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研究職の中年が研究もせずに魔法でああだこうだでキリキリ舞い  作者: ディ・オル
第二章~学校編 vol.2~
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授業開始

 美崎は出鼻をくじかれ、いや、へし折られながら指定された教室へと向かった。

 教室に到着すると、授業を受け持つクラスの担任教師は既に来ていた。美崎の授業の前、この教室は使われていなかったようで、教師と、早めに移動してきた生徒――これから美崎が教える生徒達――が数名、といった塩梅だった。教師と軽い挨拶を交わし、自己紹介をする。人の好さそうな壮年男性で、毛根は半分ほど死滅しているようだが楕円形の眼鏡からは理智的な内面が窺えた。

 教室の大きさは二十から三十帖程だろうか。机とイスが多数並べられており、正面には上下二段のホワイトボード。床は木製だと思われるが、特殊な加工が成されているのか、傷一つ付いていなかった。教室入り口の反対側の壁面には大きなガラス窓が数枚設えられており、青空と陽光を映しだしていた。こちらも同様に、傷一つ無く、曇りも無い。

 授業が始まるまで、あと十分程度である。音無は教室内を見学していたようだが、暫くすると女子生徒に捕まり、質問攻めにあっていた。どうやら早速マスコットキャラと化したようである。


 その間、美崎は担任教師――名前は持田さんと言うらしい――と話をしてみる。今から授業をするクラスについて尋ねると、学年はバラバラである事が分かった。高校一年生から三年生までのようだが、学校側からの推薦が無いと参加できないらしい。推薦してもらうには、成績や授業態度、その他部活動などの事情を勘案して、教師から承諾を得なければならない。

 と言うのも、今回の美崎の授業は特別に設けられた枠であり、全生徒が受ける程のキャパシティを擁してなかった。そこで人選を行い、集めたのがこのクラス、言わば特別クラスという事である。


 *


 俺は持田さんと授業の段取りを打ち合わせた。俺は呼ばれるまで教室の外で待機していて、持田さんに紹介されたら部屋へ入って自己紹介する事となった。俺を紹介した後、持田さんは教室の隅に移って、授業を傍観しているらしい。何かあれば頼ってください、との事。

 なので、授業の冒頭だけ喋ってもらい、俺にすぐバトンタッチすると思われる。


 間もなくして、授業が始まった。時間にしてお昼前。四時間目の授業である。俺は外で待機していたのだが、始まる前に、教室に移動してきた何人かの生徒に話しかけられた。やはり今日赴任してくる臨時講師については、校内で話題になっているらしい。生徒らが口々に質問を繰り出してきたのだが、一人ずつに対応する時間が無かったので、簡単な質問(というか会話)にだけ答えて「あとはお昼休みに、ね」と促した。これで昼食の時に、赴任早々、ぼっちで飯を食う心配は無くなった訳だ。予定通りだ。

 しかしアレだな、可愛い女子高生に囲まれると思わず鼻の下が伸びてしまうな。イカンイカン……授業で話す内容、なんだっけ、フフ、アレが噂の黄色い声か。ワイシャツから透けたピンクの――アレ? マジで何だっけ。話す内容が飛んでしまったな。

 幼少時に家族が事件に巻き込まれた事で暗い青春を送った……という訳じゃないけど、俺は青春時代は悪友たちとイタズラばかりしていたからな。それから魔法の探求なんかをしているウチに、女性経験が無いまま三十路を過ぎた訳で。まぁ、二十歳近く歳が離れているから、今回の高校教師生活において間違いなんて起きない筈だ。そう、ロリコンではないのだ。でも可愛いな、とは思った。


 開始を告げるチャイムが鳴った。暫く様子を窺っていた所、持田さんの「じゃあ早速授業をしてもらいましょう」という声が聞こえてきた。入って来てください、と言われて、俺はガラガラと教室のドアを開ける。生徒数は十人程。特別クラスだけあって少ないな。だが緊張する……。奇異の目に晒され、何だかむず痒い。教壇に居た持田さんと視線が合った。持田さんは教壇から少しずれ、俺はそこへ内心の動揺を押し殺して歩いて行く。

 ちなみに音無だが、教室の一番後ろに席が用意されていた。授業が始まる前に別れたのだが、隣の女の子と親しげに話しており、早速順応しているようである。歳の差はあるけど、大きな問題は無かったらしい。さて――


「朝会で既に一度お話していますが。今日から臨時の先生を、二週間やらせていただきます。美崎です。よろしくお願いします」


 開口一番はキチンと押さえておきたいので、少々堅いかもしれないけど丁重に挨拶をしてみた。すると、生徒の反応は今一つ。まぁそうだろう。これも予想通りだった。

 仕事なので真面目に取り組むつもりなのだが、本来の俺は思いのほか適当で、放埓な人間なので、取っ付きやすいと自負している。それを少しでも分かって貰えれば、打ち解けるのも難しくはないかな、と思う。なので俺はそのまま続ける。


「短い付き合いだけど、分かりやすくて、皆の興味が出るような授業を心掛けたいと思います! このあとは教室でお昼を食べるので、良かったら一緒に食べてくださーい」


 少し、くだけた口調に変えながら喋ってみた。「はーい」という間延びした返事が聞こえて視線を向けると、一番後ろに座っていた音無だった。お前かい! いつも一緒にメシを食っているだろうが! いや、でもお陰で少し教室の雰囲気が和んだようだ。生徒達の表情も先ほどより柔らかくなったように見える。ナイスだ、音無。


「では、まず出席を取ります! ――」


 持田さんに事前に説明を受けた通り、俺は生徒の出席確認を行う。出席簿を渡されていたので、上から順にリストを読み上げていった。

 少し精神的に余裕が出てきて、生徒の顔と名前を覚えるように努めた。名前を呼んでいて気付いたのだが、何人か見た事のある顔の生徒も居た。さっき、学生寮の自販機で出会った奴も居る。


紀乃国きのくにさん!」


「はい!」


黒市くろいち君!」


「ハイ」


 順々に名前を呼んでいく。そもそも参加している生徒数が少ないので、あっという間に出席確認も終わりそうである。もう五十音でマ行だ。……ええと、次の生徒は……あれ? この名前は


「三島君?」


 俺のやや疑問気味の問いかけに、野性味の溢れる低い声で「はい」という返事が聞こえた。

 教室に入った時から一人だけチンピラみたいな奴が居るな、とは思っていたケド! いや、だってヤバい奴だったらどうしようと思って、見ないようにしていたんだもの!

 まさか、村長の孫の三島君だったとは! 第一話以降、ほとんど出番の無かったあの三島君だ!

 相変わらずタフそうな外見で、一人だけ机と椅子が小さいんじゃないの? と見紛う程、他の生徒と体格差のある三島君。六徳学園に通っていたのか。……っていうか高校生だったんだ。出発前、村長が言っていた「知っている顔が居るから恥ずかしい」って、こういう事だったのかな……。


 安良木やすらぎさん、とリストの最後の名前を呼んで、出席確認は終了した。全員出席しているようだ。

 フゥ! 帰りたくなってきたぞ? ……あ、というか、この安良木って女の子、今朝俺が校長室への道を尋ねた女の子だな。全くもって奇遇である。その横に座っているのは音無で、先ほどから時折会話に勤しんでいる。何を話しているのだろうか。音無はいつもポーカーフェイス(というか表情に乏しい)なので、顔から探れる情報は皆無だった。安良木という女生徒は明るく、活発そうな印象である。

 そんなことを考えながら、俺は次の進行へと移る。

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