イギリス到着
研究船パーズは、イギリスのリバプールにある港に停泊した。
海か大きな川かわからない大きな川にある港である。
博士が助教時代に短期留学していた大学はイングランドの南東にある。
ここ、リバプールからは少し遠い。
レイアの実家も、その大学の近くにある。
長旅をしなければならない。と言っても、鉄道を使えば、2時間程度で着く。
「よし、いくか」
博士は、元気に声を出す。
研究船パーズを出た大城戸一家は、イギリスの首都のロンドンを目指した。
今回はレイアの実家にも寄ってゆっくりする予定なので、もちろん、さーべるちゃんも一緒だ。
博士たちは、イギリスの列車から風景を楽しんだ。
列車の窓から見える景色は、自然だったり都会だったりだ。何もない自然の中を走る方が多い。そして、時折、大きな街を通りすぎる。
「綺麗な景色だねぇ〜さーべるちゃん」
シンシアは、さーべるちゃんと一緒に、窓の外を眺めている。
イギリスは初めてではないが、シンシアにとってこの列車は初めてだ。
ロンドンユーストン駅に着くと、博士とレイアには見慣れた風景が広がっていた。
何度も来た場所である。
「Hi, I came back home, dad and mom. (ただいま〜、パパ、ママ)」
レイアの実家は、駅からちょっとのところにある。タクシーを使えば、すぐだ。
レイアは両親に挨拶がわりのハグをする。
レイアの父のリチャード・スミスと母のアメリア・スミスだ。
「Hi, long time no see you. (どうも、ご無沙汰しております。お父さん、お母さん)」
博士も、レイアに続き、2人にハグをする。
シンシアはレイアの後ろで恥ずかしそうにしていた。
「This is Cynthia, as you know. (この娘が、シンシアよ)」
「Oh, Cynthia. You became so big. It should be three years ago we met last time. (わぁ、大きくなったね、前にあった時から、3年ぶりくらいかしら?)」
「And, he is ‘Amurru’, who is new born baby. While it was a year ago indeed. (そして、この子が新しく生まれた、男の子よ。アムルっていうの)」
「Oh, so cute! (わぁ、可愛いわねぇ)」
アメリアは、レイアからアムルを受け取る。両手で優しく抱きかかえ、左右にゆらゆらと揺らす。
アメリアは満面の笑みを浮かべている。
1人娘のレイアが、孫を連れて家に戻って来たのだ。嬉しいに決まっている。
「Dinner has already been ready, please please go ahead. (さぁ、ご飯も用意してあるよ。さぁ、入った、入った!)」
アメリアは元気よく声を出した。
博士たちが家の中に入っていくと、すでにテーブルの上には、多くの料理が並べられていた。
「わぁ〜、すごい」
シンシアが思わず声を上げる。
「ははは」
博士も、シンシアにつられて笑った。
並べられた料理たちは、レイアの母が、どれだけ娘の帰りを待ち望んでいたのかを物語っていた。
(もぅちょっと頻繁にイギリスにも寄れるようにしないとなぁ……。)
と、反省する博士であった。
次の日。
シンシアとアムルを両親に預け、博士とレイアは、大学に向かっていた。
昔お世話になったクリスティアン・マーク教授に挨拶をしにいくためだ。
博士が持つクーラーボックスの中には、ウニクラゲとアジムと数種のホヤが入っている。
「Good morning, Mark. How have you been. (どうもご無沙汰しています)」
「Hi! Hiro and Leia. I am happy to see you again. (あぁ、博士くん、そして、レイアくんも。久しぶりだねぇ)」
「We travel all over the world. Now, we are in Liverpool. And then we have stayed Leia’s home town. (船に乗って世界中を旅しているんですよ。それで、船がリバプールに停船しているので、ついで、ですけどレイアの実家に帰って来ています)」
「That’s sounds good. I know you have made kinds of animals, as I knew from your papers. I am happy to read your nice papers. (そうか、それはいい。博士くんは、色々作っているようだね、論文を読ませてもらっているよ。君の頑張りが見られて私も嬉しいよ)」
「Oh, thanks. By the way, did you make any animals, Mark? (あ、それはどうも。教授も何か作りましたか?)」
「We made lobsters. (私たちのところは、これまで通りロブスターだよ)」
そう言って、マーク教授は、近くにあったインキュベーターからガラスビーカーを取り出した。
その中には小さいロブスターが泳いでいた。
「Wow, cool! (わぁ、すごいですね)」
「Oh, great! (素敵ですね)」
博士とレイアは声を揃えて驚く。
「By the way, we brought some fish and marine animals for you. (そういえば、教授にお土産を持って来たんですよ)」
博士はそう言い、クーラーボックスを開ける。
「How good they are! Amazing! Thanks so much! (これはすごい! ありがとう)」
クーラーボックスの中の種々の生物を見て、マーク教授は目を丸くさせて嬉しがる。
「Umm, what is this guy? Is this a jellyfish? (そして、これはなんだ? クラゲか?)」
マーク教授は、クーラーボックスの中に泳いでいるウニクラゲを指差す。
この動物は、博士が作製した新種であり、海洋生物学が専門のマーク教授も初めて見る動物であった。
「This is a new species, I call it as ‘uni-jellyfish’ that I made by interspecific crossing of sea urchin and jellyfish. (ウニとクラゲを交配させたウニクラゲですよ)」
博士は、誇らしげな顔をした。
「Awesome! You made such a hybrid animals, too. (すごいなぁ、そんなものまで作っているのかぁ大したものだ)」
「Hahaha. So, all of the animals are yours, please use for your experiments. (ははは。まぁ、お土産ですからね。全部おいてゆきますよ)」
「Thanks! By the way, do you know what Patrick is doing? (ありがとう。そういえば、あいつはどうしている?)」
あいつとは、教授アイシェンバーグ・パトリック(Eichenberg Patrick)のことだ。
アメリカのカリフォルニア州のサンディエゴにある海洋生物学研究室の教授だ。以前、この研究室でポスドクをやっていたのだ。博士とレイアの同僚でもある。
「We met him in San Diego last year. We had also given the fish to him, and then he made a lot kinds of fishes. (この間、サンディエゴにもよってきました。アジムを渡したら、色々と魚を作っていましたよ)」
「What? I see. So, I should do my best to make fishes, and animals. I know there are so many things that we should do. (なんだと? そうか。じゃあ、私も頑張らないとなぁ。定年退職とかいっている場合じゃない。まだまだやることはたくさんあるからなぁ)」
教授は、声をあげて笑った。
「Yeah. (そうですね)」
博士はそれに頷いた。




