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研究職の中年が研究もせずに魔法でああだこうだでキリキリ舞い  作者: ディ・オル
第二章~学校編 vol.1~
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迷子

前回のあらすじ。

泊りがけで臨時講師をする事になって、音無と一緒に町まで来た。

「ここか……、マジか」


 美崎研究所が廃校をリフォームして作ったものだというのは前にも伝えたと思う。その廃校の新しい移転先がこの学校らしい。正確に言うと、移転ではなく合併されたのだ。周囲の小さな学校すら呑み込んで、この学校は出来あがった。俺が通っていた当時よりも、数倍は大きい。直径にして十キロメートル以上が学校の私有地なのではないだろうか?

 それもその筈、中高一貫型であり、中学の校舎と高校の校舎が併設されている。外周五百メートルはあろうかという運動場に、体育館、学生寮も附属している。なんとカフェまで付いている。現代、二千年代の日本であれば、珍しくは無いだろう。だが驚くのはそれだけではないのだ。

 校門は幾つかあって、俺達が居る場所――正門には、警備員が常駐しており、その上、駅の改札のようなものがある。ここでは、生徒達がカードを端末にかざして登下校しているようだった。個々を認識するICチップが組み込まれているのだろう。魔法だけではない科学の発達。祖父の代の頃から、徐々に魔法に対する耳目が集まり、研究が行われ始めたのだと言うが、近年ではその進化は顕著だった。少なくとも、俺が通っていた当時は、校門は正門と裏門の二つで、ヨボヨボの警備員は居れど、アコーディオン式の門扉しか無かった。

 ここに来て、手汗をじわりと流し、今更ながらに緊張する俺。しかし、もう戦いは始まっているのだろう。偶にこちらを観察するような学生の視線を感じるのだ。こんな所で挙動不審になっていては舐められてしまう。そうすると授業に支障を来す可能性がある。

 とりあえず近くにいた警備員に軽い挨拶をかまし、華麗な手際で入校許可証を提示する。老齢ながらもしっかりとした体格の警備員だった。――促されて専用の端末に許可証を近づけると、扉が開いたのだった。警備員が俺に一礼し、「お話は伺っています、こちらへどうぞ」と案内してくれた。無事校内へと入って行く。

 後で知ったのだが、魔法で変装できる可能性があるため、顔パスという概念がこの学校には無いらしい。学生ならばIDカードを、関係者ならば許可証や証明書を、随時提示しなければならないらしい。村長に貰った許可証にも、ICチップが組み込まれていたようだ。

 高校の校舎へと案内されたので、どうやら高校生に魔法を教えるようである。


「とりあえず、校長先生の所に挨拶へ行かないと……」



 警備員の方は「案内板がございますので、そちらをご確認してください」と、校舎の入り口で曲がれ右をしてしまった。

 俺と音無は早速案内板を見つけたのだが、それは全画面タッチパネル式の液晶端末だった。親切な学校だなあ、と思ったのも束の間、操作はイマイチ分からず、指で触ったら誤作動を起こしてしまい、校長室の場所が分からない。そもそも、この“ブロック”ってなんだろう? 恐らく校舎が分かれているのか?


「余計な情報まで入れるからこうなるんじゃないのか? ってゆうかトイレの数、多っ!!」


 音無も画面に触れて操作してみるが、校長室が分からない。戻って警備員の人に尋ねるのも恥ずかしいし、そもそも生徒の目がある。

 なんかさっき「あの白衣の人、カーディガンなんでズボンに閉まってるのぉ~? ダサーイ」と陰で言われていたし、早く校長先生の所に逃げなきゃ……いや、行かないと……! 学校の朝会で俺達を紹介するらしいし、遅れるわけにはいかない。もし遅れたら「ああ、やっぱ見た目通り不潔で惨めな人なんだな、このカーディガン野郎!」というレッテルを貼られてしまう。それは避けたいし、有名な学校らしいから、初日から泥を塗る訳にはいかない。村長への信頼にも関わる。


 誰か……、その辺に居る学生に聞かなくては……よし、そこの女の子、君に決めた!!


「あの、ちょっといいかな?」


「はぁ、なんですか?」


「校長先生の部屋ってどこかな?」


「あ、それなら第四ブロックの一番上の階ですよ? ここは第一ブロックですから、そこの角を右に曲がって――――かくかくしかじか」


「あー、そうか! ありがとうね!」


「あ、あの! もしかして今日から来る臨時講師ってあなたですか?」


「そ、そうだけど……、何かな」


 どうやら生徒の間では、今日赴任してくる臨時講師について話題なのかもしれないな。でも今はちょっと、急いでいるんだ! 


「へぇ、みんなに伝えなきゃ……いや、なんでもないです。あ! 先生早くしないと朝会始まっちゃいますよ!」


 そう告げると、女の子はパタパタと走り去って行った。可愛いな、とかそういう感情はこの際、犬にでも食わせておく事にして、俺は携帯電話を開き、時刻を確認して目が飛び出そうになる。

 現在時刻は七時半過ぎ。この荷物を置いて、校長に挨拶をして、朝会に出る。間に合うか? 朝会って何時からだ!? ああ、もう! 大事な事だってのに、村長、なんで忘れちゃうんだよ!

 ええと、やばい……。さっきの少女はブロックって言っていたけど、ようは区画が分かれているって事だ。この巨大な校舎だから、ブロック一つ分がえらく広いに違いない。


「音無! 君は筋力強化できたっけ?」


 テンパる俺に、マイペースな音無は首を横に振って答えた。


「そうか、じゃあ俺の背中に乗って!」


 ギターケースを右手で持ち、背負っていたリュックを左手で持つ。リュックを背負っている音無ごと負んぶして、魔法で脚力強化を詠唱した。そしてそのまま全速力でダッシュしていった。風を切るように、獣のように、走り抜けた。その際「廊下を走らないで!」という声が聞こえたのだが、他の教師だろう……。今度謝罪しようと思う。


「へぇ、見た目はともかく、やるじゃんあの先生」



 柱の陰から少女は始終を見ていた。――先ほど美崎に道を教えてくれた親切な女子生徒だった。


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