海賊船破壊
稲妻は、明らかにパーズを『狙って』いた。
ただ普通に、稲妻が落ちてきた可能性もある。
しかし、シンシアには確信があった。なぜなら、稲妻を操れる人物をシンシアは知っていたからだ。それは、海神ポセイドンの弟である最高神ゼウスだ。
「パパ、あの船にゼウスが乗っている。今の雷は、ゼウスの力だよ」
シンシアは博士の方を振り向く。
最高神ゼウスは、天空を司る神であり、雷を自在に操る強大な力を持っている。人間界では大きな熊のような姿をしているが、南極大陸に住んでおり、人間と会うことは無い。無いはずである。
「そうなのか? それは、誰だい?」
「最高神ゼウスは、天空を支配している神様だよ。そして、わたしの弟だよ」
博士は、ゼウスという名前は神話で聞いたことがあった。
海神ポセイドンの生まれ変わりのシンシアが目の前で、海水を操っているのだ。最高神ゼウスが、雷を操り、研究船パーズを攻撃してきたと言っても信じざるを得ない。
しかし、なぜ最高神ゼウスが海賊船に乗っているか、その理由はわからない。
「そうなのか。なんで、そのゼウスが、あの船に乗っているんだい?」
と博士。
「それは、わたしにもわからない。でも、確かめなきゃ」
そう、シンシアにもわかるはずがない。ゼウスが、海賊船に乗っている理由も、研究船パーズを襲う理由も、わかるはずがない。
「でも、どうやって?」
博士は、再び聞き返す。
「あの船に乗り込むんだよ」
シンシアは、目線で海賊船を指した。
その海賊船は、じわじわと研究船パーズに近づいて来ている。
「船に乗り込む? 無茶だよ、それは。シンシア。僕たちは戦えないよ」
博士は大きく首を振る。
博士は研究者である。もちろん、戦闘能力も戦闘経験もない。シンシアは海上では無敵の力を誇る。しかし、船の中では、どれほどの力を発揮できるかわからない。
「じゃあ、乗っている人間の数を、できるだけ減らそう」
シンシアは、両手を大きくあげる。
大きな海水の柱が3本、目の前の海賊船の周りに現れた。研究船パーズから少し離れた海上である。
「すごいね、そんなこともできるんだ。さすがだねぇ、シンシア」
博士はシンシアの頭を撫でる。海水で湿った金色の髪がギシギシと音を立てた。
「パパァ。ちょっと、今は、やめてよぉ。狙うのが難しいから。船を沈めないように手加減するのは難しいんだよ」
船の中に用があるため、船を沈めてはならない。そこで、船を沈めないように、乗っている船員だけを倒す必要がある。
ブシュー
ブシュー
海水の柱から、次々にレーザーのように海水が放たれる。
その海水に当たり、甲板の人間は、次々に吹っ飛んでいく。
「それと、操縦席は、あそこ、ね」
シンシアは、手を、くるっ、と回転させる。すると、大きな水の塊が、海賊船の目の前に形成された。そして、その塊は、操縦室めがけて、飛んでいった。
ガシャーン
鈍い音が操縦室に響いた。
操縦室の窓ガラスは割れ、中にいた数人の船員が海水に巻き込まれ、海水とともに、海へと流される。そして、ボン! と大きな音とともに、操縦室に爆発が起きた。操縦室を失った船は、そのまま静かに前進してくる。
「おっと、このままだと、ぶつかっちゃうな」
シンシアは、胸の前で、左右の手を握り合わせた。
グシャアァ
海賊船の後方で大きな波がたち、船体後方のエンジンを、プロペラごと、ひねり潰した。
「これで大丈夫か」
エンジンを失った海賊船は、徐々にスピードを落とした。
そして、力なく波にゆらゆらと揺れている。
博士は、シンシアが、海水を使って海賊船の船員を次々に倒していくのを、彼女の後ろから、呆然と見守っていた。ゴクリと唾を飲み、目の前で起こっていることを、目に焼き付け、自分の脳にきちんと理解させていた。
実の娘がやっていることとはいえ、現実離れし過ぎる状況は、意識的に理解する必要があるのだ。




