地母神ガイアと新生物
博士たちは、地母神ガイアの神殿の中にいた。
岩の中にある神殿なのに、中が明るいのは、神の力と関係がある不思議な力のおかげだ。
博士たちは、神殿の大広間に案内された。
「さて、ここが妾の神殿じゃ。ここでなら集中して生物を作り出せるぞ」
ガイアこと1羽のエミューが言う。
「すまないな、ガイア。もう一度世話になる」
シンシアは、トライデントを持っている。車から持ってきたのだ。
「なに、お安い御用じゃ」
1羽のエミュー、はっはっはと笑う。
「あっ! 準備しないと。久保くん、ちょっと手伝ってくれ」
「はい!」
博士と久保信一は、クーラーボックスを準備した。
車から持ってきた大きなクーラーボックスの中は、人工海水で満たされている。
手持ちの水を全て使いきり、人工海水の元と混ぜて、人工海水を作ったのだ。
「これで大丈夫か?」
博士は、シンシアに聞く。
大きなクーラーボックスは、大広間の真ん中に置かれた。
「うん、多分大丈夫だと思う」
シンシアは、真面目な顔で頷く。
幼女の顔ではなく、海神ポセイドンを彷彿させる真剣な顔になっている。
「それじゃ、行くよ、ガイアちゃん」
シンシアは、手にトライデントを握り、構える。
クーラーボックスの方に、トライデントを向けた。
数羽のエミューがクーラーボックスを取り囲んでいる。
「えいっ!」
シンシアが力を込めた。
周りのエミューたちも、真剣な目で、クーラーボックスを見つめる。
ボゴッ
クーラーボックスの中の人工海水の中に泡が生じる。
ゴボゴボ
ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ
泡は、激しく音を出す。
そして、泡が消えた時、クーラーボックスの中には、1匹の動物がいた。
20cmほどの小さなイルカだ。普通のイルカに比べると非常に小さい。
博士は、このイルカに『イブカ』と名付けた。
『イブカ』はクーラーボックスの中を少し窮屈そうに泳いでいる。
「さすがは、神だなぁ……。」
博士は、驚いていた。
『イブカ』は、海洋生物が消失してから、人類が目にした最初の海産哺乳類であった。
卵生の動物と胎生の動物にも大きな壁がある。
大城戸博士は、胎生の動物をまだ作っていなかった。ゲノム編集だけでは越えることが困難な、もう一つの大きな壁である。
「ひゃ〜、すごいですねぇ。シンシアちゃんって、こんなことできたんですね」
久保信一は驚き、声をあげた。
何もないクーラーボックスの中に、突然、イルカの様な生物が現れたのである。驚かない方がおかしい。
博士たちは、信一には、シンシアのことをこれまで秘密にしていた。しかし、ここまで一緒に来て、秘密というわけにもいかなかった……。
「ああ、そうだ。でも、このことは秘密だぞ。シンシアが危険に晒されるのは嫌だからな」
博士は、口元に人差し指をつけて、信一に合図した。
「はい、わかっています。大丈夫です。」
信一は、コクリと頷いた。
「ふぅ、疲れたぁ〜。パパ、おやつ!」
シンシアはトライデントを床に引きずりながら、博士のもとに寄って来た。
「おやつかぁ。ティムタムを数本しか持っていないなぁ」
博士は、リュックの中からティムタムを5本取り出し、シンシアに渡す。
「ガイアちゃんも食べる?」
「もちろんじゃ。たまに人間にもらうことがあるが、人間たちは美味しいものばかりてべておる様じゃの」
ガイアこと1羽のエミューが、大きく頷いた。
「そうそう、これも美味しいよ。はい」
シンシアは、博士からもらったティムタムの袋を開け、ガイアに渡す。
ガイアこと1羽のエミューが、シンシアの手からティムタムを咥えた。
「うん、うまいのぉ」
1羽のエミューは嬉しそうに、ティムタムを食べた。
「妾にも」
「妾にも」
「妾にも!」
「妾にも!」
「妾も!」
「妾もじゃ!」
すると、数羽のエミューが次々に声を上げ、シンシアの周りに群がった。
「えぇ〜、ちょっと、ガイアちゃん……。」
シンシアは、周りに群がってくるエミューたちに、たじろいだ。
「今回は、ガイアちゃんのおかげだしなぁ。シンシア、残り全部あげちゃったら? またあとで買ってあげるからさ」
博士が、笑いながら言う。
エミューに取り囲まれておどおどしている娘も可愛らしい、と思う博士であった。
「うん。わかった」
シンシアはティムタムの袋を開け、次々にエミューたちに渡していった。
「うまい!」
「最高じゃ!」
「甘いのぉ!」
「ちょっと、それは妾の分じゃ!」
「妾のを取るでない!」
「ん〜、美味じゃ!」
地母神ガイア、こと数羽のエミューは、4本のティムタムをペロリと平らげてしまった。
「ん……。」
博士は、考えた。
地母神ガイアの意識は1つなので、ティムタムは1本でよかったのではないか……と。
そして、取り合っているふりをしていただけだ……と。
シンシアも、自分の分のティムタムを死守しながら、それを堪能した。
(くぅぅぅ、またもや俺の分はないのかぁ……。)
レイアの腕の中では、アムルが物欲しげに、シンシアとエミューたちを見つめていた。




