大西洋へ
研究船パーズは、南アメリカの先端を通り過ぎた。
この辺りは、海流の関係で、航海の難所の一つである。
しかし、沖田船長は航海歴も長いベテランであった。
研究船パーズは、難なくホーン岬を周り、南大西洋に入っていった。
今回の航路では、研究船パーズは、南アメリカ大陸には上陸しない。
水質検査のために、海の真ん中で数回停船するのみである。
「ふぅ、久しぶりにゆっくりできるや」
シンシアは、海に浮かんでいた。
水質検査のために、研究船パーズは一時停船中である。アマゾン川の河口の近くである。
パーズは、赤道直下の地域まで戻ってきたのだ。
日差しは暑くなり、海水浴に最適な気候である。
パーズの水質検査のための時間は、シンシアは、海に浸かって海を満喫することに決めている。
お気に入りの白ビキニに着替えて、海の上に浮かんでいた。
「あれ? 魚がいる」
シンシアが浮かんでいる足元に、小さな魚が寄って来ていた。
シンシアの手のひらよりも少し小さいくらいの大きさだ。
10匹ほどの群れをなして泳いでいた。
「ねぇ、ママ。魚がいるよ!」
シンシアは大声を出す。
パーズの甲板にはレイアがいる。アムルを抱っこしていた。
「へぇ。すごい。パパにも教えないと」
レイアも大声でシンシアに返事をした。
「そうだね」
シンシアは、起き上がった。
「よし、さーべるちゃん、パパに教えてあげないと」
シンシアの周りで、犬かきを楽しんでいたさーべるちゃんと一緒に、シンシアはパーズに向かった。シンシアはさーべるちゃんの背中に乗ったのだ。
ズシャー
シンシアは海水で柱を作り、さーべるちゃんごと自分を甲板に持ち上げる。
バシャー
シンシアを甲板に下ろした海水は、海に流れる。
シンシアとさーべるちゃんは水浸しになっている体を気にすることなく、ペタペタと、辺りを水浸しにしながら、実験室へと駆けていった。
「パパ! 海に魚がいたよ!」
シンシアは実験室に入るなり、大声をあげる。
「へぇ、それはすごいなぁ」
ちょうど実験の空き時間だった博士は、実験室の入り口に来たシンシアに返事をした。
「その魚たちは、アマゾンの方から来ているのかもしれないね。アマゾンには色々といるからね。川にいた何かが自然に進化して、海に適応できるようになったのかもしれないね」
アマゾン川の流域には、海神ポセイドンが作った生物も、ガイアとの合作で作った生物の両方が生息していた。
海神ポセイドンが一人で作った生物は、海神ポセイドンの消失に伴って、消失した。しかし、ガイアとの合作で作った生物は消失していなかった。
「ふ〜ん、そうなんだ」
「そうだよ、シンシア、そう考えると、すごいことだよね。研究者たちは、自分たちがなんとかしないといけないと思っているけど。案外、放っておいたら、今いる生物たちが勝手に進化していくのかもしれないね。だって、今の海には、捕食者がいないからね。海に出たら、好き放題できるもんね」
「そう? なの?」
シンシアは、少し首をかしげた。
シンシアは、博士の言っている内容がよくわからなかった。
海神ポセイドンは多くの海の生物を作ったが、その生物たちの進化を制御したわけではない。それぞれの『種』を個別に作り出しただけだ。
進化論はよく理解できない。
「ごめん、シンシア。ちょっと難しかったかなぁ」
「う〜ん」
シンシアは、もう一度、首をかしげた。
「つまりだよ、海は徐々に元に戻っているってことだよ。喜んでいいことだよ」
「うん!」
シンシアは、その言葉は理解できたらしく、大きく頷いた。
研究室では、博士が色々な形をした魚を作り出していた。
『鯖』や『鯛』のような姿をした魚も生まれていた。これらは皆、アジムのゲノム編集で生まれたのだ。
もちろん、博士が作製したウニクラゲもガラスビーカーの中で、元気に育っていた。
一方で、助教の久保信一のマボヤの研究もうまくいっていた。
赤色の丸い成体がガラスビーカーの中で育っている。個体数を維持できるようになれば、ゲノム編集で違う『種』を作製するための実験を始める予定だ。
研究船パーズは、北アメリカのニューヨークに向けて、再び発進した。




