海賊船再来
シンシアは、大城戸博士の教授室で遊んでいた。
頭の後ろで二つに結んだツインテールを、ぶらぶら揺らしながら、教授室に置いてある豪華な椅子の上で、椅子と一緒にくるくると回転していた。少し寒くなったといえ、シンシアはまだ薄いワンピースを着ている。この白のワンピースがお気に入りなのだ。
さーべるちゃんは、椅子の脚元で、横たわっている。目を閉じて、静かに寝入っている。尻尾が時折、パタパタと動く。
「ねぇ、パパ。もう少しで、わたしの神殿があったところにつくよ。近くに寄れたら、何かヒントが得られるかもしれないよ」
シンシアが回転しながら言う。
「そうだね。今度、パーズの航路を変更できないか会議で聞いてみるよ」
博士は、パソコンに向かいながら、シンシアに返事した。
博士は、今、論文を書いている。
ベニクラゲの人工合成を報告するための論文だ。ウニとシロイヌナズナの論文は、まだ実験データが足りないため、書き出せない。それらが準備できるまでに、ベニクラゲの方を終わらせようと、急いで執筆中なのだ。
ウウゥゥゥゥー!!!
サイレンの音が実験室にけたたましく鳴り響き、すぐにスピーカーから船内放送が流れた。博士は、キーボードを打つ手を止め、耳を澄ます。
「非常事態です。国籍不明の船が、本船に接近しています。各自部屋に戻り、鍵を閉めて部屋に待機してください」
「また、海賊かなぁ?」
博士は呟く。
「だよね。じゃあ、わたしが退治しに行く! 行くよ、さーべるちゃん」
シンシアは、椅子から飛び下り、教授室を飛び出した。さーべるちゃんもすぐに目を覚まし、起き上がる。
「あぁ、シンシア、待って!」
博士も立ち上がり、急いでシンシアの後を追った。
シンシアはさーべるちゃんの背中に乗り、パーズの屋上展望台へと向かった。この船の全体が見渡せる、この船で一番高い展望台である。
空は曇っていた。
黒い雲が空一面を覆っている。潮風はビュービューと低音で強く吹き、シンシアのツインテールを激しく揺らす。シンシアの横では、さーべるちゃんも淡い金色の毛を風になびかせていた。
「わー、すごい天気だね。そして、なんだか不気味だね」
博士も、少しばかり遅れて、展望台にやってきた。シンシアの横で、真っ黒な空を見上げ、声をあげる。
うす暗い闇の中を一隻の大きな船が近づいてくるのが見える。海賊船の甲板の上には数人の海賊が立っていた。それぞれ小銃を携えている。
「くるね」
シンシアは右手にぎゅっと力を込める。
海から、海水でできた一本の柱が現れる。パーズの前方に、海面から、直径30メートル程の巨大な柱だ。
「ほぉー、やっぱりすごいねぇ、シンシアは」
博士は、巨大な海水の柱を見上げ、素っ頓狂な声をあげた。
その時、空が光った。
「あ、危ない!」
光に反応し、シンシアは手を挙げた。
バリバリバリィ!
稲妻が、パーズめがけて落ちてきた。
同時に、海上から海水の柱が伸び、パーズの上空で稲妻を受け止める。
ドガーン!
バシャーーーン!
そして、大きな音とともに稲妻は、大海へと放電された。海水の柱は稲妻とともに砕け散り、膨大な海水が、展望台の上の2人と1匹を襲った。
しかし、パーズは無傷であった。
「ん、助かったのか?」
顔にかかった海水を袖で拭いながら、博士は、ゆっくりと目を開ける。
全身に海水を浴び、ワイシャツからズボンまで、びしょ濡れである。長袖のワイシャツは、水を吸って色が変わってしまっている。
博士の足元では、さーべるちゃんが「キューン」と怯えていた。博士同様に、海水でびしょ濡れになっていた。さーべるちゃんの頭からは、海水が滴り落ちている。
「シンシア! 大丈夫か?」
博士はすぐに、シンシアの方に目を向ける。
博士の目の前で、シンシアは、びしょ濡れになりながらも、直立していた。
ずっと船の方を見つめている。海水を吸ったワンピースが、細い足に絡まりながらも、ビラビラと強風に晒されていた。
「なんで? ゼウスが?」
シンシアが、目を見開き、呟いた。
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