アーシーと信一
アーシーも休日をもらっていた。
アーシーもイギリスが実家である。
レイアの実家はリバプールから南の方であったが、アーシーの実家は北の方である。
博士たちとは向かう方角が違うのだ。
「一緒に行きます?」
アーシーは信一に聞いた。
博士たちはすでに前日にパーズを出発していたため、実験室には信一とアーシーしかいなかった。
アーシーは、頼まれていた動物の世話をしていた。
同じ部屋では、信一も自分の実験動物のホヤたちの世話をしている。
「他の意味はないです。信一くんは実験しかすることないでしょ? 私がイギリスを案内してあげます」
アーシーは、青く透き通った目で、信一を見る。
その青く綺麗な瞳に、信一は、吸い込まれそうになった。
これまでは、魅了されたことは、なかった。これまでは……。
「はい、じゃあ、ご一緒させていただきます。あ、そうすると動物の世話をウェイくんに頼まないといけないなぁ……。」
生き物たちの管理は生物学者にとって煩わしい作業ではある。しかし、基本的で、誰でもできる。
大城戸研究室では生物の水換えと餌やりは、各自ですることになっていた。大城戸博士の生物は、いつもは博士自らが管理していたが、博士が不在の時はアーシーがする。
そして、みんな不在の時は、誰か研究室に残ったものがする。
常に、誰か1人は研究室に残らないといけないのだ。
「はい。じゃあ、行きましょう! 教授のぶんもウェイくんが世話する予定だったのです。なので、信一くんも、ウェイくんに頼めばいいと思います」
そして、数日間の間、大城戸研究室は、ウェイ1人になる。
ウェイは、大城戸研究室の全ての動物の世話を任されることになるのだ。
研究船パーズがイギリスに停泊中は、ウェイはひたすら動物の世話に明け暮れるのだ……。
リバプールからグラスゴーに向かう列車の中で、アーシーと信一は隣り合って、列車の席に座っていた。
快速列車に乗れば4時間はかからない。
「いやぁ、アーシーさんのおかげで、イギリスの滞在が楽しくなりそうです。実験もいいですけどね、たまには息抜きも必要ですね」
「そう。信一くんはいつも実験ばかりだから。息抜きした方がいい」
「なんか、心配してもらってありがとうございます。なんか迷惑かけたみたいで、すみません」
信一は、ははっと笑いながらお辞儀をした。
「いや。迷惑じゃない。信一くんといると楽しい」
「そうですか……。なら、良かったです」
「あ、そういえば、泊まる場所とってないですねぇ、まだ」
信一は宿をとっていないことを思い出した。
アーシーに誘われるまま、パッと出てきてしまったのだ。カバンに着替え等を入れて、パッと準備したのだ。
「うちに泊まればいい」
「えぇ、でも、迷惑ですよ。案内までしてもらって、その上、家に泊めてもらうなんて。僕ら、ただの研究室の同僚ですよ」
その言葉に、アーシーは、顔をスッと振り向かせ、信一をギロッと睨む。
目は少し、潤んでいる。
「うちに呼ぶとは、そういうことだ。気がつけ、ばか!」
顔を赤らめるアーシーを見て、信一は全てを察した。
そして、横で顔を赤らめている金髪青目のアーシーが、すごく可愛く思えてきた。
「あ……。あの、その、僕も、アーシーさんのこと、好きです!」
信一は、男として言わなければいけないと考えた。
そして、言った。
列車の中は、うるさくもなく、かと言って、静かでもない。
しかし、乗客の中には、日本語を理解できる客もいない……であろう。
信一の少しばかり大きい声は、アーシーにのみに届いた。
「うん。わかった」
アーシーは顔を真っ赤にして頷いた。
信一は、照れながらも、その真っ赤になったアーシーの口に、そっとキスをした。
2人を乗せた列車は、何事もなくグラスゴーに到着した。
2人は、グラスゴーでしばしの休息を楽しんだ……。




