中本教授の憂鬱
中本教授は、海洋環境学の教授だ。
(作者注; 中本教授は『第26話 会議は会議室で起きているんだ』に登場し、今回は2回目の登場です。)
中本教授は各地で海水を採取し、その水質検査をしている。
研究船パーズを停船させてもらい、その間に海水を採取するのである。
つい先ほどアマゾン川の河口で水質検査を終えた。
その値は良好だった。
しかし、中本教授は、とある問題に頭を悩ませていた。
その問題とは、南極に近いところで採取した海水で放射性物質の値が高かったことだ。
研究船パーズの廊下を歩いていた中本教授は、偶然、大城戸博士に出くわした。
「あら、大城戸博士、こんにちは」
中本教授は、下に向けていた目線を上げ、博士の顔を見やる。
「こんにちは、中本先生。あれ? 何か浮かない顔をしていますが、どうかしたんですか?」
「いやぁ、ねぇ。南極に近いところで採取した水で、放射性物質の値が、また高かったんですよ」
「また? ですか……。あぁ、そういえば、前回の航海の時も、同じようなことをおっしゃっていましたっけ? 確か、オーストラリアの周辺で、放射性物質の値が高かったんですよね?」
博士は昔のことを思い出す。
博士が会議でこの話を聞いたのは、1年ほど前のことだった。
「はい。そうです。よく覚えていらっしゃいますね。そして、今回の航路は、前回よりも、南極に近いところを通ったじゃないですか。そこで、高かったんですよ」
「今度は、南極ですか……。」
「はい。南アフリカの数カ所でも、若干検出されました。でも、南極から遠くなる程低くなりますね。アマゾンの近くに来る頃には、全く検出されませんでしたし……。一年前は、オーストラリア近辺では水質検査を1回しかしていませんしねぇ」
「ということは、南極海で放射性物質がばらまかれたんですかね……?」
博士は、首をかしげた。
博士は、南極に、『シーピーズ』の研究所があることを知っている。
かと言って、放射性物質が高くなるような実験は思い浮かばなかった。
生物の実験でも、検体をラベルするために、放射性同位元素を使用することがある。
仮に、その廃液処理が杜撰であったとしても、海で希釈されれば、検出はされない程度に薄まるはずであろう。
そんなに大量に使うことは、普通は、あり得ない。
「どうでしょうかねぇ……?」
中本教授は、両手を首の高さにあげ、博士に合わせて首をかしげた。
「いや、私が、今気にしていることも、南極に関することですので、ちょっと気になって……。いや、気にとめておきますよ」
博士は、『シーピーズ』のことはあまり話題にしない方が良いと判断し、言葉を飲んだ。
「ちなみに、研究は順調ですか? 大城戸先生のところは、確か、海産哺乳動物を生み出したんでしたっけ?」
大城戸博士は、先日の会議で、大きな水槽を手に入れるために、『イブカ』を作製したことを話すしかなかったのだ。
研究船パーズ内では、大城戸研究室が大型の海産動物を所持していることは周知されてしまった。
「そうですね。今のところ順調に育っていますよ。大きな飼育室と水槽もいただけたので……。」
「そうですか、それはそれは、良かったですねぇ。あ、あまり長話もあれなので、では、また」
「では」
中本教授は、博士に話をして、気分が紛れたのか、顔に笑みを浮かべて、去っていった。
博士も、それに笑顔で手を振った。
「南極で、放射性物質かぁ……。気になるなぁ……。」
廊下で、博士は独り言を、呟いた。




