんていう無敵存在が出来上がったため、戦争そのものが起きなくなった。
「アボット公爵も凄いや」
「そうですね」
ジェイクは少し話題を変えるつもりでアボットの名前を出した。
見るからに戦争とは無縁な法務大臣で、背負っている気苦労は山の重さに匹敵するだろうに、行軍では弱った姿をまるで見せず、これぞ三大公爵の一角という威厳を崩していないのは見事の一言だ。
(国家の要素を一つ一つ見たらだいぶヤバいんだよなこの国……父上が台無しにしてるだけで……)
ジェイクの言葉通りだ。
レオに鍛えられた軍。
ジュリアスが作り上げた官僚機構。
アボット公爵を筆頭とした貴族。
豊富な資源に経済基盤。
古代アンバー王国崩壊直後に成立した血統。
更に今現在はエレノア教大神殿が建設され、古代王権の双子姉妹が滞在しているときたものだ。
それを一人で台無しにしているアーロン王は、ある意味において突出しており、歴史に名を残すべきだったかもしれない。
なにせ擬態している蛇すら心底困惑させていた。
◆
「はあ? アーロン王と第二王子が出陣……第一王子が王命無視の疑い? つ、つまり?」
報告を聞いたパール王国のフランクは、珍しく普段の擬態を必要としない衝撃を受けていた。
「【傾国】が生きていた……のでは?」
「うーむ……」
自信がない部下の言葉にフランクは唸る。
(当初の諜報ではアーロン王の出陣はなかったはず。それがいきなり出陣することになって、第一王子レオが実質的な反逆……確かに【傾国】がアーロン王になにかしらの介入をしたなら話は分かる)
フランク視点からすると、予定に無かったアーロン王の出陣と第一王子レオの王命無視はあまりにも馬鹿げた話だ。しかし、【傾国】がアーロン王を誑かして、サンストーン王国を亡国に突っ走らせているなら、多少は理解できてしまった。
(アーロン王……まさかとは思うが、第二王子ジュリアスに泣きつかれ、自分も名誉欲を優先したという話ではあるまいな?)
フランクの脳裏に嫌な予感が走った。
一応アーロン王には、今までなんとか国体を維持してきた実績があるため、戦略を全てぶち壊すアホではないと思いたかった。
だが、レオとジュリアスの王位継承権に関して述べると、アーロン王は無能の極みと思えるような判断しかしておらず、その嫌な予感に多少の現実味があった。
(しかもレオは王命無視? エメラルド王国と戦いながら内戦でも起こすつもりか? 誤報ではない筈だが……)
パール王国を長年騙してきた男が、久方ぶりの頭痛を覚えた。
起こったのは国内での争いではなく、戦争をしている最中かつ、軍権を握って敵国の領土に踏み込んだ第一王子が、王命に反したという訳の分からない状況だ。
普通に考えるとそんなものは、どうか滅ぼしてくださいと自己主張するようなものであり、フランクは誤報を疑ってしまう。
(分からん。分からんが、【傾国】のせいだった方がいいような気がする)
フランクは隣国が常識では測れない馬鹿をやっているより、【傾国】が無茶苦茶にしている方がよっぽど精神的に楽だとつい思ってしまう。
(【傾国】なのか、アーロン王が想定より更に無能なのか見極める必要がある)
暗がりに潜んでいる蛇がじっと世界を観察していた。
が。
もっと高次元の目を持っていれば絶句しただろう。
管理者側でありながら世界を滅ぼすに足る力が渦巻き、全てを見定めていたのだから。




