悪の研究室
このゼウスの過去編では、みんな日本語で会話します。
その研究室は南極大陸にある。
マイケル・ワトソン(Michael Watson)が、研究室に入って来た。
組織専用の軍服のような衣服の胸元には、『SPS』と書いたワッペンが貼り付けてある。
組織では、一つの研究室を任されている。世間で言うところの教授みたいなものである。
「この先で捕らえて来た面白い実験動物だそうだ。組織のために、うまく使えるようにするのが、私たちの仕事だ」
マイケルは、研究室に入って来るなり、声をあげた。
彼の後ろには、兵士が荷台を押している。その荷台には、大きな熊みたいな生物が乗っていた。
「わかりました」
研究室の中で実験をしていたウェイは、手を止め、頷いた。
彼は、研究者のウェイ・ヤン(Wei Yang)である。黒髪の痩せ型で、年は38歳。研究者らしく、白衣を着ている。
この研究室では、マイケルの部下だ。
ウェイは、手にしていた実験器具を実験ベンチの上に置き、マイケルの元に駆け寄った。
「これですか?」
ウェイは、兵士によって部屋に運ばれてきた生物を見て、驚いた。
ウェイの目の前には熊に似たような生物が横たわっていた。腕はなく、足にも火傷を負っていた。ほぼ死にかけの状態である。
「絶対に死なせるな。重要なサンプルだ。この熊を制御し、雷を操ることが、私たちの役目だ。これは、この熊が持っていたものだ。何か意味があるかもしれない。念のために、持っておこう」
マイケルは、30cmほどの短い杖を、研究室のベンチに置いた。
「とりあえず、治療を急ぎますね」
ウェイは大急ぎで、ゼウスを人工心肺に接続し、頭、手足、などに治療を施した。
ゼウスは目を覚ました。
彼が目を覚ました時、彼は、天井から吊るされていた。
手や足に感覚はないが、その付け根にじんじんとした痛みがある。そして、後頭部にもうっすらと痛みを感じていた。
(うん、なんだ、首も動かない)
ゼウスは、眼球を動かし、あたりを見回した。
そして、状況を把握した。
どこかの研究室の中だ。
部屋の中は、ゼウスが見たこともない機械で埋めつくされている。
(どこだ、ここは? どこかの研究室か何かの中か? 人間は、俺をどうするつもりなんだ?)
ミサイルの爆発で失ったのであろう。手足はない。そこには、手足の代わりにケーブルが生えていた。
頭の後ろの感覚もない。意識ははっきりとはせず、どこか朦朧としていた。
ゼウスは、何日の間、何ヶ月の間、この部屋で過ごしただろうか? 時間は全くわからない。
ただ、ずっと、朦朧とした意識の中で、考え事をして過ごした。
死ぬことも許されず、ただ生きながらえさせられている。
ある日、動きがあった。
「組織は、早速、これを使いたいらしい。実験がてらに使いたい目的もあるらしい。船に積んで、出港するんだ」
マイケルが言う。
「船ですか……。」
ウェイは、小さく驚いた声を出す。
「そうだ、船だ。とある船を襲うことが目的だ。あの船には貴重な技術と大勢の研究者が乗っているらしい。組織の戦力と物資の補充のためにどうしても手に入れたい。私は他に用事があるのでここに残るが、君が組織の期待を背負っている。頑張って来てくれ給え」
マイケルは言った。
「わかりました」
ウェイは、頷くしかない。
研究室では、上司の命令は絶対だ。
ゼウスは、実験器具と共に船に運びこまれる。複数の兵士たちの手によって、迅速に作業は終えられた。
船の中の実験室は瞬く間に整備された。
ウェイは不安を抱えながらも、自分専用に整備された小さな研究室に、悦に入っていた。
自分だけの研究室。それに憧れるのが、研究者である。




